第12話 魔聖おばば

十二魔聖おばば



「ふあぁ、良い朝だ〜」


思いっきり両手を広げて伸びをする。

鳥か魔物か分からないが、雀のような鳴き声が聞こえる。


「おはよ〜」


ハーツが目を擦りながら朝の挨拶をする。


「遅いじゃないか。俺はワクワクして早く起きたぜ! 」


ゼクサスに、謎のドヤ顔を決められた。


コンコン。


誰かが扉をノックした。


「入っても良い? 」


ヒナの声だ。


「おう。入っても良いぞ! 」


ゼクサスがそう返事をすると、


落ち着いたドレスを着たローズが入ってきた。紺色で変に着飾ってない美しいドレス。男チームは思わず見とれてしまう。


その後に続いてヒナが入ってきた。

水色のワンピースを着ていて、白い前掛けをつけている。不思議の国のア●スですか。と尋ねてしまいそうな服装だが、銀髪ショートヘアのヒナが着こなすとそれはそれは美しい少女だ。


まるでショートケーキの上に乗っているイチゴの輝き。


「・・・・・・・・・・・・」


ヒナとローズは何を言うのか気になっているようだが、男達はそれどころではない。時を止めてずっと見ていたいのだ。何故なら、こんなにも美しい女人を拝めたことは無いからだ!


「・・・・・・綺麗だ〜〜」


ハーツが沈黙を破った。ハーツの心はとろけているようだ。

ヒナとローズは服装の感想を待っていたようで、とても嬉しそうだ。


グゥ〜。


俺の腹がなってしまった。


「ごめん。朝ごはん食べたい」


俺がそう言うと、


「あっ、今日魔聖おばばのところ行かなきゃ! 」


ヒナの一言で皆んな大慌て。

魔聖おばばは、有名人だから、会いに来る人がたくさんいる。なので朝早くから魔聖おばばのところに行く予定だったのだ。一階のレストランで朝食を食べ、必要な荷物だけ持って急いで砂漠の月を出た。朝早いのにたくさんの人が歩いていた。目的は魔聖おばばだろう。


「ヒナ。スキルを使って魔聖おばばの場所を割り出してくれ」


ゼクサスが他の人に聞こえないように囁いた。


ヒナはすれ違う人々の感情を読み取り、魔聖おばばが高い確率でいるであろう場所を割り出した。


「この街の端にある広場にいる。皆んなついてきて」


ヒナを先頭に急いで広場に向かったが、既にそこにはたくさんの人が集まっていた。


「おやおや。こりゃまたたくさん集まったねぇ。運命の人を呼び出してほしい人達の中で一番面白い余興を我に見せてくれた者の運命の人を呼び出そう」


魔道具を使っているのだろう。皆んなによく聞こえるように声が拡張されている。魔聖おばばはパッと見は三十代あたりの女性に見える。髪は紫色だ。


「魔聖おばばは三百年生きてるの」


スキルを使ったのだろう。ヒナが教えてくれた。


「ありゃま、魔聖おばばってあんなに美しくて、色気のある人だっけ? すげぇわ」


ゼクサスの言葉にヒナは、


「ふ〜ん」


いつも通りの優しい声だが、どこか棘があったのような? まぁいっか。



たくさんの人が列を成し、演し物をして魔聖おばばを楽しませようとする。


魔聖おばばは一向に笑わない。マジで笑わなすぎ!


「よっしゃ! 次は俺の番だ! 」


ゼクサスはそう言って前に出た。

魔剣イシェルヒィードを抜き、剣を振り、舞を踊ってた。凄く美しい動きだったがなんの反応も無しだった。


「次はオイラ〜」


ハーツは変顔した。


「・・・・・・・・・・・・」


大事な事だからもう一回言うぞ、変顔をした。


その場が静まり返った。ある意味天才のようだ。


「俺の出番ってわけか、主人公の力を見せてやるぜ! 」


俺はテンションマックスで高らかに宣言する。


「必殺! パントマァァァイム! 」


俺の唯一の得意技を披露した。すると、


「面白い奴じゃな。お主は主人公と言ったな? 」


「あぁ。確かに言った」


俺は転生したんだぜ? 主人公に決まってるだろ。


「良いじゃろう。お主の運命を呼び出してやろう。主人公ならきっと凄い人物と出会うじゃろな」


おいぃぃぃぃ! パントマイムが面白かった訳じゃないのかよ!


魔剣おばばは顔に不敵な笑みを浮かべる。魔聖おばばに手招きされ、俺は近ずいていく。すると、魔聖おばばは最初に黒い剣を差し出した。


「さぁ持ってみよ。この魔剣は宿命の魔剣。この魔剣を持った者の宿命を共に背負うものを呼び出せる魔剣じゃ」


「ちょっと待て、魔剣は持ち主以外が持ったら危いんじゃないのか? 」


俺はゼクサスが教えてくれた魔剣と聖剣の話を思い出す。


「持ち主である我が持てと言うたのじゃ。安心せい」


俺は意を決して魔剣を握る。数秒たったが何も起こらない。


「なぁ、おばばさん。何も起きねぇよ? 」


俺がそう言った直後。一瞬だけ世界が白黒になった。その一瞬の間に声が響いた。


「俺と契約出来る奴を待っていた」


聞いただけでゾッとしてしまう声だった。

俺以外の人にも聞こえたのだろう。皆んな顔が真っ青だ。


「お主、悪魔を読んだな? 」


「は? 」


悪いけど俺も全く状況が理解できない。


「お主も聞こえたであろう。先程の声の主は契約、と言ったのだぞ。つまり、悪魔じゃよ」


「えーと、なんか悪いこと? 」


「あまりよろしくはないことじゃ。まぁ、悪魔と契約した者は多くおる。安心せい。それよりも静まり返ってしまったではないか」


ここに集まっている半分くらい人が俺に畏怖の目を向けている。


「よし。次じゃ、この聖剣を持て。運命の聖剣じゃ。お主の運命の人を呼び出し、近いうちに出会う事になるじゃろ」


その聖剣を握った途端に声が聞こえた。

今度は悪魔の声では無かった。驚くことにその声は俺の声だった。


「狂った世界なんかぶち壊して、今度こそずっとずっと一緒に暮らすんだ!」


俺の頭の中にそんな言葉が響き渡った。悲痛な、苦しそうな、希望をのせたような響きだった。

何故だろう。俺は急いで何かを、誰かを探さなければ! と思った。


「どうしたのじゃ、急に目を見開いて? 」


「いやっ、何でもない。ありがとうおばば」


「一ヶ月以内に運命の人に出会えるじゃろう」


その後、俺達は広場を離れて買い物に行った。

木漏れ日のように降りそそぐ陽の光に照らされる街 オアシンバ。美しいところだ。


「魔聖おばばやっぱすげぇな! 」


「おう。そうだな」


「悪魔呼んだんだねぇ〜」


「おい! やめてくれよハーツ。気にしてんだからその事!」


男同士で騒がしくしていると、


「ねぇ。・・・・・・誰か一緒に買い物しよ、二人きりで」


ヒナが恥ずかしそうに俯いていた。


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