第5話 今日も僕は僕に嘘をつき続ける②


 授業が終わりバスロータリーに向かおうとすると、朝の彼女の言葉をふと思い出した。


 しかしながら僕の中でセットされたマインドは簡単には覆らない。

 それにメモは捨ててしまったから、行くべき教室は彼女に聞かなければ分からない。


 僕は僕を待つその子に悪いとは思いながらも、バスに乗り込んだ。

 これで彼女も愛想を尽かして、もう話しかけてこないだろうと。


 だがそれは僕の甘い考えであったようだ。

 なんと次の日もその次の日も彼女は僕の横に座り、その度に来なかったことを問い詰めてきた。

 次第に他の話題も話すようになり、次第にただの通学仲間となっていた。


 だが一週間ほどたったある日、バスから降りると彼女はそれまでとは違って真剣な表情をする。


『これじゃ申し訳ないや』

 渡辺さんは小さな声で呟いた。

 そのひとりごとは僕の耳に入ったが、敢えて気にしなかった。


 その日も僕は教室には行かなかった。

 行かないことでまた次の日に彼女がまた絡んでくると思ったからだ。

 気を引こうとするその安易な姿勢も次の日、適切ではなかったと証明される。


 バスにいつも通り座ると彼女が僕の横に座ってくる。二人かけの椅子に二人。

 僕は彼女との会話を少し楽しみにしていたが、渡辺さんはその日、バスを降りるまで一言も発しなかった

 僕は何か言おうかと思ったが、何も言わなかった。

 正確には、何も言えなかった。


 なぜならば、僕が隣に座る彼女に話しかける理由など本来ないからだ。

 彼女が話しかけてきて初めて、通学仲間というその関係が成立するのだ。


 バスから降りると彼女が口を開く。

「今日で私が誘うのを終わりにするよ。あとは自分の意思で来て」


 いつになく真剣な顔で話す彼女に僕は思わずうろたえてしまった。


「あ、あぁ。分かったよ」


 彼女はいつものように小走りで去っていった。

 僕は彼女にここまでお膳立てしてもらっても、大事なことに気が付かなかった。



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