人間側 とある男児と玩具


「そーっと…そーっと…! …やった!取れたあ!」



手がぷるぷると震えたけど…それを我慢したら、すぽんと抜けた…! じゃあ…―。



「次は、ミミックさんがジェンガを抜く番!」





ぼくがそう言うと、横に座っている…座っているのかな? おもちゃ箱みたいなのに入った触手さんが、にょいんと伸びる。



そしてぼくたちの目の前にある、もうぐらぐらしてる穴あきジェンガのブロックひとつに触れて…!



「わ…わ…! 倒れる…?倒れちゃう…!?」


「おおお…! ちょっと抜けてきた…!」



一緒にやっている他の二人も、どきどきしながらミミックさんの動きを見つめる…! ちょっとずつ…ちょっとずつ引っ張ってって……!




 グラッ  ガシャン!




「「「あー崩れた! ミミックさんの負けー!」」」













良かったぁ、ぼくが負けなくて。次はぜったい無理だったもん! さ、ジェンガはかなり遊んだし、次は何してあそぼっかな~!



んー迷っちゃう! だってここ、おもちゃはなんでもあるし、遊び放題なんだから!





ここは、ぼくがよく来る遊び場。『おもちゃ部屋ダンジョン』って言うんだって。外の見た目は小屋なんだけど、中に入るとすっっごく広いお部屋になってるの。



そして…おもちゃたちがぜーんぶ動いてるんだ! ぬいぐるみさんも、お人形さんも、ボールさんも、積木さんも。



そして今遊んでいたジェンガさんも! ほら、ひとつひとつのブロックがふよふよ動いてる!





それが珍しいからか、ここにはお父さんお母さんや、他の大人たちもたくさん来るみたい。今日もお父さんたちと来たんだけど…別のとこ行っちゃった。



でも、寂しくなんてないよ。寧ろ、好きなだけ遊べて楽しい! 初めて会う友達がいっぱいいるし、おもちゃたちと仲良くなれるし!




帰りたくなっても大丈夫!そんな時はおもちゃたちが、お父さんたちのところや出口まで連れてってくれるんだ~!



でも、ぼくはずっとここに居たいから、だいたいお父さんたちが来ちゃうんだけど!









他にも、一緒に遊んでくれる大人たちがいるの。エルフや獣人のお兄さんお姉さんとかは、肩車とかしてくれるんだ!



それでねそれでね! 今日初めて会った、遊んでくれる大人?がいるんだ!




それがあの、ミミックさん! 触手がうにょうにょしている魔物なんだけど…。初めて会った時はびっくりしちゃった!



だって、置いてあったおもちゃ箱の中からひょっこり出てきたんだもん! わあっ!?って声あげちゃった…!



でも……触手をくねくね動かしてるの、見てて面白いし、一緒に遊んでくれるし…すぐに仲良くなっちゃった!



さっき、触手をお腹に巻いて貰って、高い高いして貰ったんだ! 楽しかった!











それでぼく、そんなミミックさんともっと遊びたいんだけど…。



「はーいミミックさん! ご飯の時間ですよ~! お味はどうですか~」



他の子とおままごと始めちゃった。 美味しいって言うように、触手をくるんくるん動かしてる。



ぼくもおままごとに参加しても良いんだけど、あんまり気分じゃない。 別の遊びしにいこーっと!










ということで、ダンジョンの中をとことこと。柔らかい床の踏み心地が気持ちいい。



さあ、なにしよう。格好いい人形さんを見つけて、闘いごっことか? 変身ごっこもいいかも!



それとも、砂場とかで山を…………あれ?





「…………へへ……!」


「……良い…だ…!」


「こいつ…………ぜ!」


「だな……! なら…………」




……なんだろ。どっかから声が聞こえてくる。なんか楽しそうな感じ? えっと、こっちのほうだ。



あ、なんかある。動かせる壁で作られた、四角い場所。なんか秘密基地みたい……! 声もこの中から聞こえているし、覗いちゃえ!



よいしょ! ぼくも仲間にいーれーて! …………へ?





「うおっ!? なんだ!?」


「びっくりさせやがって…!」


「ガキじゃねえか!」


「何見てやがんだ! どっか行け!」




中に居たのは、おじさんが四人。……なんか、怖そうな見た目…。 そして、変なことしてる……。



「…おじさんたち、なんで女の子のお人形さんをひっくり返してるの?」








ぼくがそう聞くと、おじさんたちはびくってなる。だって、おかしいもの。女の子が遊ぶ可愛いお人形さんをひっくり返して、スカートの中を覗いてるんだから。



もしかして…変態さん? 変態おじさん? 変なおじさん?




「そのお人形さん嫌がってるし、放してあげてよ」



しかも掴まれてるそのお人形さんは、すごくイヤイヤって暴れてる。だからぼくはそうお願いしたんだけど、おじさんたちは放してくれない。それどころか……。



「あ゛!? 誰が放すか! こいつはプレミアがついてる…」


「おい、黙ってろ! ほらクソガキ、どっか行け! じゃないとぶん殴るぞ!」



ぼくを怒ってきた…! しかも、お人形さんを持っているおじさんが、僕のことを押し出そうとこっちに……。



……今だ! えいっ!




「っな…!? テメエこのガキ!? それを返しやがれ!!」 



おじさんの手からお人形さんを引っ張って、外してあげた! さっきのジェンガに比べたら、すっごく簡単!



「待てゴラ! 蹴り飛ばすぞ! ガキだからって容赦すると思うな!」



わわ…! おじさんたちが全員こっちに来ちゃった! 逃げなきゃ!!










お人形さんを抱っこしながら、ぼくは頑張って走る…! でも、おじさんたちはすごい怖い顔で追いかけてくる……!



誰か…誰か助けて…!!





 カラカラカラカラ……!





――へ?  今、足元を何かが走っていったような…?  あれって…小さい馬車のおもちゃ?



ぼくが足を止めて見ちゃうと、その馬車のおもちゃはそのまま勢いよくおじさんたちの足の下に……!



「~~!?!?!?!? い゛っッッだぁあ゛あああ!?!?」



直後、おじさんの1人が悲鳴を上げて倒れた…!馬車のおもちゃ、踏んだみたい。お父さんが僕のおもちゃ踏んだ時、あんな感じだった。



でも、よかった…! 他のおじさんたちも足を止めた。今の内に……。



「く…クソッ! こいつ…ぶっ壊してやる!」



あっ! 踏んだおじさんが、馬車のおもちゃを掴んで…どっかに投げつけようと……! …ん!?





 パカッ ギュルッ!


「ぐえっ!?」





なにあれ…! 馬車のおもちゃの中から触手が出て来て…! おじさんを捕まえた!?



「な、なんだこれ!? わ…あああああ!」



そして、馬車のおもちゃに引っ張られて、どこかに…! 消えてっちゃった……。








ぼくも、残った三人のおじさんたちもぼーっとしちゃう…。なんだったんだろう…。



でもあれ、触手だったから…ミミックさん? 馬車のおもちゃの中に、ミミックさんがいたの? ぼくがそう考えていると…。



「どうしたでありますか?」



「あ! おもちゃの兵隊さん!」



近くのおもちゃな山にカシャンと着地したのは、スズで出来た兵隊のお人形さん。ぼくがさっきのことを話すと、兵隊さんは小さい剣を引き抜いた。



「なるほど、悪漢でありますか! ならばその子女の子人形を連れて、向こうにあるボールプールまで逃げて欲しいであります!」



「う、うん!」



「感謝するであります! では自分は…時間稼ぎするであります! とうっ!」




シャキンと剣を構え、格好良くジャンプする兵隊さん! そしてそのまま、ぼくに近づいて来ていたおじさんたちに……!



「おっとっとぉ! へっ!これぐらい止められねえと思ったか! これでも俺らは腕利きでよ!」



あーっ!! 兵隊さん、捕まっちゃった!!







どうしよう、助けなきゃ…! でも、逃げてって言われたし…!



「どうした安物! そのちゃちい剣で反撃しねえのか? なんなら、片足もいでやろうか?」



ぼくがあわあわしていると、おじさんが兵隊さんにそう言う。すると兵隊さんは……。



「フフフ…! 自分、これでもしっかり者で通っておりまして! 無策に飛び込んだわけではないであります!」



「あ゛あ?」



「お気づきにならぬのであれば致し方なし。 ――自分は、『囮』であります!」



兵隊さんがそう口にした、次の瞬間――!




「んなっ!? ぬいぐるみが!?」


「おもちゃのシャベル!? フライ返し!? うおっ!?」


「な、なんだこれ…! 他にも色々来やがった!?」




色んなとこから、色んなおもちゃが沢山!! 一斉におじさんたちにぽこぽこぶつかりだした!



「痛っ! この…痛っっ!」


「こ、この…ちょこちょことォ!」


「邪魔くせえ!」



…けど、おもちゃが幾らぶつかっても、柔らかいぬいぐるみとかが殴っても、おじさんたちにはあんまりダメージがないみたい…。このままじゃ……。




「!? あ…あばばばばばば……!?」



…え!? おじさんの1人が、びくんびくんしながら倒れた!? あれ?あのぬいぐるみの中から…なに、あの変な色の蜂!?



「は!?『宝箱バチ』だと!? なんでミミックがぬいぐるみの中に潜んでやがんだ!? ほ、他のヤツもいやがる!」



びっくりするおじさん。あれもミミックなんだ…! あ、ほんとだ! なんかおもちゃのバケツや貯金箱とかの中から、おんなじぐらい変な色のヘビとかがでてきた!



そして…あそこにいるおもちゃ箱! さっき一緒に遊んでた触手のミミックさんだ!!




「さ! ここは自分達に任せて、逃げるであります!」



「うん!」



おもちゃの兵隊さんに従い、ぼくはお人形さんを抱っこして走った!













「えーい!」


 ザボォンッ!



そのままぼくは、見つけたボールプールの中に勢いよく飛び込んだ! 沢山の色んな色のボールが当たって気持ちいい!



「お人形さん、大丈夫?」



そんなボールのプールからぷはっと顔を出して、抱っこしていたお人形さんに聞く。すると、とても嬉しそうにうなずいてくれた! 良かった…!



……でも、なんでさっきの兵隊さん、ここに逃げてって言ったんだろ? 他のお友達や大人たちも遊んでるみたいだし、一緒に居てってことなのかな?



それとも、誰か呼んできてってこと? 確かにさっきのおじさんたちは怖いし、おもちゃやミミックさんたちだけじゃ……―。




「はぁ…はぁ…! 見つけたぞ…クソガキがぁ!!」







わぁっ!? さっきのおじさんが、ここまで来ちゃった! すごくボロボロにやられていて、1人だけになってるけど…!



「さあ…早くその人形を寄こせ…! じゃねえと…痛い目みるぞ…!」



そう怒るような声で、ぼくに寄ってくるおじさん…! お人形さんがぼくの服を引っ張って、ボールプールの奥に連れていこうとしてくれる…!



けど、ぼくはおじさんの勢いが怖くて…動けなくなっちゃって…。その間におじさんも、ボールプールの中に入って来て……――。




「あ゛ん…? ……!? な、なんだ…!? ボールが…纏わりついてくるだと!?」





――わああ…!すごいすごい! ボールプールのボールが一斉に動いて、悪いおじさんの周りに…!



そうだ、ボールさんたちも動くんだから、こんなに沢山仲間がいるってことなんだ…! 兵隊さんがここを教えてくれたのは、そういうことなのかも!



「こ…このォ! こんな軽いボールで俺を止められると思うなァ!」




えっ…! おじさん、くっついてくるボールを払いながら、無理やりぼくのほうに来る…! 駄目なの…!?ボールさんたちだけじゃ、ダメなの…!?



だ、誰か…! 誰か助けて!!!!




 



 ボゴゴゴゴゴゴゴ……!






……え? ボールプールの遠くから、波が……? 



違う! ボールプールの底を、何かがこっちに進んで来てる!? もぐらみたいに!? そして…!!




 ポコンッ!



少し離れたところに出てきたのは…おもちゃ箱!…じゃない? おもちゃ箱みたいな見た目の…宝箱? それが勝手に、パカッと蓋が開いて…?




 ポココンッ!



「おもちゃ泥棒&子供をいじめる悪いヤツ! 私が相手だー!」



へっ!?今度はおじさんの足元から、ボール…ううん、ちっちゃいボールに入った、魔物のお姉さんが飛び出してきた!?



「っ!? じょ、上位ミミッ…むぐっ!?」



そしてそのお姉さん、伸ばした触手でおじさんをグルグル巻きにして……!



「ボールプールで相手をゴールにシュゥゥゥーッ!!  超!エキサイティンッ!」



「もごぉっっ!?」



そのまま、蓋が開いた宝箱の中に……投げ入れた!!!!







「な…なんでこんな玩具まみれのダンジョンに、上位ミミックが…!? ってこいつも宝箱型ミミックじゃねえか! 止めっ…!呑み込もうとすんじゃねえ!?」



宝箱型ミミックさん?にもぐもぐされながら、暴れるおじさん…! すごく大変なんだろうけど、ボールプールに浮いてる宝箱に食べられてるの、なんか面白い…!



「『俺たちおもちゃは何でもお見通しだ。 だから、大事に遊ぶんだぜ』ってね! どっかのおもちゃカウボーイの名台詞だよ~!」



そうおじさんへ向け言いながら、ぼくのほうにころころ来てくれる上位ミミック?のお姉さん。そして…シャキンと決めポーズ!



「そして私達ミミックも、ずっと見張ってるもん! 悪いヤツはぁ~~許さないよ!」



すると、ぼくが持っているお人形さんも、同じくシャキンと。…じゃあぼくも! シャキン!







「反省した? 皆に迷惑かけず、仲良く遊ぶなら解放したげるよ?」



未だもごもご噛まれてるおじさんに、ミミックお姉さんはそう伝える。すると―。



「わ、わかった…! もう何もしねえから…放してくれ!」



お願いするようなおじさん。それを聞きお姉さんが合図すると、宝箱ミミックさんはおじさんをペッと吐き出した。 おじさんはボールプールの中にズボンと消えて……。




「……なわけねえだろ間抜けミミックがァ! テメエら全員ぶっ殺してやる!」



わぁぁああ!? 剣を引き抜いて、ぼくたちを襲いに来た!! けど、お姉さんは全くびっくりしないで…。



「ひゅー!良い感じに悪役! なら悪役を倒すのは私じゃなくて…変身ヒーローが一番!」



「何言ってやがる! この…むごぉっ!?」



あっ!おじさんが…背後からとんできた触手に縛られた…! あれは…さっきのおもちゃ箱の触手ミミックさん! 兵隊さんたちも!



「少年、あの悪役を懲らしめるヒーローになってくれるでありますか?」



ボールの上をぴょんぴょん飛んできて、ぼくの肩に乗ってきた兵隊さん。ぼくがこくんと頷くと、ミミックお姉さんが入っているボールの中から?何かをとりだした。



「じゃあ、どっちがいーい?」



それは…変身ステッキと変身ベルト! もしかして、これで変身して…! こっちが良い!



「ベルトにけってーい! じゃあ巻いて巻いて~。 せーの!」



『変身!』







――さっきのポーズで『変身』って叫ぶと、ベルトが光る! そして、ぼくの身体に鎧が…!そして、仮面が!



「変身かんりょーう! 仮面のライダー!」



ミミックお姉さんが拍手してくれる…! ―と…。



「ライダーなんだし、何かに乗らなきゃ! ということで、かもーん!」



どこから取り出したのか、宝箱に乗り換えたお姉さん。 ちょいちょいと呼ばれ、肩車する形で乗っけてもらう!



「完成!ミミックライダー! どっかにはスライムに乗るナイトもいるし、きっとアリ!」



そのまま、お姉さんはボールプールの上を器用に走りだす…! そして、近くにあったトランポリンに乗って――!



「わあああっ!  と、飛んでる!?」



「『飛んでるんじゃない、落ちてるんだ。かっこつけてな』ってねてね! じゃ、必殺技でカッコつけちゃお~!」



ぼくごとボヨンと空中に跳ねたお姉さんは、ぼくにキックのポーズをさせる。そして僕の足に触手を巻いて…




「いっくよ~! みみっーく! キーーーック!!」




そのまま、縛られてるおじさんの元に……急降下だぁ!!!






「なああああっっ!? ぐわあああああっ!」


 ボーーーーンッ!




おじさんの声と、色とりどりの爆発…じゃなくて、ボールプールのボールがだっぱーんって溢れた音!



あ、おじさんが吹き飛ばされて…さっきの宝箱ミミックさんにパクリって! そのまま仕舞われちゃった!




「おもちゃはおもちゃ箱の中に! 悪い人はミミックの中に! しっかり片付けよぉー!」




着地したミミックお姉さんは、また決めポーズ! ぼくももう一度ぉ…シャキーンッ!!


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