四十四話 小細工を整える
「思ったより大変だねー」
「けど助かる」
「助かるって……何がだ?」
無事に魔族領へと入り込んだ僕たちは、ゲーム『オルタナティブ』的には終盤のマップであるこの地域の洗礼を受けていた。ソルに大変と言わせたそれは、獣だ。
例の厄介な黒い個体ではなく、普通にこの辺に生息する獣。ゲーム的にいえばいわゆる雑魚敵だけど、今倒したばかりのビッグベアは、かつてファストガの依頼センターで騒ぎを起こしたレイジベアを一回り大きくした屈強なクマで、その個体としての強さもレイジベアを一回り上回る。しかもそんなビッグベアが五体の群れで襲ってきたのを撃退したところだった。
「これだよ」
言いながら倒したばかりのビッグベアに近づいて、耳の部分を切り落とす。
「肉とか爪ならともかく……、そんなの何かの素材になったか?」
「まあ見ていろって」
不思議そうにするジオに自信満々で返して、後は黙々と処理を施していく。さすがはテスト・デ・バッガさん、いや自画自賛だけど、正直自分で思ったよりも見事な出来栄えだ。
「……?」
「見てもわかんねぇ」
ゴルードで調達していた小物を取り付けて完成させたそれを見て、ジオだけでなくソルも首を傾げている。分からなかったか……。
「こう使う」
それ――本物のクマの耳から作ったクマ耳アクセサリー――を自分の頭に取り付けてみせた。急造りではあるけど高い細工技能で作った精巧なアクセサリーを、これまた高度な隠蔽技能を駆使して取り付けた今、僕の頭部にはクマの耳が生え、そして元々のヒューマンの耳は髪に隠れて見えなくなっている……はずだ。
「わ、すごーい!」
「そうか、変装か」
「……ほっ」
ソルとジオに褒められながら、取り出した鏡で確認するとちゃんとできている。これならヒューマンではなく熊族にしかみえないな。
「考えてみたらオレらは密入国者だったな」
「魔族と人族の間の情勢もよくわからないから、こうした方が無難だろう。熊族なら山奥に引っ込んで滅多に出てこない部族だし、嘘もつきやすい」
僕の知る限りなら、だけど熊族の“設定”はそうなっている。そういうこともあっての「助かる」だった訳だ。
「アタシにもつけて!」
「よし、頭をこっちにだして」
仮装みたいな感覚なのか嬉しそうにするソルにもクマ耳を取り付ける。ちなみに染料を使ってソル用はちゃんと赤い毛のクマ耳にしている。
ソルにも違和感なくクマ耳が取り付けられたところで、無言でジオも近づいてくる。
「……」
「大丈夫、似合うって」
恥ずかしいのか無言のまま頭を突き出してきたジオにも取り付けて、しきりに気にしているジオに声を掛ける。ていうか見た目は小柄だけど、活発で気の強いジオはやんちゃな子グマって感じですごく似合っている。まあそれは言ったら怒られそうだから、言わないけど。
「アタシはー?」
「もちろんソルも似合ってる。二人共かわいいよ」
「えへへー」
「っ!?」
赤毛の元気なクマっ娘と、やんちゃ子グマを眺めて、改めて言葉にして褒めた。親バカかもしれないけど、大変かわいらしい。そしてこれなら集落に入っても熊族の旅人だといえば、少なくとも短期間なら怪しまれずに行動できるだろう。
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