閑話⑦

会社施設紹介:色んな倉庫


さて。今回の我が社の施設紹介は……んー…、施設って言っていいのだろうか…?


まあいいか。『倉庫』である。




皆様がご存知の通り、我が社のミミック派遣代金支払い方法は、何も金銀財宝だけではない。


例えばダンジョン内部、又は近場に自生している素材や食材、魔物達が作ったアイテム類。そういった物での支払いも問題ないのだ。



中には体毛や欠けた角や爪など、本来ならばゴミとして捨てられるはずの物でもOKだったりする。勿論その希少度によるが、魔物の素材ってかなりレアな物がほとんどなことが多い。


私の…悪魔族の角や翼、尻尾だってとんでもなく高額で取引される。それどころか、切った爪とか髪の毛とかすら。魔法薬の材料に使われるらしい。売ったことも、売る気もないけど。






話が逸れてしまった。そうして貰ったアイテム群は、私の魔眼『鑑識眼』によって市場価格から疑似的な値段を算出。派遣代金とする。それでダンジョンに行きたがるミミック達を派遣する…というのが流れである。




―あ。そういえば説明しそびれていたが…ミミック達は基本、ダンジョン行きを拒まない。寧ろ私が行きたいやりたいと立候補してくる場合も多く、時にはくじ引きで決めることもある。



実を言うと…彼女達ミミックはその特性上からか、ダンジョンでないと長くは暮らしていけない。ミミックといえば宝箱が思い浮かぶ事実、そして野良ミミックをあまり見ないのはそのためである。


だからこの『ミミック派遣会社』は、職場斡旋だけではなく『ミミック達の終の棲家探し』も兼ねているのだ。…これ、社長の受け売りである。



なので、実際に良い場所を見つけて、契約満了と共にそこへ引っ越していくミミック達も多い。そういう時は、流石にちょっと寂しくなってしまう…。


まあ皆ちょこちょこ顔を出してくれはするし、その場合は格安で専用箱も作ってあげるのだけど。







―っは。また話が…。いけないいけない、おっそろしく逸れた気がする…。閑話休題と。



そうやって代金として貰ったアイテム類は、市場に売ったり、ラティッカさん達箱工房が使ったり、私がちょっとした魔法薬の作成に使うが…何分量が量。


下手に大量に流して市場価格を下落させるわけにはいかないし、私達が全部使い切れるものでもない。ということで、保存する場所が必要となるのだ。


それが、我が社の倉庫である。





実は社屋や箱工房の周りに、幾つも小さめの建物(宝箱型)があるのだが…お気づきだっただろうか。


さして紹介する必要がないと思い、紹介していなかった。しかし、今回焦点を当てるのはそこである。



とはいっても、色々とある。素材倉庫の他に、武具倉庫やアイテム倉庫、食料倉庫や危険素材倉庫だったり。他にも、訓練道具倉庫や炬燵倉庫ってのもあったりする。



一つずつ紹介していくとしよう。









ではまずはここ。『食料倉庫』から。 …なんでよりにもよってここからなのか? いやまあ、場所的にというか…。


他の倉庫は軒並み箱工房側だったり、訓練場側だったりするのだが、ここだけは違う。本社の建物の裏に設置されているのだ。



ここをよく使うのは当然、食堂で料理してくれている食器のポルターガイストたち。あまり遠くに倉庫を置くと、彼らが困るのである。


一応ワープ魔法陣を設置しており、厨房の奥からすぐに出入り可能にはしてあるが…その魔法も、距離が短ければ魔力消費がその分少なくなるから。



因みに倉庫の見た目は、お肉やお魚、野菜やお菓子などがはみ出している宝箱型。まさに食材の宝石箱。




では、中に…。 う、ちょっと寒い…。冷蔵庫としても機能しているから当たり前だけど…。



ここに限らず、倉庫の全てには空間魔法を使ってある。だから、外の見た目より数倍、いや数十倍はある容量を持っている。


腐敗防止魔法や期限管理魔法、脱臭魔法とか諸々の魔法は使ってあるけど、食料倉庫を複数に分けると管理が面倒。そのため、倉庫一つで完結できるような仕組みになっている。



具体的に言うと、内部が幾つかの区域に分かれているのだ。ここみたいな冷蔵庫、冷暗所、冷凍庫とかとか…。どんな食材も保存できるシステムが完備されているのである。



そのおかげで…見て欲しい、この新鮮な食材の数々を。つやつやな果物、しゃっきりしたお野菜、新鮮なお肉お魚、程よく冷えた牛乳、冷たーいアイス。なんでもござれ。



…そう話してたら、ちょっと小腹が空いてしまった…。ちょっとこのリンゴ、一つ貰っちゃお。




…あっ…今の、できれば内緒に…。ポルターガイストたち以外のここへの侵入は、食材の搬入搬出を除き、原則禁止なのだ…。まあほとんどの倉庫はそうなのだが…。


いや…まあ…ぶっちゃけ、ここに限っては守られてない場合が多いのだけど…。結構ゆっるゆるで、事あるごとに小腹すかせたミミック達が忍び込み、生の食材をもぐついているし…。



…えーと。ここに、変な板状の端末があるのがわかるだろうか。手で持てるサイズで、後ろに私が今持ってるようなリンゴの絵が描いてある板。


これは『魔法の記録端末』で、つまみ食いした物をここに記録するのが(暗黙の)ルールになっている。それさえすれば、残り食材の管理は容易いから。なお、この端末は各倉庫にある。




…うん、はい。もはや、なあなあな状態であるのは察して貰った通り。『一応規則が決めてある』程度の代物になっている。


しかし、仮にも社長秘書である私が表立って規則を破るわけには…いや社長は思いっきり侵入して色々食べてるんだけど…!




あ、そうだ。無理やり話を逸らすわけではないが…。たまにやらかす子がいる。冷凍庫コーナーで、氷漬けになっているミミックが稀にいるのだ。


アイスとかを食べてお腹いっぱいになって、遊びか訓練の疲れが出て、つい眠くなっちゃった。そしてうとうとしてたら、きづけばかっちんこっちんに……。―っ!



そういえばさっき…一匹、宝箱型のミミックがいないって報告があった…!もしかして…!!



急いで、冷凍庫コーナーに。扉を開け、中のあちこちを探して…。あぁ…


「いた…………」


キャンディアイスを咥えながらぐっすりな、カチコチに凍ったミミックが……。











とりあえず、さっきの氷漬けミミックはお風呂に放り込んできた。あとは入ってた他のミミック達にお任せ。


さて、気を取り直して倉庫の紹介に移ろう。リンゴ美味しい。




次はここ。『訓練道具倉庫』。ラティッカさん達箱工房のドワーフ謹製、訓練道具が置いてある場所である。


見た目は、ボールを咥えた宝箱型。なお、その巨大ボールの模様は気分で変えられる。サッカーボールだったり、バスケットボールだったり…モ●スターボール?というものだったり。


この機能、必要あったのだろうか。いやまあ、一応理由があるっちゃあるのだけども…。




中に入って見ればわかる通り、色んな訓練道具があちらこちらに。ボールやハードル、バトンやマットとかの体育道具は当然常備。


他には、これまたラティッカさん達が作ったロボットである『冒険者オートマタ』とか、対策訓練で使う剣や槍などの武器。簡単な魔導書や魔法石もある。


因みに、訓練後の地面をならすトンボという道具もあるが…。基本これは使われない。なにせ、ミミック達が自分ですいいっと地面を走り、均してしまうから。





…そして、ここにもちょくちょくミミックが閉じ込められていることがある。その頻度は、さっきみたいに食糧倉庫で眠っちゃう子達よりも段違いに多い。


その理由は大体同じ。お片付けの際に疲れが出て、ちょっとぐっすり。またはサボってすやすや。その間に倉庫の鍵が閉められ、あら大変ってとこである。


何分この倉庫は静か。用具類のちょっと独特な匂いも相まって、結構好む子はいる。というか、別に訓練も何もないのにたむろしていることもちょくちょく。


そして食糧倉庫からかっぱらって来た食べ物を、隠れてもぐもぐ。不良か。





…というか、今もいる。横の跳び箱。耳を澄ますと…中からすぅすぅと寝息が。



もう。…数段外して、と…。やっぱりいた、上位ミミックの1人が。跳び箱は『箱』だから落ち着くのだろう。


「ほら、起きてください」


「んぅ…? あぁ~アストちゃぁん。あれぇ、それ、リンゴぉ? ちょうだーい…!」


「食べかけでよければ。とりあえず出ましょう」


「はぁ~い…くぁぁ~」


私からリンゴを貰い、出ていく上位ミミック。まああんな感じで寝ちゃうのだ。





そんな『体育倉庫に閉じ込められる』という王道展開だが、余りにも多いため一時は鍵を無くしてしまうかという案もでた。


まあそれでも良かったのだろうが、社長の『それだと風情もロマンスもないわね!』的な一言で別の案に。鍵に風情とロマンスとは…?



それで考案されたのが、奥にあるトランポリン。あれには魔法がかけてあるため、予想以上に跳ねるのだ。


それに乗り、数回ポヨンポヨン。すると、ガッと跳び上がり、天井にある専用の穴を突き破って脱出できるのだ。箱に閉じこもって堅牢さを増すことのできる、ミミックだから出来る荒業。


そうすれば、辿り着く先は天井の巨大ボールの中。あとはそこから『行け、なんとか!』をすれば脱出完了。


因みにここの魔法陣を弄ると、巨大ボールの模様が『HELP』になる。もし何かで動けなくなったなら、それで救援を求められるのだ。





…しかし、『閉じ込められない対策』ではなく、『閉じ込められても大丈夫な脱出方法』をつけるとは奇妙な。確かに、言ってもなくなることではないが…。


でも、生体反応を感知する魔法とかもあるのに…一体なぜ。それにずっと気になっていたのだけど、その決定会議の時、社長やけに私の案に反対してきて…。



…………あ! そういうことか! 書類仕事の山から雲隠れする際、ここに逃げ込んでいたのかもしれない…! 


今日はいないけど…。ここは盲点だった。次はしっかり確認しよう…!










ではお次は…お待たせしました、『素材倉庫』。各ダンジョンからの頂き物や、市場から買い付けた素材を全て保管している場所である。


ここから先、紹介する倉庫は全て、本当に『必要無い時の出入り禁止』。もし無断で入って勝手に持ち出そうものなら、社長のお仕置き案件。


ので、侵入を試みる者は全くいない。いや本当に。どんなお仕置きかは…想像にお任せで…。




この素材倉庫の見た目は、普通の宝箱。しかし色がついている。青、黄、赤。それぞれ入っている物が違う。なお、臨時で簡易魔法倉庫を立てる場合もあったりする。


自由に出入りできるのは私と社長、そして箱工房のドワーフの面々。他の子達が入る場合は、事前に許可を受け、カード発行式。



そしてそれを入口にある魔法陣にかざせば扉が開くというシステム。…なお、自由出入り面子のみ、手で反応して扉が開くようになっている。


いやだって…ラティッカさん達、よくカード失くすのだもの…。知っての通り、あの人達ズボr…けほん、豪快な性格ばかりだから…。作る箱の装飾とかはやけに繊細なのに、謎である。





さて、まずは青の倉庫に。中に入ると―。ごらんあれ、この至る所に積まれた素材の山を。さっきの食料倉庫も凄かったが、ここは更に凄い物ばかり。


例えば、あそこの区域にあるのは『アーマーシャークの堅皮』、『マーメイドの虹鱗』、『人食い貝の岩殻』、『宝珠珊瑚の欠片』、『刃噴ウニの射出鋭刃棘』、『クラーケンの爪吸盤』などなど…。海の素材が集まっている。



そして更に奥の区域には…『ハーピーの柔羽毛』、『バトルホークの風斬り羽』、『ロック鳥の極彩色羽』、『風渡りの希綿毛』、『守風蝶の冥鱗粉』、『ドラゴンの鋭爪』、『ワイバーンの竜鱗』…その他色々といった、空の素材。



こんな感じに、この青の素材倉庫は『空と海の素材』が集められている。そして隣の黄色の倉庫には『地の素材』。



多種多様な『魔獣の爪や牙、骨や獣毛』、『ラミアの蛇殻』、『巨大蛙の粘液』、『妖精の祈り粉』、『ケンタウロスの蹄鉄や尾毛』、『スケルトンの朽ちかけ骨』、『イエティの白氷毛』といった魔物素材から―。



魔法樹などの『木材』、鉄鉱石などの『鋼材』、ウインドジュエルを始めとした『各種魔法石』、氷結石を始めとした『各種魔法鉱物』といった採掘採取系素材。更に―。



『高級薬花』や『魔力花』、『熟睡連』、『鼻菖蒲』、『味菜』といった薬草。様々な『特殊キノコ』、『トレントの葉や果物』といった植物素材も。


…なお、一部食べられる系の素材は、食料倉庫にも入っている。というかぶっちゃけ、そっち行きの分が多かったり…。







さて、素材倉庫は残り『赤』のとこだけなのだが…。先に『武具倉庫』と『アイテム倉庫』を軽く説明してしまおう。


とは言っても、たいしたことはない。代金として貰った冒険者のドロップ品(ロスト品)や、ダンジョン先の魔物に作ってもらった物、ラティッカさん達が暇つぶしに作った武具類が入っているだけ。


アイテム倉庫も同上。冒険者のアイテムや、作ってもらった魔法薬など。そして私が魔法修行がてら作るものが入っている。…私が作ったの、結構売れるのが嬉しい。


見た目はそれぞれ、『兜をかぶり、剣を咥えている宝箱』と、『瓶がはみ出している宝箱』である。でもそれ以外に説明することもないので、これで終わり。




それにしても…もしこの素材倉庫や武具アイテム倉庫の中身を全部売り捌いたならば、一瞬で大金持ちだろう。下手すれば、小国の一つを買えてしまうかもしれない。そんな量があるのだ。


…自分で言っておいてなんだけど、『ミミックの、ミミックによる、ミミックのための王国』って有りなのかな…? 想像がつかない…。


けど、王城が宝箱型しているのだけは簡単に想像ついてしまう…。









では、赤い倉庫に行ってみよう。青倉庫が、海と空素材。黄色倉庫が地上素材。なら、赤は?


―――こここそが、『危険素材倉庫』である。




この倉庫のセキュリティはどこよりも高い。入口の魔法陣に手を触れ、顔を見せ、パスワードを入力し、声を認識させる。それで初めて扉が開くのだ。


入れるのは、社長、私、ラティッカさんの三人のみ。それ以外は固く禁止。かつ、入りたい場合は私に声をかける必要がある。


なにせ危険だから、防護魔法を多重にかける必要があるのだ。私も今、かけて…と。良し。それでは、入ろう。




一際重く、厚い扉を開いて中に。…ぅぇ…。一歩足を踏み入れただけで、禍々しい瘴気が身体を包んでくる…。


いくらしっかり保存していても、『圧』は漏れ出してくる。正直、防護魔法が無ければすぐに倒れてしまうぐらいに重苦しい。


さあそして…見えるだろうか。大量に重ねられている、金庫の数々を。



重厚なその金庫群は、扉部分が透明になっていて中が見える仕様。でも強度は確認済みであるから安心して欲しい。


箱工房の神髄とも言っていいこれは、仮に社長が中に入っても、壊して出てくるのに一時間はかかるほどの強度を持っている。…わかりにくいか。


うーん…山一つ簡単に破壊する爆発魔法を当てても、傷一つつかないぐらいの強度、といえばまだわかりやすいかな?



そしてこの金庫一つ一つには、入口と同じ施錠魔法だけじゃなく、計量魔法、安全確認魔法、維持魔法、盗難防止魔法etcetc…かなりの数の魔法がかけてある。



そうでもしないと、危険なのだ。さっき、『倉庫の物を全部売ったら小国一つ帰るかも』と冗談交じりで言ったが…ここにあるものを使えば、冗談抜きに一国を滅ぼすことだって可能なのである。




例えば…あの金庫の中の、瓶詰な紫液。『ヒュドラの極猛毒』である。一本投げ込めば、広い湖が毒沼に代わるほどの毒性を持っている。



あっちのは『呪い人形の黒呪髪』。以前訪問した妖怪たちのダンジョンから頂いたもの。放っておくと無尽蔵に伸び、周囲のあらゆるものを破壊し絞め殺すという呪いの産物。



向こうのは『邪教の栄典』。これまたミミックを派遣している邪教団から貰ったものだが、ひとページを読んだ…いや目にしただけで精神崩壊を引き起こす代物。呪い付与としては最高の黒魔術道具だが…。



ここにあるのは、『神の御札』。これまた頂き物である。全てを浄化してくれる有難いお札だが…効果が強すぎて、下手に使うと使った相手はおろか自分自身まで消滅させかねないという恐ろしくもある道具なのだ。




そんな感じの、第一級危険物ばかり集まっている。正直さっさと売ってしまいたい物もあるが、こんなものを市場に流したらどうなるかなんて火を見るよりも明らか。


だから、安全のためここで一時保存。一応社長が魔王様にかけあって、一部を買い取って貰っているのだけど…。




…え? この間貰った、『サキュバスの露』はどこかって…? あぁうん…確かにアレも、第一級危険物指定。一滴でどんな生物も数日は強制発情するヤバいやつ。



…いや、あるけど…。ほら、あそこの金庫に…。ワインボトルサイズで、ピンクな液体がちゃっぷちゃっぷ言っているのが…。



………一緒に貰った、スッケスケのベビードールはどこに…って…? …なんで言わなきゃいけないのだろうか…。


確かに金庫に入れとくとは言ったけど…勿論冗談に決まっている…。……社長と私、それぞれのタンスの奥底に入ってる…。









さて、倉庫の説明はこれにて終了。ぶっちゃけ、紹介する必要があったのかって感じは拭えないが…。


あぁ、因みに…。倉庫の位置は自由に変えることができる。倉庫の能力ではなく、ミミック達の力でだけど。


倉庫の中に多数のミミックが入り、せーので動かすのだ。倉庫自体を『箱』に見立てて。そんなことできちゃうのだからミミックはやはり奇妙な魔物である。







……はい? 『炬燵倉庫』の説明がまだだって? あー…。


いや、説明する必要はないかなって…。特に今は空っぽだし。



…要は、シーズン外の時に炬燵を仕舞っておく倉庫である。なんでわざわざ倉庫を作っているのかというと、ミミック達が暴走するから。


前にも説明した通り、炬燵はミミック達にとって天敵に等しい。しっかり仕舞って鍵をかけておかないと、いつの間にか引っ張り出して籠ってしまうのだ。


それ故の、専用倉庫。危険素材倉庫ほどではないけど、そこには厳重な鍵をかけてあり、私にしか開けられない。


…はず、だったのだけど…。





…この間の惨状閑話を見てもらった方ならわかると思う…。社長達、私が眠ってしまった隙に、総出で倉庫を強襲したのだ。


後で見にいったら、無惨な姿だった。鍵が思いっきり砕かれていたのだもの。社長が先導すると本当に手に負えない…。




じゃあ今も、ミミック達はこたつむり状態から出てきていないんじゃないかって? それは大丈夫である。


数日は黙認したが、それ以降は策を講じた。結局、『訓練時間になったら、炬燵が強制的に宙に浮く』魔法を全炬燵にかけたのである。


私だって、やられてばかりではいられないもの。この会社の社長秘書なのだから。






―さて。頃合いかな。




1つ、嘘をついていたのを謝罪しなければならない。『今の炬燵倉庫は空っぽ』―。そのことである。



本来ならばその通りである。炬燵は全部持ち出され、至る所で使われているはず。この間鍵を直しに行った際も、完全にがらんどうだった。


…だったのだが、ちょっと予感を感じ、倉庫内部に監視魔法をかけておいたのだ。その映像を、空中に映し出そう。



見えるだろうか。何もないはずの倉庫の奥に、炬燵が一つ置いてあるのが。しかも完璧にセットされ、起動もしている。


そして、そこから顔を出して蕩けているのは…上位ミミック数人。その内一人は、社長である。




私が何で、突然に各倉庫を紹介したか。それは時間つぶしのためである。


実は社長、今日も書類仕事が溜まっている。素材取引の見積もり書、契約更新の確認書、箱工房からの予算及び素材使用の依頼書…その他諸々。


それをほっぽりだして、逃げたのだ。時折やるのである。特に炬燵を出してる時期は。



でも、食堂の炬燵とかだとすぐバレる。だから隠れて秘密の炬燵を設置したのだろう。全く…。


でも、もうある程度は暖まらせてあげた。そろそろ引き取りに行こう。






歩く音や衣擦れの音を魔法で消し、炬燵倉庫前に。因みに倉庫の見た目はまんま炬燵型。


鍵は…簡単なものにしてたとはいえ、まーた壊されてる。ふぅ…さて、と…。



バンッ!


「しゃーちょーう? お仕事の時間ですよぉ?」



扉を乱暴に開け、ずかずかと中に。と―


「「「ひっ…!?」」」


奥から引きつった声が。直後…


「ひ、引き込んじゃって!」


社長の号令と共に、大量の触手が一斉に襲い掛かってくる。だけど…無駄。


「させませんからね?」


即座にシールド魔法陣を展開し、全てを弾き飛ばす。繰り返される触手連撃を意に介さず、私は炬燵に接近。手を触れ魔法をかけた。



ふわっ…

「「「あぁっ…!」」」


天井へと飛んでいく炬燵。中には縮こまった社長達が。その絵面はハムスターみたいでちょっと可愛い…が。


「もうだいぶ待ってあげたんですから。さあ、社長室に連行しますよ」


容赦なく、社長を拾い上げる。いやんいやんとごねる社長を無理やり宝箱の中に詰め込む。



「いいじゃないのよぉ…アストぉ…サインなんて後回しでもぉ…」


「そうやって逃げて、どれだけ山のようになってると思っているんですか?」


溜息つきながらそう説明しても、社長は嫌がり続ける。仕方ない…、彼女の耳元に口を近づけ、優しく、そして怒りの籠った口調で囁いた。


「いい加減にしないと、私も本気で怒りますよ?」



「…! ひゃい……ごめんなさい…」


一瞬にして静かになる社長。いつも負けっぱなしだが、こういう時は強く出ると聞いてくれる。…なんか若干、嬉しそうな顔してる気がしないでもないけども…。




こんな風に倉庫の管理から社長の管理まで、私のお仕事。では、あえてもう一度。私はこの会社の社長秘書なのだから。

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