第9話 その言葉は夜を告げる③


 時計が進むごとに僕の鼓動は早くなり、ついにその針の速さを心拍数が追い越した。

 短針が傾くにつれ、太陽もだんだんと西の方角へ消えていこうとしている。


 あまりの緊張に今日の授業はまともには聞いてられなかった。

 僕を知る誰かに会いに。その子が誰かは見当もつかない。


 何故僕がその子に会いたいと思ったのか。渡辺さんに会う口実が欲しいから?

 本当は僕を待つ子の事はどうでもいいのか。


 答えは今は分からない。


 僕はポケットに入れた教室が書かれた紙を再度握りしめ、目的の教室へと足を向けた。


 背中からじりじりと赤く染まり夕日となった太陽が照り付ける。

 まだ春であるはずなのに、僕は額には汗が浮かび体の奥から熱が生じる。


 改修工事を重ねた本部棟のロビーからエレベーターに乗り、僕は目的の階までたどり着いた。

 本部棟は大学創設当初から唯一の建物で、古くなり普段からも使われることも少ない本部棟


 なんなく教室を見つけ、ドアの前に立った。


 擦りガラス越しでは中の様子を見ることはできないが、中に誰かいることは分かる。


 僕は意を決してドアに3回、手の甲を当てた。


「いいよー入ってきてー」

 最近よく耳にしていた声が聞こえる。渡辺さんもいるようだ。


 ドアを開き、足を一歩踏み込む。


 そこには手を振る渡辺さんと

 ――――茶色のショートカットの女の子。


 あの憂鬱な月曜日の日、教室で見とれた女の子がそこにはいた。


 もう沈みかけ薄紫に色を変えた空に最後の一閃を残そうとした夕日の光が、逆光となって彼女らの姿を影と変えていた。


 彼女が口を開く。


「来てくれてありがとう、そして―――――――――また会えたね」












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