第12話 僕らの活動は今日も遅めにスタートする②


 金曜日の朝、ふと僕は目覚ましのアラームが鳴る前に目を覚ました。


 少し空いたカーテンの隙間からは朝日に反射し光る海が見える。


 視界に目を細め、手を上にあげ体を縦に伸ばす。

 漏れ出た息に呼応するようにちょうどアラームが鳴った。


 時刻は午前6時を指している。空を見ると宵の明星がだんだんと薄まっていた。

 寝巻きのまま、キッチンに向かいお湯を沸かす。

 棚からティーバックを出しマグカップの中に入れた。


 誰もいないリビングに向かって僕は「おはよう」と返事がないことを知りながら、朝の挨拶をする。

『ちゃんと挨拶を出来るようになりなさい』

 これは父が言っていた言葉だ。


 ふと視界に入った机の上には母からの置き手紙があるようだが、おそらく僕が見ることはないだろう。


 電気ケトルからスイッチの切れる音が湯沸かしを終えたことを僕に伝える。

 ケトルをもちお湯が零れないようマグカップにお湯を注いだ。


 リモコンの電源ボタンに手をかけテレビをつける。

 今日の天気と気温を確認し、着ていく服を選んだ。


 どうやら今日は少し涼しい日のようだ。


 リビングの壁に立てかけてある時計を見ると時刻は6時42分を指していた。

 毎朝のルーティンをこなし40分ほどで支度を完了した。

 あと8分ほど余裕があることを確認し僕はソファに深く腰掛けた。


 目の前にある少し冷めてしまった紅茶を一気に飲み干す。


 こんな生活を2年近く続けていると、いつも通りでないことが落ち着かない。

 いつも通りに過ぎた朝の時間も、今日はなんだかそわそわした。


 心のどこかで何かに過度な期待をしている?

 心と体の境界線が曖昧になる。

 ずっと体の奥底に閉じ込めておいた僕の心。

 堅牢な檻に閉じ込めていたからこそ、自分というものを客観的に見つめなおすことができた。

 しかし、その檻も鍵が開けられ、中に閉じ込められていた心は徐々に外に出ようとしている。



 自分がなんだか分からない。

 自分がどういうものであったか、分からなくなることにひどく恐怖を覚える。


 だが、その恐怖さえも今は少しだけ心地いい。


 変えてくれた出来事が何であるかは、もう考えなくても分かる。

 それでも久しく解放された恐怖が、心にブレーキを掛けることだけが今はただ苦しい。


 気が付けば時刻はもう7時51分になっている。

 玄関に行き開いた下駄箱の中には、なにやら見慣れぬ新しい靴が置いてあった。

 おそらく母からのであろう。


 僕は少し履き心地の悪いその靴を履いて玄関に立ててある写真立てに一瞥する。


「行ってきます……………父さん、兄さん」


 重い音がして閉じた扉に僕は鍵を掛け、家を出た。











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