トン、

 トン、として私を悦ばせてよ。脳内イメージ。脳内イメージ。応答願うよ、エスオーエス。あれ? それはモールス信号か。なにかがちがう。なにがちがう? なんもかんもが、ちがいます?

 それはそれとてトンとして、さあ、トンとして。具体的にね意味を限定、そんなん言われても知りません。トン、は、トンでしょ? それ以上でも以下でもなく。だから私は悦ぶんじゃない。脳内イメージ。おうとう、ねがう?

 ピッポッパという旧式の電気の電話よりもずっとずっといまのほうがノイズがあるんだ。トン、なんてそんな、そんなにも、ふつうの、当たり前の、どこにでもあった、ありきたりの、ただ、ただ、鳴るだけの

 おと

 なんていうのは、

 旧式だし、古いから、プロトタイプと諦めよ。


 なんもかんもがクリアになった時代に私がトンだけを求めているというのははっきり言って酔狂通り越したお馬鹿さん。ううん表現の汚らしさみすぼらしさが足りない、ぜんぜん足りません、ね。最低の下衆を愚図を屑をどうしたらにほんごでひょうげんできますか? 畜生も糞ったれも充分汚らしかったのにいまやカタカナで漫画なんかでも感嘆詞として使われちまやあなんも意味もないじゃない。もっともっともっともっと汚い言葉をおぞましい言葉をきれいな言葉ばかりのこの時代に私、たちは、求めているわけ。なんもかんもパッケされちゃって。殺意も悪意もプロットですわあ。お目出度い。ほらこのニュアンスだって、いまや、いまや、単なるパッケよ。

 最強に汚くしゃべりたいだけの私たちはみな魂の去勢避妊手術済みだからなにを言っても良い子になります。よかったねえ、人類社会はこうやって、ああはてなき平和をはてなく目指していくわけですね!



 トン



 そのおとが、




 トン





 そのおとが、





 トン





 とおく

 とおく

 とおくへと、


 いってしまうことだけはゆるせない。




 そんなことをゆるせないだなんて、


 どんな絶望の言葉を言えば足りるのだろうか。

 ああ、ほら、



 いまにきこえなくなるよ。きれいさにうもれちゃう。お花畑のなかで四葉のクローバーはさがせないのよ、意味も価値もございませんから、ね?

 おと、おと、おとはどこ、




 私の識ってたおとをかえして。













 ……わたしは、でも、きたないことばもおともしりやしない、ん、だ。

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