第187話ちゃみちゃんの様子が……3
『ほらちゃみ先輩! 今日はASMR教えてくれるはずだったのですよ! いつまでも抱きついてないで準備をしてほしいのですよ~』
『ぅぅぅ……準備したら褒めてくれる?』
『はいはい、うんと褒めてあげるのですよ~。だから今は我慢なのですよ~』
『はぁい……それじゃあ機材取ってくるわね』
私の心配をよそにうまく言いくるめてちゃみちゃんをコントロールするエーライちゃん。流石の対応力だ。
ちゃみちゃん、今ならまだまともな配信に引き返せる! しっかりするんだよ!
コメント
:完全に先輩後輩逆転してるやん
:ちゃみちゃんは小学生相手にも先輩できなそう
<祭屋光>:それじゃあ私も丁度いいからお手洗いにレッツゴー!
:行ってらっしゃーい
:俺もトイレ行くか~
:行ってらっしゃーい
:んじゃあ俺はオ○ニーしてくるかな
:イってらっしゃーいってやかましいわ!
<彩ましろ>:あわちゃん、時には自重も大切なんだよ
<心音淡雪>:なんで私!?
:淡雪ちゃんや、酔っ払いは黙ってトイレにでも行ってきなさい
<心音淡雪>:だからなんで私が悪いみたいになってるんですか!? あと酔っ払ってないし!
『今日はですね~、すっごい本格的なASMR用のマイクを紹介していただける予定になっているのですよ~! なんと、ダミーヘッドって言うやつで、形状が人の頭部を丸ごと模した真っ黒な模型になっていて、その耳にマイクが付いているらしいのですよ~! 人の耳元に話しかける要領で臨場感のあるASMRができるとか! こんなものまで家にあるなんて、ちゃみ先輩の音へのこだわりはプロフェッショナルなのですよ~!』
あ~、確か前にちゃみちゃんの家にお邪魔してコレクションを見せてもらったときにそんなのもあったなぁ。
いいねいいね、ここからASMRの極意をエーライちゃんに伝授していく流れを作れば、企画倒れにならずに済む! さぁ、開幕の流れを断ち切るのだちゃみちゃんよ!
『あっ、戻ってきたのですよ~、ちゃみ先輩おかえ……』
『ふぁふぁふぃあえーあいふぁん(ただいまエーライちゃん)! ふぁっふぃりふんびひてひたふぁお(ばっちり準備してきたわよ)!』
『………………』
『ふぁあえーあいふぁん(さぁエーライちゃん)! ふぉのふぁいくにあなふぁのあまいふぃふぇいをふぁふぁやいえふぉうふぁい(このマイクにあなたの甘い美声をささやいて頂戴)!』
『スッーーーー…………』
バタバタと足音と共に帰ってきたちゃみちゃん。
しかしなぜか聞こえてきたその声は、いつものライバー屈指の美声と音質環境の両方が合わさった天上の声とは正反対の、まるで口を何かに塞がれているかのような、何を喋ったのか聞き取ることすら困難なほど籠った声だった。
傍に居る為何が起こっているのか分かっているはずのエーライちゃんも一切言葉を発しない。息をのむ音だけだ。
だが、ライブオンのカオスな環境に1年近く所属し、身も心も汚染されてしまった私には、この少ない情報のヒントからでもちゃみちゃんがどんな状況なのかが予想できてしまった。
そう、『できた』のではない、『できてしまった』。
ちゃみちゃん……あぁ……そんな……ちゃみちゃん……ッ。
『ふぉーふぃふぁのえーあいふぁん(どうしたのエーライちゃん)! ふぁやふふぉのふぁいくに(早くこのマイクに)! ふひひるふぁふえるほおふぇろふぉりで(唇が触れる程ゼロ距離で)! ふぉののおのしんふぉうふぉふぉうふぁいのふぇんふぁふのおふぉをふぁふぁふぃふふぇふぇ(その喉の振動と口内の粘膜の音を叩きつけて)!』
『……え~皆さん、質問したいことがあるのですよ~』
『はぁ! はぁ! はぁ! はぁ!』
『マイクを取りに行ったはずの先輩が、突然頭に黒タイツを被りながら呼吸を荒げている変態さんになってやってきた時はどうするのが正解なのですよ~?』
ちゃみちゃんんんんんんーーーー!!!!
コメント
:草
:ちゃみちゃん自身がマイクになることだ
:そういうことかwww
:そこまでして欲望を叶えたいか!
:とりあえず後頭部にツッコミ入れればいいんじゃないかな笑
もうほんとおばか! なんでこの子配信を立て直せる大事な時に欲望に走っちゃったの! 頭に黒タイツ被ってもダミーヘッドマイクと勘違いされるわけないでしょ!
『ほーらちゃみ先輩! バカなことやってないでマイクの準備してくる! さっさとそのタイツを脱ぐのですよ~!』
『むぐう゛う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛!! えーあいふぁんふぁいふひっふぁああいで(エーライちゃんタイツ引っ張らないで)! あふぁまふぉえる(頭とれる)! ゆっふりふぁみふぁんになっふぁう(ゆっくりちゃみちゃんになっちゃう)!』
コメント
<祭屋光>:楽しそう! 私もタイツ被ってちゃみちゃんと引っ張り合いっこする!
<彩ましろ>:それはもう本格的に芸人さんのやることなんだよ
:V界の最低値を更新し続ける箱
:プロフェッショナルはプロフェッショナルでもお笑いの方面だった模様
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『はい取れた! もうちゃみ先輩! 反省してください!』
『はぁ……はぁ……え、エーライちゃん』
『ん? どうしたのですよ?』
『が、頑張ったから褒めて』
『しばくぞ』
『ああああああぁぁーー!!! 今のドスが利いた声良い!! 耳元でもう一回言って!!』
『こいつヤバイ……もう帰りたいのですよ……ほらっ! さっさとマイク取ってくるのですよ! というかこうなったら私も一緒に行くのですよ!』
なんとか企画を回そうとちゃみちゃんと共にフェードアウトしていくエーライちゃん。
静かになった配信をよそに、私は天井を見上げ晴れやかな笑みを浮かべるのだった。
あぁ――この配信もうだめだ!
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