第167話始まりの音

部屋を飛び出た神成シオンを慌てて追いかけた宇月聖だったが、ライブオンの事務所は追いかけっこができる程広いわけではない。聖がその背中に追い付いた時、シオンは非常階段の踊り場で俯きながら隅に体を埋めていた。

幸いなことに周囲に人影は見えない。背後に聖が居ることに気づいていても意地でも振り向こうとはしないその背中、けれどもシオンは逃げようともしなかった。

聖は何と声を掛ければいいのか分からず一瞬狼狽えたが、ここで引くのはそれこそシオン、そして協力してくれた皆に対する最大の失礼に当たると思い、覚悟を決めた。


「その……ごめん、なんていえばいいのか分からないけど……とりあえずごめん」

「……分からないよ」


分からない。それは、シオンが心に混雑している感情をなんとか言葉にしたものだった。


「私は……聖様のこと、大切な存在だと思ってた。ううん、今だってそう思ってる。ネコマもそう、私にとって同期は友人、それも人生の苦境を一緒に歩いてきた特別な存在、戦友みたいに思ってた。でも……聖様は違ったのかな?」

「シオン君……」

「私だけだったのかな? 私、聖様のこと本当に、本当に…………。あはは、でも、結局それは私の自惚れの勘違いで、聖様は私のことただの同業者くらいにしか思ってなかったのかな?」

「違う、それは違うよ!」

「違わないじゃん!! 違うんだったらなんで何も言ってくれなかったの!? ……ごめん、大きな声だしちゃって。今の私すごく面倒くさいよね、本当にごめん。勝手に期待して勝手に傷ついて……」

「落ち着いてシオン君、違うんだ、本当に違うんだよ!」

「でも……もういいんだよ。きっといつかは今日のことだって笑える日が来ちゃうんだよ、傷はいつか癒えるもの。だから大丈夫、大丈夫なんだよ」

「お願いだ、一度話を聞いて……えっ?」


悲壮感すら漂うその小さな背中に耐え切れなくなり、どうにか話を聞いてもらおうと強引に自らの方へシオンを振り向かせる聖。だが、話を聞いてもらおうとしたが故の行動だったはずが、聖は反対に言葉を失った。

シオンはいつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべていたが――その目には涙が流れていた。

その姿があまりにも、あまりにも痛々しくて――聖は自分の行動がいかにシオンを深く傷つけてしまったのか、その重大さをやっと理解した。


「ほんとおかしいよね……バカだよね……本当に自分勝手で、この悲しみも一時のものって経験上分かっているはずなのに……」

 

傷は確かに癒えるもの。だがあまりにも大きな傷は完全に元通りにはならない。


「なんでこんなことで泣いてるんだろうね? なんでこんなに辛いんだろうね? 勘違い女の滑稽な姿って分かっているはずなのに――なんでこんなに涙が溢れてくるんだろうね? あはは、涙腺までバカになっちゃったのかな」

「ごめん、本当にごめんッ!」


ただ強く、聖はシオンを抱きしめる。考えるよりも体が先に動いていた。

それでも溢れ、溢れ、溢れ続け、どこまでも勢いを増して溢れ続ける悲しみの流血。

流るる涙の一粒一粒は、その全てがシオンの聖への想いで構成されていた――。




結局シオンの涙が止まるまで、聖はシオンを胸元に抱きしめ続けた。

その時間は両者にとって長くも感じたが、同時に一瞬にも感じた。


「ごめん、もう大丈夫」

「うん」

「……あのー……もう大丈夫です」

「うん」

「いやうんじゃなくてね聖様。あのね、もう大丈夫だからね、もう離してもらっても大丈夫かなーって」

「うん」

「いやうんって言いながら力強くしてるじゃん! もう大丈夫だから離して!」

「嫌だ」

「なんでぇ……」


泣いたのが恥ずかしくなってじたばたするシオンを意地でも聖は離そうとしない。

いくら泣き終えても、まだ問題は何も解決していない。聖は全てを話すまで絶対にこのままシオンを離さないことを決めた。


「……はぁ、分かったよ」


シオンもなんとなくそのことを察して、不満げではあったが体から力を抜いた。


「それで……どうするのこの状況?」

「シオン君にはまだ話さなければいけないことがあるんだ。でもそれから逃げてた。本当にダサくてごめん、でも決心ついたから」

「そう……うん、聞く」

「私もね……誰かに頼りたくなかったわけではないんだ。ただ……できなかった」

「それはどうして?」


「だって――好きになっちゃうじゃん」


「オイゴラアアアァァーー!!」

「ぐふはあああああぁぁぁ!?」


シオンの今まで聞いたことがないような野太い声と共に放たれた渾身の蹴りが聖の股間に直撃!!


「あ、あうう!? オウッ! オウッ! オウウウゥゥ!?」

「ほんと最低! こんな大事な時にふざけないでよ!!」

「オウッ! オウッ! オウッ! オウッ!」

「ヘンな声出してないでなんか弁明してみろやおらあああぁぁぁぁーー!!」

「                   」


シオンのメガトンキックが急所に二度目の直撃をしたとき、聖の目の前が真っ暗になった!

体を支えられなくなった聖が抱きしめた状態だったシオンの体に倒れこむ。


「んんんんーーーーッ!?」


そのとき――声を荒げていたシオンの唇を奇跡的に聖の唇が優しく包み込んで塞いだ――


「――――はっ!! す、すまないシオン君、一瞬三途の川の目の前までイッテた、それでもっと詳しく話を……ってあれ?」

「ぁ……えと、キスで慰めてくれるなんて、結構ロマンチックなことするんだね……」

「は?」

「私、初めてだったんだけどな……えへへ、どうしよ、もう! 私どうすればいいのか分からなくなっちゃったじゃん!」

「…………あぁ、なるほど」


聖は意識が戻った時には既に唇同士は離れており、最初お前は何を言っているんだ状態であったが、目の前にあるシオンの顔とその反応を見て何となく何が起こったのかを察した。

それと同時にシオンの初めてを奪った感触を味わうことができなかったことに神を恨んだが、そのことを言及すると今度こそ三途の川を全力クロールで渡りきることになってしまう確信があったため、『シオン君、君のファーストキスは股間を蹴られて意識がイッテる元レズものsexy女優のVTuberのものになってしまった、本当にごめん、これじゃあロマンチックじゃなくて股間キックだ』と心の中で土下座し、これ以上の言及は避けた。

幸運にもこのことでシオンの怒りは一旦かき消されているので、むしろいくならここしかない、聖は気合いを入れて逃げられないようにシオンの肩を掴み、その目を真っすぐ見据える。


「シオン君」

「ひゃい!」

「さっきの話の続きなんだけどね、あれ、冗談とかじゃなくて本当の話なんだ」

「ん? ……あ、あぁ、あの話ね!」


「私、中学1年生の半ばくらいから学校にまともに通ったことがないんだ」


「――――え?」


未だ少々の思考に浮つきが残っていたシオンだったが、聖が前振りもなく放った衝撃的な一言を聞いて、それは地の底へと叩き落とされた。

シオンはしばらく瞬きも忘れ呆然としたままであったが、聖も沈黙に耐え切れなくなり、そのまま言葉を続ける。


「あはは、簡潔に言うとね、私小学校のころとかは凄く活発的で、ずっとクラスの中心的存在だった。でも中学校に進学したと同時に性への関心も現れて、同時に自分のセクシャリティに気づいてね、当時の好意があった親友にそのことを言ったんだよ。告白したってこと。私はその人を心から信頼していて、例えこの好意が受け入れてもらえなくてもこの絆は簡単にはちぎれない、勝手にそう思ってた。まぁ次の日には学校中に知れ渡ってたけど」

「そんな……」

「あっ、私は今別にその人を恨んでないよ、だって中一だよ? 精神面もすごく不安定で難しいお年頃だ、何が起こってもおかしくない。まぁでも同じく子供だった当時の私からしたらショックが大きくてね、完全にグレて学校行かなくなっちゃったわけだ」

「…………」

「高校は一応行ってたけど通信制で通学することも少ない上に私の意欲もなくて、何かを見出すこともできず卒業しただけみたいな状態だった。でも人間このままじゃ生きていけないからさ、失うものもない精神でなんでもやったよ。でもね――どんなに泥水をすすっても常に一つの信念があった」


信念――それは同時に聖を蝕んでいる呪い――


「私は自分以外信じない。誰にも期待しない」


聖は他人を信じることが怖い。誰かに勝手に期待して裏切られるのが怖い。


「ましてや誰かを好きになることなんて――絶対にありえない」


誰かを好きになることが――怖くてできないのだ。


「私はもうあんな思いはしたくない……人間はいつも自分が思っていることと相手の思っていることが一致しない生き物だ。もう傷つくのは嫌なんだよ……」


幼いころのトラウマというものは人生を蝕む病にもなりうる。宇月聖という人間の心は病で冷たく凍りついてしまっていた――

話を聞いたシオンは瞬きどころか言葉すら発することができなかった。

自分の押し付けてきた我儘が聖をどれほど傷つけてきたのか、過去の発言が徐々にフラッシュバックし、その度に後悔に体が呑み込まれていく。

そして、今このことを本人の口から話させてしまったこと、それを分かってあげられなかった不甲斐なさ、そして勝手に自分のことばっかり分かってもらおうとして聖の気持ちを汲み取ることが出来ていなかったことに気が付き、何か慰めの言葉を言おうにもその資格がないという結論に至る。


「そう……思っていたはずなんだけどなぁ」

「え?」


だが――シオンが遂に溺れそうになった寸前、この沈黙を破ったのは意外にも聖からの方だった。

全てを語り切ったかのようにも思えた聖、だがこの話には続きがあった。


「ライバーデビューして、さっそく分厚いATフィールドを張って一人で頑張っていくぞって思っていたはずなのに、誰かさんが無理やり入り込もうとしてくるんだもんなぁ」

「それって……私のこと?」

「うん、本当にムカついた」

「ご、ごめんなさい! 私そこまでは知らなくて、身勝手なことしちゃった……」

「うんうん、本当にムカついたよ」

「ぅぅぅ……」

「健気で真っすぐで頼りになって可愛くて、本当にムカついた」

「はぁ!? な、なんでそれでムカつくの!?」

「だって……信念が揺らぎそうになっちゃうじゃん。この子ならって……思っちゃうじゃん」

「ぁ……」


聖の表情が嬉しそうな、でもどこか憂いを含んだものに変わる。


「ねぇ、私の方こそ聞きたいんだけど、なんであの時ぐいぐいきてくれたの? 当時の私、控えめに言ってもかなり態度よそよそしかっただろう? 初配信から個性出しまくってたし」

「それは、なんかすごく寂しそうだなって思ったから……それがまさかそんな経緯の上に成り立っているものとは思わなかったけど」

「はははっ、君は空気が読めるのか空気が読めないのかどっちなんだい?」

「く、空気は読める方だよ! 司会とかやってるし! ただ、人の心の中までは分からないからさ……」

「……そう、そうなんだよ……他人のことなんて何も分からない。人って言うのはさ、そういう生き物なんだよ……」


自虐的な笑みと共にそう言い、やっとシオンから離れる聖。


「まぁそんなわけでさ、私はそんな感じ」

「ぇ?」

「どうしたの、そんな不思議そうな顔して? 話はこれで終わり。私はこんな捻くれた人間でさ、こんな人間に好きになられても困るだろう? 私もまた勘違いして傷つくのも嫌だからさ、今回の件は本当に申し訳なかったけど、これからも今まで通りやっていこう」

「え……ぁ……そんな……」


話を締めようとする聖にあからさまに狼狽えるシオン。なぜここまで胸がざわつくのかはシオン自身でも分かっていなかったが、それでもこのまま話を終わらせるのは絶対に嫌だった。


「そ、そう! 私も聖様のこと、結構好きだよ!」

「ん? あはは、ありがとう。それならこれからも今まで通り仲良くしてくれるとすごく嬉しいかな」

「いやあの、そうじゃなくてあの、さっき好きになっちゃうって言われたとき、全然嫌じゃなかったというか、むしろ嬉しかったって言うか!」

「お、おう? あぁ、お世辞は大丈夫だよ、そんなに気を使ってもらわなくても大丈夫」

「おおおおお世辞じゃなくてだね! あ、あとさっきキスされたとき! 正直めっちゃドキドキした! 嫌悪感とか一切なくて、ドキドキし過ぎて心臓止まるかと思っちゃったって言うか、唇カサカサじゃなかったよねとか心配になったっていうか、むしろ嬉しすぎてそれ以外何も考えられなくなったって言うか!!」

「し、シオン君? 君、自分が何を言っているのか分かっているのかい? あと、感触は分からなかったから問題な――いや、なんでもない」

「分かんない! 分かんないけど言わなきゃいけない気がするんだよ! あ、あと顔も好き! 正直最初声かけたの顔が良かったからもある! あとあと、いつもコラボのときとかは冷めた対応してるけど本当は聖様の下ネタ結構好き! 配信外だとよく大笑いしてる!」

「ぁ……そ、そっか、ありがとう?」

「ていうかさ!」

「っ!?」


元は隅でしょぼくれていたシオンを聖が慰めていたはずだったが、いつの間にかシオンの謎の圧力に押された聖が反対の隅にまで追いやられ、それを絶対に逃がさんとばかりに左右両方を壁ドンするシオンという正反対のシチュエーションが出来上がっていた。

こんな絵にかいたような肉食系の行動を起こしたシオンだが、驚くことに本人の頭の中は一切考えがまとまっておらず、自分が何をしておりはたから見たら自分たちがどういう状況に見えるかすら把握できていない。目の中はずっとグルグル状態である。

ただ全てを話してくれた聖の為、どんなに恥ずかしくてもどんなにうまく喋れなくても話す資格すら無くても、それでもここで想いを真っすぐに言葉にしなかったらそれこそ聖を傷つけてしまう、そう思い、今度はシオンが覚悟を決めた。


「なんだかんだ今でもみんなとコラボとか楽しそうにやってるじゃん! そんなに一人がいいなら断ればいいのに!」

「それは……一回やったら二回も三回も誰とやっても変わらないかと思って……」

「嘘つかないで! そんなのなんの理由にもならないよ! 本当は誰かに傍に居て欲しいんでしょ!? だから今回の件も私が押せば断らなかったんでしょ!? それなのに意固地になってかっこつけて! 本当は嬉しかったくせに!」

「っ! でも私には過去に辛いことがあったから!」

「それは聞いた、それは聞いたけど! 私だって今回聖様と考えが全然違ったのか、聖様は私のこと大切に思ってくれてないんだって思ってものすごく傷ついたけどさ、それでも! それでも私は聖様ともう関わりたくないなんて思わなかった! もっとお互いにすれ違いをなくして、言葉に本心を乗せて、行動で示して、時間はかかってもいつかは今日のことを笑い飛ばせるくらいの関係を築きたい、そう思ってたよ!」

「そんな……で、でも! どうにもならないことだってあるんだよ! 自分が深くその人のことを思っていれば思っているほど、裏切られたときに傷つくんだ! それならいっそのことなにもなくていい! 私は一人でいい! 好きな人に裏切られ、学校に居場所すら失った私の気持ちが君に分かるか!!」

「そんなの分からないよ! 特殊な能力もないただの人間の私には聖様のことは表に出してくれた一部しか分からない! でもそんなことを続けてたら……誰かと本当に分かり合えることもなくなっちゃうんだよ……?」

「ぅ……」

「全部が全部さらけ出せとは言わないよ。誰しも隠してることはあって、それを表に出すと良くないことが起きることもある。でもね、少しずつ、少しずつお互いに距離を縮めていって、時にはすれ違ってまた離れちゃうことがあっても、それでもまた一歩づつ歩み寄って……そうすれば、いつかはお互い手が繋げる距離まで近づける、人間関係ってそういうものだと私は思ってる。でもね、片っぽが初めから拒絶してたら、それすら始まらないよ……それって……すごく、すごく寂しいって思う、私はもっと聖様と仲良くなりたいのに!」

「でも……あの子は……私を……」

「聖様さ、さっきその子のこと恨んでないって言ってた。中一だから、子供だからって。でも、聖様だってその時子供だったわけじゃん。もしかしてだけど、何の前振りもなしに女の子が好きって言ったんじゃないの?」

「……そう……だったかもしれない……でも、私は本当にその子を信頼していたんだ。この子ならたとえ好意が受け止めてもらえなくても言いふらしたりはしないって、そう信じてたんだ……」

「人間関係ってさ、お箸みたいなものだと思うんだよね。ほら、お箸って適切な力を二本の棒に加えたとき、何かを掴めるでしょ? でもどちらかの力が強すぎたりすると、掴みたいものを落としちゃう」

「……私が距離感バグってるバカだったってこと?」

「ちーがーう! 聖様はさ、きっと人間関係に真面目過ぎるんだよ。じゃなかったらこの悩みすらないはずだもん。それはさ、聖様がそれだけ人を思いやり、信じることが出来る温かい心を持った人間ってことだよ」

「それはなんか違うような気が……」

「違わないよ」


話の中で段々と冷静さを取り戻してきたシオン、それと共に力任せだった動作も力が抜け、優しく両手で聖を包み込む。

怖くないとあやすように――大丈夫だと慰めるように――――大好きだと伝えるように。


「その純真さ自体は凄く尊いもので、でもそれすら言葉にしないと分からない程人間は不器用な生き物だけどさ、それでも……前に歩くのが強い人間だよ。ずっと逃げてたら、掴める幸せも一緒に逃げちゃう。それに、私たちももう大人でしょ? 辛い経験にずっと縛られるんじゃなくて、それを踏み台にしてやって這い上がってやろうよ。人間関係って本当に難しいものだけどさ、悪いものではないよ」

「――――――」

「この世の全員が深く繋がれるとは言わない、世の中にはいろんな人がいるから。でもね、少なくとも今回の事件で聖様を心配してくれた人たちは聖様の心への道を歩き出してくれているよ? でもその道は一人半分しか進めないようにできているからさ、聖様もその半分を歩き出して、いつかお互いの手が届く場所に行こう?」

「――――っ」

「だからさ、私たちのところにおいで? みんな手を振って待ってる、こっちだよーって。だからほら、おいで?」

「――ぅぅっ」


その抱擁の温かさは体だけでなく、冷たく固まった聖の心の氷を溶かし、滴る水滴は涙として流れ落ちた。


「私に……できるのかな?」

「うん、できるよ」

「また誰かを心から信じることが……できるのかなぁ?」

「できる、できるよ、というか今考えると出来てたじゃんさっき! さっき部屋で収益化が無くなって不安だったって言えてたじゃん! 言葉にできたじゃん! あれは私たちを信じていたから言えたんじゃないの? この人達なら信じてみようって、そう思えたからなんじゃないの!?」

「あれ……は……解決を手伝ってもらった以上こっちも経緯を話さないとと思って……もしかすると今日帰った後に話したことを後悔してるかも……」

「いいや違うね、だって」

「……だって?」

「部屋でみんなにありがとうって言ってるときの聖様の顔、すごく嬉しそうだった。だからできないわけないんだよ。だって一番誰かを信じたいって思っているのは、他ならぬ聖様自身なんだもん」

「あ……ああぁ………うぐぅっ……ああああああ!!」


氷は溶け、溶け続け、涙は滝のように流れ、流れ続け、そして――


「あっ、あとさ……私のこと好きになっちゃいなよ。今の話のおかげではっきり分かった、私は聖様のこと――ガチな方で好きだよ」


聖は中学一年生ぶりに人を信じること、そして信じてくれること、その繋がりの温かさを知った。





えーこちら淡雪、こちら淡雪、ただいま絶賛殺意に震えている状況であります。

いやね、シオン先輩と聖様が部屋から出て行ったあと、これ以上はお邪魔になると思って私とネコマ先輩は帰ったわけですよ。

その後私はなんだかんだドキドキで、どうなるかな? 聖様まさかないだろうけどあんな状況でも下ネタ連発して股間蹴られて死んでないかな? とか私なりに心配していたわけですよ。

そしたらね? その日の夜になんか二人で配信するとかかたったーで言い出してね? 何があったと思って枠に飛びついたら、なんか聖様が開幕からめっちゃ重い過去をいきなり暴露したんですね。

私もうめっちゃびっくりして、正直ちょっともらい泣きしながら話を最後まで聞いてたんですね。ここまではまだ私も殺意とは正反対の慈悲の感情に満ちていたんですよ。

そしたらですね? 次の瞬間いきなり二人でのろけまくりのイチャイチャしだしたんですがこれどういうことですか? え、なにカップル成立してるんですかどういうことですかですかですですですか?

え、これまじで? なんで聖様シオン先輩のこと落としちゃってんの? え、まさかの事態過ぎて頭の理解が追い付かないんですがデスがDEATHが?


『えー、そんなわけでね諸君。聖様の中身を知って情けないやつって思ったり、想像と違ったって人もいるかもしれない。でもね、これが私だから。下ネタと女の子が大好きな私だけじゃない、こういう私もいるって思うとなんかエモくないかい? なぁ『シオン』?』

『えへへ、やっぱ人間らしさは大切だよね! 私も『聖』が我が子兼恋人になったけど、これからはもっとライブオンを盛り上げていくために頑張っちゃうよ!』

『『あははははははははは!!!!』』


「「「UZEEEEEEEEEEE!!!!」」」


通話を繋いでいた晴先輩とネコマ先輩と共に思わず叫び声をあげ、同じくコメント欄も温かな罵声に染まる。

――そしてそれを見る聖様とシオン先輩の笑顔は今までで一番輝いて見えた――




【あとがき】

聖様編、これにて終了です!


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