第82話あわましお泊りコラボ3

「ごちそうさまでした。いやぁ本当に料理上手いんだねあわちゃん、正直驚いたよ」

「お粗末様です。実用性重視でそんなおしゃれな料理とかは出来ませんけどね。私が料理できるくらいでなぜそんなに驚いているのかは知らないですけどー」

「おやおや、僕ともあろうものがあまりのおいしさに口が止まらなくなって失言をしてしまったようだ。これはお詫びに皿洗いでもするとしよう」


夕食後のまったりとした時間の中、冗談交じりにわざと口をとがさせた私を見て、誇張し過ぎな賛辞を交えてましろんがそう言った。


「いやいや、そんなこと私がやりますよ。そもそも怒ってませんし」

「大丈夫、もともと僕がやるつもりだったからね。一晩泊めてもらうんだからこれくらいの対価は払わないと」


私の制止を押し切り食器類をまとめジャバジャバと洗い始めるましろん。

あの綺麗な肌が洗剤とかお湯とかで荒れちゃわないか少し心配だが、そういうことならまぁいいか。二人分だから洗い物の量もそんなに多くないしすぐに終わるだろう。

んーでもなぁ~……


「なぁにぃ微妙そうな顔しちゃってぇ? あ、もしかして対価は体での方が良かったのかなぁ?」

「ひゃい!?」

「泊めてもらうなんてそういうので定番のシチュエーションだもんねぇ。ふふっ、あわちゃんえっちぃんだぁ♪」

「えっ、あっ、ぇっ」

「ふふっ、そんなキョドっちゃって可愛いなぁ」


やばい、さっきからリアルましろんがライザ〇ソードもびっくりな破壊力を見せてくるせいで私の顔面がトラ〇ザム状態だ。

このままでは同期のママが私の理性を蒸発させようとしてくるんだが、好評発売中になってしまう。

私は転生したらストゼロだった件を今現在己の人生で絶賛執筆中のはずだ、それを忘れるな、鉄の理性で頭がシュワシュワするのを防ぐんだ!


「あ、あんまりからかわないでください! もう、私はお風呂掃除でもしてきます!」

「ふふっ、はーい」


私は逃げるように浴室へ向かったのだった。




「んーしぶとい……こんなのあったんだなぁ」


風呂場の汚れと格闘しながら思わず呟く。

自分以外の人が使うとなると、場所などの理由で普段は目につかない汚れまで気になり始めてしまった。

人だけじゃなく物も見られることで綺麗になるんだなぁ。


「あわちゃーん! お皿洗い終わったけどどこにしまえばいい?」


そんなことをしていたら予想以上に時間が過ぎてしまったようだ、台所からましろんの声が聞こえてきた。


「えっと、お皿は上の棚の右側でー……」

「はいはい、右側右側……ここかな?」


お風呂掃除を続けながら応えるも、言葉だけでは流石にましろんが分からないと気づき、正確な収納場所を教える為掃除を一旦中止し台所へ向かう。

あれ、そういえば料理してるとこ見てたからましろんも場所分かるのかな?

いや、あらかじめお皿は必要分テーブルに出してたはずだから分からないか。

……あれ? 何のために棚から出してたんだっけ?


…………


「やっべっ!?」


家の中とか関係なしに大急ぎで台所に駆けていく。

あの棚の中には『あれ』が入っているはず!!


「あ」

「あ、あわちゃん……えっと……これは中々の代物だね……」


だがどうやら手遅れだったようだ。

ましろんの視線は、私が事前に隠蔽を謀っていたものにくぎ付けになっている。

ましろんが目を離せないもの、それは一つのゴミ袋だった。

だがただのゴミ袋ではない、そのあまりに悲壮感漂う様は墓場と呼ぶ方がふさわしいだろう。

名を与えるなら『ストゼロの墓場』、それは私が飲んだストゼロの空き缶だけが無数に捨てられた集合体であった。


「いや……なんかさ、ダークファンタジーのゲームとかで人が無数にくっついたみたいな化け物とかよく出てくるじゃん。僕は今、あれを見たときと同じ心持ちだよ」

「違うんです、一袋にまとめて捨ててる上にゴミを出す日が運悪く合わなかっただけで、短期間にそんな量飲んでるわけじゃないんですはい。だからその、違うんです」

「うん、そうかそうか、オーケーオーケー、完璧に理解した。だから落ち着いて」

「うがあああああああぁぁぁぁ!!!!」


羞恥、絶望、あまりの収拾付かない感情の嵐から奇声と共に頭を抱えてしまう。

まさかこれを見られてしまうとは――狂気をゴミで再現してくださいという課題を出されたときに大正解間違い無しのこれを!!!


「大丈夫、人の価値はゴミ袋なんかじゃ決められないものだよ。僕はあわちゃんの為ならこんなの余裕で受け入れられるさ」

「ましろん、それはそれでパートナーの狂気に飲まれる悲劇のヒロイン感でてるよ……」

「いや、そんなつもりはないんだけど……」


前の日のフラグを見事に回収してしまったその後、私が完全に立ち直るまで一時間ほどの時間を要したのだった……

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