第105話ライブオン常識人組2

「まず誰から困っていること話しますか?」

「わ、私は話の流れとかを把握したいから少し後からがいいわね」

「それじゃあ私からいこうか?」

「お、それじゃあシオン先輩お願いします」


一番手に決まったシオン先輩、正直毎回コラボで苦労しているイメージなのだが、一体どんなエピソードが出てくるんだろうか。


「なに話そうかな……私の場合ほぼ全員に困ってるんだよね」

「そうですよねぇ。ご苦労様です」

「うんうん、本当に苦労しているわけですよ、ねぇ淡雪ちゃん? 大変なんだよ?」

「な、なんですか? 清楚な私はシオン先輩に苦労なんか掛けてないはずですが?」

「うんうん大丈夫、ママである私は手のかかる子も大好きだからね、だから君はあるがままの君でいいんだよ? 最後のその日まで面倒見てあげるね」

「助けてくださいちゃみちゃん、監禁エンドのフラグが立っている気がします」

「ははは……私も同じことにならないように気を付けるわ」


そんなことを話していると、話が逸れてしまったことに気が付いたのか慌ててシオン先輩は何を話そうか考え出した。

進行役まで暴れ出すと企画が壊れてしまうことが分かっているのだろう、いくら本性が覚醒してもこういうしっかりしたところがあるからシオン先輩はライブオンにとって唯一無二の存在なのだ。

本当にいつもお世話になっております……

謝罪の意も込めてサポートでもさせてもらうとしよう。


「一番最近困ったこととかってなんですか?」

「あー……昨日の夜に聖様と配信外で一緒にゲームしてたんだけど、私を驚かそうとしてヘンな悪戯してくるんだよね。もう毎回のことなんだけどさー」

「やっぱり聖様なのね、予想通りだわ」

「もうなんだかんだ言って付き合い長いからね、もう苦労しっぱなしだよ!」


コメント

:この二人はライブオンの定番カップリングのイメージ

:キャラが正反対なのになぜか合ってるんだよな

:性様は何をやってもシオンママが拾ってくれると信じてるって勝手に思ってる

:この前聖様がコラボとかあると相手に指定とかなければ大体シオンママにも声かけるって言ってたしね

:ライブオン発端はハレルンだけど成長に関してはこの二人が相当影響あったはず


「そういえば、聖様と知り合うきっかけってどんな感じだったんですか?」

「あ、それ私も聞きたいわ。後から入った三期生組はそこらへん知らないから」

「きっかけかぁ、確かに詳しく話したこと配信でもなかったなぁ。いや、そんなに特別なことがあったわけでもないんだけどね」


そう言うと、シオン先輩は昔を懐かしむようにゆっくりと当時のことを話してくれた。

最初に聖様と出会ったのは二期生デビューの少し前、事務所で顔合わせしたのが始まりだったらしい。

と言ってもそこから急に仲良くなったわけではなく、これから一緒に頑張りましょうねーくらいのごく普通の初対面だったようだ。

そこからいよいよデビューの日が訪れ、同じ二期生としての活動が始まった。

これは意外なことかもしれないが、聖様は最初物凄くリスナーからの賛否が強かった過去がある。

だいぶ前のことだから私も実際に目で見たわけではないのだが、結構有名な話だ。

当時は【ライブオンの朝霧晴】ではなく【朝霧晴のライブオン】と言われても仕方がないほど晴先輩の存在が大きかったうえに、今ほどライブオンがぶっ飛んだ人達の集まりというイメージも強くなかった。

聖様はその強烈なキャラクターによる認知度の上昇に合わせて、心無い言葉もSNSで書き込まれることも少なくなかった。この時期は二期生の輪の中でも特に聖様の連絡頻度が低かった時期らしい。

時系列的にありえない話だが、もしこの時期に私が例の配信切り忘れを起こしていたら似たようなことになっていたのではとも少し思う。それ程までにリスナー間の前認識というものは重要なのだ。

そしてそれはやがて、ライブオンの癒し枠の座を固めつつあったシオン先輩の下にも


:宇月聖と関わるのはやめておいた方がいいよ


などのコメントまでもが稀に散見されるようにまでに発展してしまう。

それに対してシオン先輩は「皆私のことを思ってくれてるんだと思う、それはありがとう。でも私が思う人の良し悪しは私が決める」と堂々と宣言し、後日シオン先輩からの誘いで後の名コンビの初コラボが決定した。

実はこの時聖様に前述の理由からかなり微妙な反応をされたらしいが、それでも根強く誘い続けたうえでもらえたコラボ了承らしい。

そしてざわざわとした異質な空気が漂う中配信されたコラボは、大方の予想を破り大成功。聖様の強烈ボケをシオン先輩が更にツッコミで面白く返し、お互いがお互いを引き立てる。今日では伝説の配信の一つとして語り継がれている配信だ。

これ以降、聖様は頻繁に連絡をしてくれるようになり、今の関係に近づいていき、そして聖様に対する批判の声も小さくなっていった。


「懐かしいなぁほんと。今考えるとなんで急に聖様あんなに馴れ馴れしくなったのかな? 」


聖様との馴れ初めを語り終えたシオンママは困ったような、でもどこか嬉しそうな声でそんなことを言う。

そんなのもう考えるまでもないだろう。

いつも颯爽とした態度を崩さない聖様だけど、聖様だって女の子なのだ。そこに確かに生きているのだ。嬉しいこともあれば傷つくことだってある。

聖様にとってシオン先輩は自分を救ってくれた大切な存在であり、そして今の話をあんなに、まるで大切な宝物が入った箱を開けるかのように話すシオン先輩もきっと同じ――


あぁ、やっぱりこの二人なんだよなぁ!!

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