第147話ソロ配信2-4

@今までで一番驚いたことはなんですか?@



次のマシュマロは……OK、これまた記憶を遡る旅に出ないといけないな。

んー……そうだなぁ……。


「真っ先に思いついたのは配信を切り忘れた話だけど、流石に皆も知ってるから除外して……あ、S〇GAの人かな、あれは本当に驚いた」


コメント

:驚きすぎてゲロ吐いたくらいだもんね

:言葉にするとそれだけで面白いなwww

:S〇GAの人?

:謎な人物が出てきたな

:あの大手ゲーム会社のS〇GA?


「そうそう、これだけだと意味わからないよね、順を追って説明するどー!」


コメント

:はーい

:オナシャス!

:シュワちゃんのことだからどうせろくでもない話なんだろうな笑

:ソロ配信のときとか完全にトークで魅せるお笑い芸人だからなwww

:ワクワク ¥211


「それではお聞きください――」




そう、あれは私がまだブラック企業に入る前、人生に希望を抱いて根拠のない将来を思い描いていたキラキラの高校生だったときの話だ。

当時の私は休日を繁華街で遊ぼうと、仲の良かった友達と二人で住宅街からバスに乗っていた。

別にここまでは普段となにも変わらないよくあるシーン、乗っている乗客も特に一目で奇抜と感じる人はいない。

だけど一人、私の斜め後ろの席で、隣に誰も座っていないので窓側の席で背もたれに首を預けて気持ちよさそうに眠っていたスーツ姿の男性……彼が放った一言でバスの中が一瞬にして非日常の世界に引きずり込まれた。


「S〇~GA~(美声)」

「「「「!?!?」」」」


S〇GAの広告やゲーム起動音などで皆も一度は聞いたことがあるだろうあのやけに美声のS〇~GA~が眠っている男性の口から、それはもうCD音源かってくらい完璧な音程で再生されたのだ。

当然皆は条件反射で振り向いたが、男が眠っていることを確認したらすぐに前に向き直る。

だがバスの中に安泰が戻ることはなく、逆に異様な緊張感が漂い始めた。


なぜS〇GAなんだ? 

寝ているのにどこからあんな美声を出しているんだ? 

S〇GAの回し者? いや、さてはせがた三四郎か? 

メガ〇ライブってル〇バみたいだよね。 

いやどんな夢見たらその寝言が出てくる?

   

一人一人が思考を完全にS〇GAに占拠され、浮かび上がる疑問の数々を考察し始める。

やがて正解の見えない疑問は未知への恐怖へと変わり、皆が神妙な顔で凍える背筋を伸ばし、冷や汗を流し始めた。

そんな中運転手さんは驚きながらもなんとかバスの運転を続けてくれていたようで、ほどなくして次のバス停に到着した。

ちなみにこの間、バス内の会話は0である。友達と隣り合って座っていた私たちでさえ不思議と声を出すことが出来ずに正面を向いて固まっていた。

そして次のバス停に着いた時、この緊張はある程度ほぐれることになる、寝ていたS〇GA男がバスの停車音で目を覚ましたのだ。

狂気に飲まれていた人が正気に戻ってくれた時と似たような感じだろうか、男の目が覚めた=S〇GA男が遠ざかったように皆は思ったのだろう、バス内に安堵の呼吸が聞こえ始める。

……そんな時だった、止まったのがバス停なので事情を何も知らない数人が新たにバスに乗り込み、そのうちの一人がさっきまで眠っていて今も寝ぼけ気味の男の隣の席に近づいた。

そして――


「すみません、隣の席座っても大丈夫ですか?」

「S〇~GA~(美声)」

「え?」

「「「「え!?!?」」」」


世界は再び闇に包まれた。

乗客は皆再び男に振り向き口を開けてポカーンとしている。

座っていいか聞いた人は何が起こったのか分からないのか呆然としている。


「……え?」


終いには眠っていた男さえ自分が何を言ったのか理解できていないようで自分自身に驚いていた。

……結局、私と友達が目的地で降りるまで、異質な空間は続いたのだった――。




「――っていう話なんだけど、皆どう思うよ?」


コメント

:場を想像したらシュール過ぎて草

:最後の最後まで意味不明で草

:世にも奇妙な物語とすべらない話のコラボかな?

:どう思うって聞かれても当然「え?」ですよ

:その男何者なんだwww


話が終わった後のコメント欄は、予想通り戸惑いと笑いの入り乱れたカオスなものになっていた。


「ほんと彼には何があったんだろうね……ちなみに私はS〇GAの潜伏宣伝員説を推してます」


コメント

:潜伏工作員みたいに言うな

:ステルスマーケティングってこうやってやるのか

:確かにその場に居た人全員がS〇GAのことしか考えられなくなったから宣伝大成功だな

:ただのS〇GAオタクでしょ(名推理)

:そんな場に居合わせたら絶対噴き出してるわ笑


「いや、言っておくけどめちゃくちゃ怖かったからね!? 脳の理解を完全に超えた現象を目の当たりにすることってなかなかないと思うけど、得体の知れない恐怖ってのは冗談抜きで身の毛もよだつ思いだったよ……」


以上が私の思いつく今までで一番びっくりした話でした。

だが私は知らなかった……こんな話をしたせいで、更なる驚きが私に白羽の矢をたててしまったことを……。

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