4-20 決定的瞬間
翔は夕食の時間に明日香と同じテーブルに着席させて貰えるように白鳥にお膳立てをして貰えたので、その旨を朱莉に伝えるためにメッセージを打っていた。
そして送信をすると部屋の窓から外を眺めた。窓の外からは美しい景色が広がっている。
(夏に来れたら最高の場所だろうな・・。それにしても明日香・・・きっと自分のテーブル席に俺が付いているのを見たら驚くだろうな・・。癇癪を起さなけれればいいが・・。もし、帰らないと言われたらどうする・・?)
部屋でじっとしていても落ち着かないと感じた翔は呟いた。
「折角だから・・・夕食まで風呂に入りに行ってくるか・・・。」
そして入浴の準備を始めた。
午後2時―
京極は「ホテル・ハイネスト」のロビーにいた。一応、顔がばれないようにウィッグを付け、あご周りにひげを付けた京極の変装は完璧だった。現に今までこの姿で琢磨や航の近くを歩いていても気付かれた事は無かった。
(恐らく鳴海明日香と鳴海翔は何処かで場所を決めて会うはずだ・・・。ロビーが怪しいと思ったが・・・違うようだな・・。互いの部屋だったらまずいな・・。だが、静香の話ではあの2人は今仲たがい中だ。どちらかの部屋に行くのは考えにくい。もしかすると明日香には黙って鳴海翔はここへ来た可能性もあるし・・・。だとしたら2人が会う可能性のある場所と言えば・・・。)
京極は先ほど貰って来たホテル案内のパンフレットを開いた。そして食事についての案内のページを開く。
「なるほど・・・・食事をとる場所は5Fにあるレストランか・・・。宿泊客以外も利用できるし・・きっと2人はここで会うに違いない・・・。」
京極の勘は外れたことが無い。京極には絶対の自信があった。
「夕食の時間まで・・この辺りを散策してみるか。」
京極は呟くとふらりとホテルの外へ出た。何気なく足を向けた方向に美しい中庭がある事に気が付いた。
(綺麗な中庭だな・・。行ってみるか・・。)
京極は少し立ち寄ってみたくなった。そして足を踏み入れ、歩き始めた時、男女の会話する声が聞こえてきた。
(先客がいたのか・・・。)
人がいるなら邪魔をしてはマズイと思った京極は元来た道を戻ろうと歩きかけた時、ふと聞き覚えのある女の声が耳に飛び込んできた。
(え・・?あの声は・・・?)
木の陰に身を隠すように京極はそろそろと声の聞こえる方向へ近寄り・・・衝撃で目を見開いた。
そこには明日香と見知らぬ男性がベンチに座っていた。2人の様子は京極には仲睦まじいカップルに見えたのである。
(あ・・・!あれは鳴海明日香・・・!それに誰だ・・・?一緒にいるあの男は・・初めて見る顔だ・・・?)
だが・・・京極は顔に笑みを浮かべた。
(俺は何て運の良い男なんだ・・・。あの2人・・誰がどう見てもただ事ではない関係に見える・・。)
会話の内容まではよく聞こえてこないが、男は明日香の腰に手を回し、耳元で何かを囁いているように見える。そんな明日香は満更でも無いように男の話に聞き入っている。
(明日香・・・あれは明日香の新しい男か・・もしかすると鳴海翔に愛想を尽かしたのか・・?)
京極はスマホで男の画像を1枚収めた。男の画像を収めたその後も京極はスマホをを握りしめていた。何か決定的な映像が取れる予感がしたからだ。そしてそのまま暫くの間・・京極は2人の様子を木の影から伺っていると、男が明日香にキスをしてきたのだ。
「!」
京極は一瞬驚いたが、すぐにスマホを構え、・・・ついに決定的瞬間をとらえる事に成功した。
(ハハハ・・まさか明日香の浮気現場の写真を撮る事が出来たとはな・・・。)
京極は小躍りしたくなる気持ちを必死に抑え、2人にバレないようにそろそろとその場を後にした。京極に取って2人がどのような話をしているのかはどうでも良かった。肝心なのは映像だ。
「これは・・・面白い事になりそうだ。まずは一度明日香と一緒にいた男を調べてみるか・・・。夕食まで良い時間つぶしが出来そうだな・・・。」
そして京極は笑みを浮かべた—。
その頃、姫宮は入浴後にホテルのルームーサービスで足裏マッサージを受けていた。すると突然手元に置いたスマホに着信が入って来た。着信相手は京極からである。姫宮はスマホをタップしてメッセージを表示させた。
『この男を知っているか?』
メッセージに添付ファイルがある。姫宮は画像ファイルをタップすると、スマホ画面一杯に若い男性の顔が映し出された。
「え・・・?誰かしら・・?」
すると、姫宮の呟きを聞いたマッサージをしていたスタッフが声を掛けて来た。
「お客様、どうかされましたか?」
「い、いえ・・知り合いから画像が届いたのよ。この男性を知らないかって。」
どうせ今夜一晩だけしか泊まらないホテルなのだ。多少見せても構わないだろう・・・そう踏んだ姫宮は女性スタッフに画像を見せた。すると意外な返事が反って来た。
「あら〜この方は白鳥誠也さんですね。」
「白鳥誠也?」
「この辺りでは有名な方ですよ。何せここ一帯のホテルの中で一番のホテル・ハイネストの総支配人ですからね。」
「え?ホテル・ハイネストの総支配人・・・?」
(一体どういう事かしら・・・。でも言われた通り質問に答えていては駄目だわ。また勝手に正人に暴走されても困るし・・。)
「どんな方なのかしら?」
姫宮がその話に乗ってくると、女性スタッフは目を輝かせながら熱く語り始めた。
「兎に角、この方は凄いんですよっ!まだ32歳と言う若さであの有名な総支配人をされているのですからっ!しかも独身で、イケメンッ!女性達の憧れの的なんです!」
「ふ〜ん・・・そうなの・・・。」
(正人が突然、この男を知っているか?なんてメッセージを送って来たと言う事は・・絶対に何かもっと重要なネタを掴んでいるはず・・まずはそれを聞きだしてから彼の事を教えた方が良さそうね・・・。)
そこで姫宮は言った。
「マッサージ、どうもありがとうございます。お陰様で足がすっきりしました。」
「え?、もうおやめになるのですか?」
「ええ、大丈夫です。ご苦労様でした。」
「はい、それでは失礼致します。」
女性スタッフが下がると姫宮はスマホをタップしてメッセージを打ちこんだ。
『この男性がどうかしたの?』
すると少しの間を空けて、再び京極からメッセージが入って来たのだ。
『面白い映像が撮れた。」
「面白い映像・・?」
姫宮は首を傾げながら添付ファイルをタップして息を飲んだ。そこに映し出されていたのは明日香と白鳥が抱き合い、キスをしている画像だったからだ。
「!な、何・・・この写真は・・加工されている訳じゃ無いし・・・まさか本物・・!」
確かにここ最近姫宮から見ても鳴海翔と明日香の中は最悪と呼べる関係に近かった。
だが、それはあくまで一過性の物であって、少し距離を置けば2人の仲は回復するだろうと姫宮は高をくくっていたのだが・・・。
「成程・・・確かにこれは面白い映像に違いないわね・・・。」
その時、突如として姫宮のスマホに直に京極が電話を掛けて来た。
「もしもし・・・。」
『どうだ?静香。あの画像・・男の名前・・・もう分かったんだろう?』
「何故、そう思ったの?」
『勘だよ、静香のメッセージ・・妙にもったい付けた書き方に思えたんだ。』
「別にもったい付けた訳じゃ無いわ。」
『そうか、まあ別に構わないさ。それで誰なんだ?この男は・・・。」
「彼はね、白鳥誠也。今正人がいるホテルの総支配人をしているそうよ。」
『何だって?その話・・・本当なのか・?』
「ええ、そうよ。これだけ伝えれば・・・もう十分よね?」
『ああ、十分だ・・。有難う静香。』
それだけ伝えると京極は受話器を切った。
「フフフ・・・・これは本当に面白い事になって来たな・・。」
そして京極は肩を震わせながら笑みを浮かべた―。
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