第248話ひと狩り行こうぜ2-2

「あっ、ちょっ!? ぇあ、ま、ママどうしましょう!? 泣いちゃいましたよ!?」


 開き直りに定評がある還ちゃんが珍しいくらい動揺している。私は私で頭の中が真っ白だ。

 そ、そうだ、こういう時こそ改めて状況を整理しよう。ええっとー……先輩2人でセクハラして新人ちゃんを泣かせたわけだな?

 ――――炎上だ。


「炎上だ、間違いない、大炎上だ……」

「ママ!?」

「きっとこの後すぐ『【悲報】有名VTuberさん、後輩を泣かせてしまうwww【ライブオン】』みたいなタイトルでまとめサイトに記事が載ってあることないこと書かれるんだ……アンチには『ライブオンですか? いつか本格的にやらかすと思ってましたよwww』とか街角インタビュー風に言われてバカにされるんだ……」

「そ、そんな……!? あ、あれです! 還は事前にママからあえて最低なことを言えって命令されていただけなんですよはい。ママの言うことには従うしかなかったというか赤ちゃんなんで責任とか取れないというかむしろ誰か助けてくださいっていうか!」

「こ、こら! 責任を一方に押し付けるな!」

「えぅー! バブー! バブバブー!」

「還ちゃん。こういう時はね、逃げようとすると逆に燃え広がるんです。罪を認め、誠心誠意謝ることが最良の手段なんですよ」

「山を越え、谷を越え、そしてやがて還る場所、山谷還と申します。28歳の立派な大人です。この度は大変申し訳ございませんでした」

「その公式挨拶使ってるの初めて聞きましたよ。あとお前に恥の感情はないんか」


コメント

:もうだめだ、おしまいだ……

:このやり取りがもうアウトなんよ

:還ちゃんはこんな時くらいブレなさい

:え、マジでやばい感じ?

:こ、これあれだ、ワカラセってやつでしょ?

:イキる前のメスガキ泣かすのはもうワカラセじゃなくてただの事案なんよ(

:なぜダガーちゃんが泣いたのかによるでしょ、不測の事態があったのかもしれない

:ドン引きはありえても泣くほどのやり取りとは思えんかったけどなぁ……こっちが毒され過ぎか?


 あぁ、もうダメだ、これからどうしよう……自分だけならまだしもライブオン全体に迷惑かかっちゃうのが余りにも申し訳ない……。

 そう思い、ほぼ涙目で天を見上げたその時だった――


「ずびぃ! ああぅぅぅ……生ぎでてよがっだあぁ…………」

 

 ダガーちゃんから、私の想像の真逆の言葉が聞こえてきた。

 へ? 今なんて? 濁音交じりだったからすごく聞き取り辛かったけど、生きててよかったって言わなかった?


「――ママ。今のは現実逃避したかったが故に聞こえてしまった還の幻聴ですか?」

「いや、私も多分同じことを聞きました」

「……還たちを燃やす為だけに生きてた説ありますか?」

「そんな辞書で『人生を棒に振る』を引いた時に、意味の例に書かれてそうなことする人間いないでしょ」

「ぅぐう! わだじ、このライブオン感を間近で見たくて見だくて…………ライブオンに入れてほんとよがっだ、頑張りが報われてよがっだあああああぁぁーー!!」


 ちょちょちょちょ!? もうすすり泣きどころか大号泣なんだけど!?

 

「だ、ダガーちゃん? とりあえず一回話した方が良さそうだから、泣き止んでくれるかな?」

「はいぃ…………う゛う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ーーーー!!」

「だめだ、むしろ感極まってる……そうだ還ちゃん!」

「は、はい? どうしましたか?」

「ガラガラです! ガラガラ持ってるでしょ! こんな時こそ出番ですよ!」

「!! なるほど! ほーらダガーママー? ガラガラーガラガラー! 初めて本来の用途で使いました!」

「うわ、言われて一秒でガラガラ出せる女こわ。ママ呼びしてる相手にガラガラ鳴らしてるアラサー女こっわ」

「ママが言い出したことでしょ!?」

「ああああああぁぁぁおもじろいいいいぃぃぃ!!!!」

「「泣きながら笑ってる!?」」


 もうどうしたらいいのー!!!!

 

「あ、あのーダガーママ? お願いだから落ち着いてくれませんか? 今コメント欄で還の株価が絶壁かってくらい大暴落しているんですよ。ママを売った赤ちゃんとして新たな火種になりそうなんですね。早くそっちの誤解を解かないと今後に響きそうでしてはい」

「それは誤解じゃないだろ」

「本当にすみませんでした……」

「はぁ、今回はその謝罪に免じて許してあげましょう。ダガーちゃんの緊張を解くために協力してくれていたのは本当ですし」

「なんたる慈悲……これが聖母ですか……」

「それに、あれじゃ還ちゃんは炎上しませんよ」

「え? なんでですか?」

「最初から底辺だったものが下がっても、誰も大して気にしません」

「…………ガラガラガラガラ……」


 未だ泣き止まないダガーちゃんにあたふたしてしまうが……これってもしかして危機は脱したのか?

 今までのダガーちゃんの言ったことから推測するに、ダガーちゃんはライブオンが好きで入ってきて、私たちのやり取りを間近で見れたことに感激して泣いた――そういうことなのでは?

 

コメント

:まさかの歓喜の涙なのかwww

:夢に見た世界が目の前に広がったんやろなぁ

:そういうことなの!?

:これは読めなかった

:なにはともあれ燃えなそうでよかった……


 うん、そんなわけないかなと悲しいことに自分で思っちゃったけど、コメント欄を見てもそう解釈している人が多い。

 なんだ~もうほんと心臓に悪いよーーーー!! 安心して私の方が泣きそうだわ!

 でもいつまでも新人ちゃんが泣いてるのは絵面がやばいか。なんとか泣き止んではくれないかな……。


コメント

:あれ? 記憶喪失なのに泣くほどライブオン好きなの?


「……………………」


 あっ、泣き止んだ。

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