(二)‐13

 その中に阿仁と名乗る男がやってきた。一応黒のジャケットとパンツを履き、黒のネクタイをしていたものの、雰囲気が普通の人間と違っていたのと、不審な動きをしていたので気になったのだ。

 阿仁は設けられた祭壇の前のテーブルに置かれた焼香台の前で正座をし、三回の焼香動作の後、阿仁は妹の方を正座のまま振り返った。そして深々とお辞儀をして見せたと思うと顔を床に向けたまま、突然語り始めた。

「私、姓は阿仁、名を虎夫と申します。崎玉は隈谷に生まれ、今はこの川居の土地に住んでおります、チンケな男でございます。お通夜に参上致しましたのは、この度亡くなられた合川太郎殿に大変お世話になったからでございます。若い頃はどうしようもない跳ねっ返りで周囲の方々に迷惑ばかりかけておりました。あるとき以降、合川殿は私に目を掛けて下さり、色々とお世話になりました。何かお礼をしようと思っておりましたが、その前に亡くなられてしまい、まずはとにかくお悔やみを申し上げようと参上いたしました。本当にこの度はご愁傷様でございます」


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る