第55話ニュースライブオン1

「あ、最後にご報告なんですけど、シオンさんがシュワちゃんとコラボしたいって言ってましたよ」

「え!? 本当ですか!?」


業務連絡や次の配信についての相談をマネージャーの鈴木さんと電話していたのだが、電話の締めにいきなりそんなことを言われてしまった。

しかもなんとあわちゃんではなくシュワちゃんをご希望とのこと。まじめな苦労人の印象が強いシオン先輩だから意外としか言いようがない。


「なにか私としたいことがある感じですかね?」

「どうやら『ニュースライブオン』にゲストとしてシュワちゃんに出て欲しいみたいですね」

「マジで!?」


ニュースライブオン、それはシオン先輩が十八番にしている名物企画であり、最近は彼女の代名詞的存在にもなりつつある配信だ。

企画内容はシオン先輩が自分で立案したもので、毎週日曜の夜にその週に起こったライバー達の名シーンをニュース形式で紹介していくというものだ。

大体私たち三期生が入った辺りから企画がスタートし、シオン先輩の軽快な突っ込みやテンポの良さが話題になって瞬く間に人気企画となった。

たまにゲストとして様々なライバーが登場することでも有名ではあるのだが、元々はシオン先輩が完全ソロでやっていく予定だったらしい。

その証拠に最初はかたったーで聖様に向かって「ソロ企画ができました~! ざまぁみろ~!」とイキり倒していたのだが、どうやら一人は寂しくなったようで第4回目の時には既に聖様がゲストとして登場していた。

シオンママカワイイヤッター!

まさかそれにお誘い頂けるとは……


「コラボ程度でしたら当人同士でやり取りして大丈夫ですのに、わざわざマネージャーの私を通すところが真面目なシオンさんらしいですね。あとやりたいことがあるらしいのでオフコラボを希望とのことです」

「お、オフですと!?」

「はい。『よかったら私の家でお酒でも飲みませんか?』とおっしゃっていますね」


――分からん! どれだけ考えてもシオン先輩の意図が分からん!


「どうします? 引き受けますか?」

「出ます出ます! 断るわけないです!」


確かに謎な点は多いがあまりにも光栄なお誘いだ、これを断るなんぞ一生の恥!

気を引き締めて出演させてもらおう。


「了解です、シオンさんに伝えておきますね。後日シオンさんから場所などを記したDMが来ると思うので見逃さないようにしてあげてください」

「はい!」


◇そして当日◇


「いらっしゃーい! 大丈夫だった? 迷ったりしなかった?」

「い、いえ! 全然大丈夫です!」


自分でも分かるくらい緊張全開で電車に少々揺られ、いよいよシオン先輩の家に到着した。

やっぱり憧れの方とお会いするのはドキドキするものだ。しかも前に一度会ったことはあるがその時は聖様が隣にいたため、二人きりで会うのはこれが初めてになる。 

更にはこのシオン先輩が住んでいる立派なマンションである。なんとこの広い家に一人暮らししているらしい。

もう口の中からっからですよ。


「飲み物入れるから適当にどこでも座ってて! 自分の家だと思ってくつろいでね!」

「は、はい……」


パタパタとキッチンへ駆けていくシオン先輩。

当然私はくつろぐどころか背筋ピーンである。

配信開始まであと2時間くらいあるため、それまで配信内容の打ち合わせをすることになっている。

というかすっごいいい匂いするな、アロマでも炊いてるのかな?

部屋も広いのにピッカピカだし、整理整頓も完璧だ。


「……ん?」


余りの女子力に感嘆しながら部屋の中を眺めていたのだが、ある一つの本棚に視線が吸い込まれた。

本棚自体は普通の木製のものなのだが、気になったのは収納されている本の方。


【赤ちゃんの上手な育て方】

【ベテランママ達に聞く育児のコツ】

【赤ちゃんが好きな哺乳瓶】

【赤ちゃんの視点に立ってみよう! 育児大百科!】

【実は赤ちゃんはこう思っている! 視点を変えて伸ばして育児!】


などの似たような趣旨の本が山ほどその本棚には収納されていた。

この瞬間! 淡雪に電流走る!



あ、これ絶対やばいやつや。



「あれー? どうしたの淡雪ちゃん?」

「し、シオン先輩? いったい何を持っていらっしゃるので?」


背後から聞こえてきた声に瞬時に振り向くと、そこには確かに『飲み物』を持ったシオン先輩が立っていた。

問題なのは飲み物が入った容器である、その瓶に女性の乳首のような素敵なサムシングがくっついた物、それは紛うことなく――


「あーこれ? これは勿論ストゼロ入りの哺乳瓶だよ」


当たり前のように説明するシオン先輩からは不思議と謎の圧のようなものを感じる。


「そ、それは何に使うんですか? ……あ、分かった! いつもシオン先輩を振り回してる聖様のケツの穴にぶっ刺すわけですね!」

「ううん、これは今から淡雪ちゃんの今喋ってる大人っぽくて艶っぽいそのお口にぶっ刺すんだよ」


ですよねー!!!

いやいやですよねってなる時点で大分おかしいんだけど、流れ的にこうなることは哺乳瓶も見た時点で察してしまった。

だがなぜ!? あのシオン先輩がどうしていきなりこんな暴挙に!?


「前に配信中に約束したよね? 哺乳瓶でストゼロ飲むって。まさか……飲んでくれないの?」

「いやいや、私はまぁいいんですけどなんでそんなに乗り気なんです!?」

「私ね、四期生の皆を見たとき気づいちゃったの」

「え……えぇ? な、なにをです?」

「私前は今の自分でいいのかな? とか、インパクトないのかな? とか思うことがあったの。でも手のかかるけどかわいい子達の姿を見ててやっと自分の本当の望みに気づいたの。ああ、私は皆のママになりたいんだって。きっとこれがライブオンが私を採用した理由でもある」

「…………」


頭を全力でフル回転させる。

これつまりはあれか? 四期生がやばいやつの勢揃い過ぎて、遂にはシオン先輩まで振り切れてしまったってことか!?

そしてシオン先輩の奥底に眠っていたもの――それはきっと母性。

ただでさえ前から母親のような温かさを持っていたシオン先輩、でも今はそれにリミッターがかからなくなってしまった、そういうことなのか!?


「私がちゃーんと面倒見てあげるからね。だからストゼロ、飲もうか?」

「なるほど分かりました、私がストゼロを飲むのはいいです、元々嫌では絶対ないので。リスナーさんの前で言ったからにはやりますよ! でもシオン先輩はどうするんです? 家でお酒でも飲みませんかって言ってましたよね?」

「私は飲まないよー、私が酔っ払っちゃったらいよいよこの後のニュースライブオンが崩壊しちゃうもん!」


ああなるほど、確かに自分が飲むとは最初から一言も言っていないのか。つまりは全てシオン先輩の計画通りってこと。


「ほら、膝枕してあげるからこっちおいで?」

「はい……」

「あ、リスナーさんにもかたった―で知らせないといけないから音声録音するね?」

「アッー!」


私は運命を受け入れた――

今日よりシオン先輩は従来の場を完璧に読んだ的確な突っ込みと司会に加え、母性が大爆発している皆のママという強烈なキャラクターを手に入れることにより昇華?を果たしたのだった。

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