第14話 僕らの活動は今日も遅めにスタートする④



『今日は活動日ではありませんが、特別にサークル活動を行います。森先生には許可をとってます』


自身で打った文章を読み返し、ため息がこぼれる。


「これを打ったのは私ではない。私であっても私ではない」


頭の中でその言葉は反芻する。


―—————ああ、そうか。今日は金曜日。


私が一週間の中で最も暗い日。だからこんな書き方をしてしまうんだ。


すべてのことをストレスを感じる。気を抜けば何かに八つ当たりしてしまいそうだ。


この特殊な私の秘密を愛子は知っている。


本来、金曜日にはサークル活動はしていなかった。

活動といっても愛子と二人で話すだけの時間だけど…………


元より、私が金曜日を得意としてないことを知っている彼女は金曜日はお休みにすることを薦めてきた。私としてもそれはありがたいことである。


そしてふと思い返す。


いつからだろう、私が私を客観的に見るようになったのは。




私のことなのに、私じゃない誰かが見ているような気分に襲われる。


めまぐるしく変化し続ける自分がいることは『普通』ではない。


小学生の頃、子供ながらに母親に相談した時は勘違いであると一蹴されてしまった。


しかし増幅するこの気持ちは次第に外に漏れ出すようになり、その様子を見た両親からは不安そうな表情でみられることが多くなった。


誰にも迷惑をかけまいと、学校ではこのことを隠していた。

うまく取り繕い、誰にも悟られないようにしてきた。


それでもやっぱり綻びが出ることはあったし、ほとんどの人はそれを知ると私から離れていった。


中学三年生の頃、隣の席だった男の子にある日


「お前ってなんか気持ちわりー」


そう言われたきり彼が私に声をかけることはなかった。


そんな事が何度も続き私の心はだんだんと脆くなるのを感じた。


ただ、離れていく子たちの気持ちも分かる。みんな『普通』ではないものに積極的に関わろうする人は少ない。


私の周りから本当の私を知る人が減る度に、私の中でその日の私が死んでいくような気がした。


何人いたかも分からない私はやがて7人までに減り、曜日ごとに定着するようになった。


はじめは日ごとに人格が決まることを良しとしていたが、事態はそう簡単にはいかなかった。


昔のように一日に何回も変わっていれば情緒が不安定な子と出来たものの、日ごとに固定された人格はかえって周りの不信感を増大させた。


だから私は自分を閉じ込めることにしたのだ。

ありがたいことに見てくれは良いほうだったため、黙っているだけで周りが勝手に私のキャラを付けてくれた。


「優等生」「大和撫子」「クールビューティー」


私はみんなが好いてくれる私を演じていた。あの日、愛子に出会うまでは。



父の仕事の影響で宇宙に関する職に進みたかった私は、宇宙関係者が卒業した大学を探した。


明文大学もそのうちの選択肢のうちの一つであった。


愛子とは高校三年生の夏に出会った。


知り合いのいないオープンキャンパスで一人で昼食を食べる私に彼女は突如声をかけてきた。

正面に座る彼女の話を聞きながら、二人でお昼を食べたことを昨日のことのように思い出す。


別れ際に連絡先を交換し二人で大学に受かることを祈った。


定期的に連絡を取り、お互いのモチベーションを高めあった。


結果、私も愛子も明文大学に合格することができた。


二人で電話口で泣いたことも今となっては良い思い出だ。


そして何より幸いだったのは高校の同級生は誰もこの大学に来なかったということ。

新しい環境で新しい自分を作り、今度こそは失敗しないようにしようと思っていた。


愛子も本当の私を知ったら離れていくかもしれない。

仲良くなるにつれ膨らんでいった不安が私の心を閉じ込めようとした。


しかしそんな不安も私の杞憂だったようで、卒業後初めて彼女と会った時、入った喫茶店で愛子は口を開いた。


「杏香が思ってるほど私たちの関係は浅くないよ」


たった一言、その一言が私の心の扉の鍵を開いた。


「だから杏香のこといっぱい知れるように私ともっと仲良くなってほしいの!」


ああ、私ってばちょろいなあ。


「うん…うん…………」


自然とあふれ出した涙に愛子は驚きながらも、泣きながらうなずく私をそっと抱きしめてくれた。


『ああ、彼女になら裏切られてもいいかな』


そう思った私は愛子にその場で秘密を話した。


私を知ってくれる人がいる。あってそれほど時間もたっていない彼女がどうして私の事をそんなに思ってくれたのか。


疑問ではあったが、それも気にならないほど愛子のことが好きになった。


彼女にはこれからも感謝が尽きないであろう。



今日サークル活動をすることを薦めてくれたのは愛子だった。


私自身、不安があることは否定できないがどこか期待しているような気もする。


――――――――そして


『斎藤弘樹君』


まだ話していない彼と私の関係を、あの日のように愛子にはちゃんと伝えたい。


ただそんな日が来ることを願いながら、そのスタートが今日であると感じる。


これまでとは違い既読が2つもつくことに喜びを覚えた。
















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