3-10 DV男、遠藤との対決 後編
「お前だな?美由紀の電話に出た男は・・・。」
遠藤はじろりと航を見ると・・周りにいた美由紀たちを順番に見渡し、言った。
「何だ?お前・・・こいつら全員たぶらかしたのかよ?」
遠藤は航を睨みつけた。
「たぶらかす?それはこっちのセリフだ。お前が彼女たち全員をたぶらかしたんだろう?」
航は不敵に笑った。
「な・・・何だと・・っ?!」
遠藤は凄みを利かせた。
「まあ、落ち着け。ここは人目があって騒がしい。とりあえず上野公園にでも行かないか?」
航が肩をすくめると言った。
「ああ・・そうだな。俺もちょうどそれを考えていたんだ。それじゃ行くぞ。」
こうして6人は無言で上野公園へと向かった―。
弁天門をくぐり、6人は人気の無い場所までやってきた。
「よし、この辺でいいだろう。」
航は言った。
「ああ・・・そうだな。」
遠藤は言うと美由紀をジロリと見た。
「おい、美由紀・・・・てめえだな・・?昔の男に泣きついたな・・・?」
美由紀はビクリとなって俯いた。すると航は言った。
「いや、それは違うな。俺の家業は興信所だ。それで依頼してきただけだ。お前に酷いDVを振るわれているから別れたいってな。」
「!」
遠藤は恐ろしい目つきで睨んだ。そして次にアキに目を向けた。
「おい、アキ・・・。おまえ、どういう事だよ。何でこの男と一緒にいるんだよ。」
アキはビクリとなったが震え声で言った。
「こ、この男の人が・・・と、突然訪ねてきたんです・・。たっくんの事を聞きに・・。」
「はああっ?!おまえっ!ふざけるなよっ!調子こきやがってっ!お前みたいなデブ、俺以外に誰が相手にしてくれるって言うんだよっ!それにな、カナ!サチ!お前らもだっ!お前たちみたいな根暗な女、俺だから付き合ってやったんじゃねえかっ!」
激しい罵声を浴びせる遠藤。彼女たちはすっかり怯えて震えている。
「やめろ。これ以上彼女達を脅すな。お前が全員にDVを振るっていたのは事実だ。さっさと全員と今この場で別れろ。」
航は一歩前に進み出ると言った。
「はあっ?!俺がDVをしていた証拠でもあるって言うのかよ?それになあ・・あいつらは全員俺の金づるなんだよっ!誰が別れるかっ!」
「ひ、酷い・・・。」
ついにアキが泣き出した。
「うるせえっ!すぐ泣きやがって・・このデブがっ!」
遠藤は近くにあった木を蹴りつけると言った。
「おい、てめえ・・・。」
遠藤はじろりと航を睨みつけると言った。
「何だよ。」
「美由紀の男だったんなら聞いてるんだろ?俺がボクシングやってるの・・・。」
「ああ、知ってるさ。そしてそれがハッタリだっていう事もな。」
「な・・・何だってっ?!誰がはったりだっ!」
「お前・・・俺が誰か知ってるのか?俺は興信所の調査員のプロだ。お前のDVで怯えている彼女たちを見つけたのも俺、そして・・・お前がボクシングを習っていないことを調べたのもこの俺だ。お前が美由紀に話していたボクシングジム・・・あの辺一帯聞き込みをしたが、遠藤達也なんて名前はどこにも無かった。つまりお前はボクシングなんかやってないって事だ。」
航はニヤリと笑った。
「それになあ・・・浮気とDVの証拠ならすべて揃ってんだよ。」
航はポケットから小型ボイスレコーダーを取りだすとカチッとボタンを押した。すると音声が流れてきた。
《 いやっ!痛いっ!や、やめてっ!お、お金なら渡すから・・キャアアッ! 》
《 ああっ!四の五の言わずにさっさと出せばいいんだよっ!このブスがっ!! 》
カチッ
航はここでボタンを切った。そこに記録されていたのはカナの声だった。
「カナ・・・てっめえ・・・・。」
遠藤は怒りで身体を震わせながらカナを睨んだ。
「・・・・・。」
カナは真っ青な顔で青ざめている。
「やめろ!怯えさせるなっ!それになあ・・彼女の分だけじゃないんだよ。俺は全員にレコーダーを渡して、お前からのDV証拠の音声を持ってるんだ。ああ、ついでに言うと、さっきの音声も録音させてもらった。」
「貴様・・・・ふっざけんなっ!卑怯な手使いやがって・・・っ!」
遠藤が喚くと航はさらに大声で怒鳴り返した。」
「それはこっちのセリフだっ!!」
そのあまりの迫力に女性たちだけでなく、遠藤もびくりとなった。
「お前は最低な男だ・・・。おとなしそうな女ばかりひっかけて、恐怖と暴力で支配して金を巻き上げて・・・しかも複数人と・・。これは立派な犯罪だ。恐喝だぞ?今すぐ彼女たちと別れて、金を返せ。さもないとこれを警察に渡すぞ?」
航はレコーダーを手に持ち、淡々と言った。
「フン・・・・いつまで強がっていられるかな・・・・?」
突然遠藤が不敵に笑った。
「何だよ?」
航は首を傾げた。
「この俺が何の準備もせずに、ノコノコお前の前に現れたと思ってんのか?」
「どういう・・意味だよ・・・。」
すると茂みからガサガサと音が聞こえ、そこから2人のガラの悪そうな若い男が出てきた。
「あ・・・。」
美由紀がそれを見て息を飲んだ。
(そ、そんな・・・仲間がいたなんて・・・航君・・っ!)
美由紀は前に立つ航を身体を震わせながら見つめた。
「へへへ・・・。どうだ?驚いたか?」
遠藤は勝ち誇ったように笑う。ほかの2名の男たちも下卑た笑いをした。それを黙って見ていた航は溜息をつくと言った。
「ほんっとに馬鹿だな・・・てめえらは・・・。」
「「「何だとっ?!」」」
3人が同時に声を上げる。
「準備不足なのはお前らの方だ・・・。おい、みんな。」
航が背後の茂みに声を掛けた。すると、茂みや木の陰から10人前後の男たちが現れ、ゆっくりと進み出てきたのだ。全員屈強そうな身体の若い男たちばかりであった。そして航の左右に並んだ。
「ヒイッ!」
遠藤と2人の男の顔に恐怖が宿る。
「俺がてめえのような卑怯な男相手に・・・1人で来ると思ってるんだ?」
冷めた目で遠藤を見る航。そして一歩近づく男たち。
「ヒイイッ!!わ、悪かったっ!わ、別れるっ!別れますっ!」
腰が抜けたのか、地面にドサリと座り込んだ遠藤が震えながら航に頭を下げる。
「そうか?別れるんだな?今の言葉も録音させてもらったからな。金も返せよ?」
航はボイスレコーダーを見せると言った。
「あ、ああ・・・か・金も・・・必ず返すから・・・っ!」
「よし、なら仲間を連れてさっさとここから立ち去れっ!!」
航が怒鳴ると遠藤たちは逃げるように公園を走り去っていった。
「ふう・・・。」
航は溜息をつくと、男たちに言った。
「皆さん。ご苦労様でした。それじゃ全員にバイト代払うんで並んでください。」
「「「「え・・・?」」」」
美由紀たちは間の抜けた声を出した。しかし、それをよそに航は一列に並んだ男たちに封筒を手渡している。
「すっげー!たったこれっぽっちで3000円も貰えるなんてっ!」
「楽なバイトだったぜ!」
「また声かけてくれよな!」
等々・・男たちは嬉しそうにお金を受けとる公園を去って行った。やがて全員が帰ると航は美由紀たちに振り向くと言った。
「よし、終わったな。みんな、帰ろう。」
そして航は歩きながら美由紀たちに説明した。
事前にネットで、見た目が怖そうな20代の男性をバイト募集にかけたこと。ただ合図したときに姿を見せるだけで3000円払うと言った内容の募集を掛け・・10名雇ったこと等を淡々と説明したのだった。
その後、上野駅に着くと3人の女性たちは航に何度も感謝の意を述べ、それぞれの場所へと帰って行き・・・駅の改札には美由紀と航だけが残された。
「航君・・・。」
美由紀は顔を上げると航は言った。
「美由紀、もう遠藤は大丈夫だろう。でも・・・念の為にあのマンションは引き払ったほうがいいな。」
「航君、私は・・・。」
「ごめん。」
航は頭を下げた。
「私・・・まだ何も・・言って・・・ない・・よ?」
「でも、分かってる。俺たちは・・・いや、俺はもう美由紀を好きになれない。俺が好きなのは・・・朱莉だけなんだ。お前の気持ちには答えられない。」
航は頭を下げたまま言う。
「わ・・航君・・・。」
美由紀の目にみるみる涙がたまる。しかし、それを手で拭うと美由紀は言った。
「うん・・・分かった・・・。航君・・。私・・・実家に帰ることにするよ。」
「え・・?」
航は顔を上げた。
「私・・実家九州なんだ。都会は・・やっぱり怖いね。東京暮らしに憧れていたから上京したけど・・・・両親にも実家に戻るように実は前から言われていて・・・。それにね、私が今務めている会社・・テレワークも可能なの。だから在宅勤務にさせてもらうことにした。航君・・今までありがとうね。」
美由紀は笑顔で言った。
「・・・そうか。美由紀・・・九州に戻っても・・元気でな。」
「うん!航君もね。それじゃ・・さよならっ!」
美由紀は背を向けると改札へ向かって駆けて行った。
(さよなら・・・航君・・・!私・・・本当に航君の事・・大好きだったよ・・・!)
泣きながら美由紀は心の中で航に別れを告げた。
「さよなら・・・美由紀。」
航は美由紀の姿が見えなくなるまで見送った。
そして1週間後・・・
美由紀は九州へと帰って行った―。
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