顧客リスト№18 『ラミアのくねくね洞窟ダンジョン』

魔物側 社長秘書アストの日誌

「曲がってるわねー」

「曲がってますねー」


本日もまた依頼を受けてダンジョン視察。社長を抱え、私はとある洞窟の中を歩いていた。


しかし、このどうくつやけにくねくねしている。上へ下へ、右へ左へ、斜めに曲がり、Uターンすらもあるその道全てには、鱗の様な模様がびっしりと刻まれていたりもする。



そして、なんていうのだろう、かどが無いというか…。


勿論丁字路や十字路のように道が分かれている場所はあるのだが、カクカクしていないのだ。どの道も大きめなカーブを描くように作られており、滑らかさすら感じられる。…なんかどこ歩いているのかわかんなくなってきた。


四角張ってるのはそこらへんに転がっている宝箱や壺、岩だけ。いや壺は丸いの多いか。






そんな曲がりくねった道の先に見えるのは、幾つもの小さい光。 と…。


シュルルル シュルルル


何十にも響き渡る、独特の移動音。もっと言えば、這いずり音。もうお分かりになった方もいるだろう。


先程から見えている小さな光は、ギョロリとした目の輝き。私達の来訪にむっくり鎌首をもたげ、チロチロと舌を出し入れするは細く、長く、このダンジョンのようにくねくねした存在達。


そう、蛇である。




「たっくさんいるわねー。うりうり」


私の身体をよじ登り、自らの箱まで来た蛇の頭を社長は撫でてあげる。傍から見たら完全に蛇使いである。


まあ、うち我が社にも群体型のミミックとして蛇はいるから社長も私もそこまで恐怖は感じない。ちょっと噛まれないか心配だけど。うちにいる蛇達と違って、普通に殺してくる毒持ってる子多いし。


でも、その心配もぶっちゃけ杞憂ではある。なにせここの蛇達はとある魔物達の眷属。彼女達が私達を噛むなと命令している以上、しっかりその言う事を聞いてくれる。


その上位魔物の正体はというと…。



ズルズルズル…


一際大きい這いずり音が聞こえてくる。まるで大蛇のよう…まあ普通サイズの蛇と比べたら大蛇であろう。


「やっほ。いらっしゃい社長、アストさん」


二つに割れた舌先をチロリと出しつつ、私達に軽く手と尾(って言って良いんだよね?)を振ったのは、上半身が人、下半身が蛇の姿の魔物『ラミア』が1人、今回の依頼主『ナアガ』さんである。






「道中滑んなかった? 結構床とかつるつるしてるでしょ。私達は大丈夫なんだけどね」


にょろんと身体を伸ばし、壁に張り付きながらそう聞いてくるナアガさん。なるほど。通路にやけに角が無いと思ったら、彼女達が移動する際に削れて円くなっているのかもしれない。


「大丈夫でしたよ!」

「よかったー」


そう笑いあう社長達。私は気になってナアガさんの身体をしげしげ見やる。


上半身の2倍、いや3倍以上は間違いなくある下半身の蛇部分は太く、鱗がびっしり。今もナアガさんの尾らへんは軽くとぐろを巻いてる。


なのに、上半身の女性の身体は私と同じ柔らかな肌。しかもスレンダーで巨乳。同じ女性である私も羨ましくなるほど艶めかしい。


その半身同士の境目はどうなっているのか凄い気になるが、残念ながらスカート?ヒップスカーフ?みたいな腰布で隠されている。


そして、へそ出しである。もっと言えばビキニと腰布しか身に着けてない。他の魔物の女性達もへそ出し多いし、私も出すべきなのかなぁ。


あ、蛇の足ならば太ももの太さとか気にする必要なかったりするのかな。それなら羨ましい…。






ナアガさんに案内され、ダンジョンの中の開けた場所に出る。そこには他のラミアの方たちもいた。


「丁度私達ラミアのご飯の時間なんだ。今日多めに獲ってきたから、食べてく?」


そう言いながら、ナアガさんが持ってきたのはジュージューと美味しそうに焼けた大きな骨つき肉。よく漫画とかで見る、顔と同じぐらいのサイズである。


「わーい!いただきまーす!」


社長はガブリとかぶりつく。そして、美味ひい!と満面の笑みを浮かべた。


…しかし、少女な体の社長が持つと、お肉の大きさが凄く際立つ。私も貰ったけど、食べきれるだろうか…?


少なくとも、結構な時間は掛かりそうかも。そう思いながらふとナアガさんの方を見やると―


「あーーーむっ」


えっ!? 一口…!?



ナアガさんだけではない。顎が外れてるんじゃないかと見紛うほどにパカァと大きく口を開け、他のラミア達も次々と顔大の骨付き肉を食べ…もとい呑み込んでいく。


ぽかんとする私を余所に、彼女達の口からはポンッと骨が。綺麗にお肉だけ食べた様子である。すると、ナアガさんは一言。


「うん。良い喉越し」


焼き肉の喉越しって何…?




「ちょっとお腹いっぱいになってきちゃった…。凄いですね…これ一口でなんて」


「私達、蛇だから。自分の顔と同じ大きさぐらいの物なら簡単にいけるよ」


私にそう答えたナアガさんは、何か思いついたのかしゅるりと身体を動かす。次の瞬間、先程までの比較的ゆっくりとした移動速度とは比べ物にならないほどの速さで私に巻き付いてきた。


「ひゃぁっ!?」


ちょっとぼうっとしていた私は一切抵抗出来ず雁字搦めに。気づくとナアガさんの顔は真横にあり、彼女は耳元で舌なめずりしながら囁いた。


「こうやってね、獲物を捕まえるの。社長ぐらいならばそのまま、アストさんサイズならぎゅっと巻き潰して、頭から一気に…」


「ひぇっ…」

パクンッ


思わず目を瞑ってしまった。あれ…でも、食べられた感じでは…。手が生暖かっ!


「お腹いっぱいみたいだから貰っちゃった」


もぐもぐ声のナアガさんの言葉で気づいた。手にしていた肉が消えている。有難いんだけども、心臓に悪い…。


「ごちそうさまでした!」


社長は社長で骨付き肉食べきってるし。








「さてさて、お仕事にとりかかりましょう! ご依頼内容はなんでしょう?」


食事が終わり、商談モードの社長。ナアガさんも自らのとぐろを椅子代わりに座り直した。


「最近冒険者増えてきちゃったから、その対策にお願いしたいんだけど」


「あらま、因みに狙われているものとかお聞かせして頂いても?」


「うん」


と、ナアガさんは仲間に何かを持ってきてもらう。それは―。


「わっ。長いですね」


人が簡単に入れそうなほど太く、長い蛇の抜け殻。ただし胴から先がないから恐らくラミア達の抜け殻であろう。鱗の形もしっかり浮き出ており、乾いているというのに引っ張っても簡単に破れない。


「これは蛇皮系装備や幸運アイテムの素材となってますね。特にこれとかは質がとても良いですし、かなり高値で流通してます」


『鑑識眼』から見出した情報を私はそらんじる。ナアガさんはこくりと頷いた。


「そ。この他にも、眷属の蛇達もよく倒されちゃってる。時には私達の身体から鱗を無理やり剥ごうとする冒険者もいたりするの。あとね…この子達がよく追われちゃう」


と、ナアガさんは尻尾の先を動かす。近くの箱にすぽっと入れると、何か器用に掴み取り出してきた。


「あれって…がらがら?」


それはあやす時に使われるあの玩具。これが本当のガラガラヘビ…なんちゃって。




「皆、怖がらないで出ておいで」

ガラガラガラ


尻尾ふりふり、ガラガラをかき鳴らすナアガさん。すると、至る所から…。


「「「チー!」」」


可愛らしい鳴き声。そして―。


シュバッ!


「うん…?」


一瞬そこの岩陰を何か通過したような…。目を擦って見るけども、もう何もいない。


「わっ!もしかしてこの子達…!」


社長はやけに驚いた顔をしながら足元を見ている。一体何が…?


「「「チー!!」」」


「うそ…!」


そこにいたのは、蛇…だけども、全く長くない。そして、その胴部分はがずんぐりと太い。これってもしかして…


「「ツチノコ…!!?」」





びょ~~んと凄いジャンプをし、私達の腕の中にスポリと入ってきたツチノコ達。ナアガさんに安全だと教えて貰ったからか、やけに懐いてくる。


「始めて見ました…」


傍に寄ってきた子をころころと転がしてあげながら、目を丸くしている社長。私も初めて見た…。


滅多に見つからないことから、存在がほぼほぼ伝説のような魔物、『ツチノコ』。幸運の象徴とされており、多額の賞金を懸けている商人や貴族王族は結構いるのだ。


「この子達警戒心が強いから基本捕まらないんだけど、極稀に連れ去られちゃうの。特に最近は」


自分のところに飛んできたツチノコをむにんむにんと揉み撫でながら、そう説明してくれるナアガさんであった。




「あ。ミミックを借りるお代は私達の脱皮した皮で大丈夫? どうせ要らないものだし、いくらでも持って行っちゃっていいよ」


「問題ありませんよ! こちらカタログでーす!」


ナアガさんの言葉に胸をポムンと叩いて請け合う社長。箱から出したカタログはツチノコ達がナアガさんの元へもっていってくれた。力持ち。




ペラペラとカタログを捲り、目を通していくナアガさん。と、彼女の手が止まった。


「ふむふむ…お? この蛇は何?」


「それは『群体型ミミック』の一種、『宝箱ヘビ』ですね。ひと噛みで冒険者を麻痺させ、どんな回復魔法も効かない毒をもっている子で…」


そう説明する社長。しかし、何故かナアガさんは静かに首を横に振った。


「あー…多分その子は駄目かもしれない」







「へ? なんでですか?」


頭に?マークを浮かべ首を傾げる社長。するとナアガさんは説明し忘れてた、と残し一旦どこかへ。少しして戻ってきた彼女の手には、妙なものが握られていた。


「これって…」

「笛、ですね…?」


それは一部が球状に膨らんだ木のような材質だが、幾つかの穴が空いており、吹き口もついている。なんか珍しい形。


「アスト、わかる?」

「ちょっと待ってくださいね…。 えーと…『蛇使いの魔笛』…?」


鑑識眼が弾き出したのは、そんな名前の魔法アイテム名。因みに結構な値段がする代物っぽい。


ん…? 蛇使い…? もしかして…。




「ちょっと吹き続けてみて」


ナアガさんにそう言われ、私は恐る恐る息を吹き入れてみた。


ポ~♪ペペラァ~♪ピヒャラ~♪


民族楽器みたいな独特な音楽。魔法アイテムだからか勝手に指が動いて曲を奏でてくれるし意外と楽しい。


だが、そんな私の前では思わぬ光景が始まっていた。




「あぅ…やっぱ逆らえないか…」


突然立ち上がったナアガさん。歪み気な顔とは対照的に、蛇の尾と人のお腹がくねん、くねん。激しいベリーダンスを始めたではないか。揺れる腰布と綺麗なおへそ&胸が実に妖艶。


いや、彼女だけではない。食休憩として寝っ転がっていた他ラミア達、周囲にいた蛇達、社長と遊んでいたツチノコ達まで…!器用に尾で立ち、長い身体を右へ左へダンシング。


私が吹く笛の音楽に合わせ、その場は熱烈なダンス会場に。…社長まで踊り始めちゃった。自発的にだけど。




「アストさん、吹くの止めてぇ…」


ナアガさんの言葉に慌てて笛から口を離す。その瞬間音楽は止まり、踊っていた皆(社長以外)はその場にひょろひょろと崩れ落ちた。


「ご飯食べた直後だから横腹が…」


お腹をさすさすしながら床に潰れるナアガさん。なんか申し訳ない…。


「まあ…こんな感じで冒険者に操られちゃって。隠れていても思わず身体を晒しちゃうせいで上手く抵抗できないし、素早いツチノコ達も上手く逃げられないみたいなの」


蛇使いの魔笛の効果は絶大らしい。いくら敵をあっという間に縛り上げ、毒牙で仕留める蛇達と言えど、強制的に踊らされてしまえば何もできない。


もし普通のダンジョンでこんな笛なんか吹いたら忽ち他の魔物達が駆け付けるだろう。でも、ここには蛇達しかいない。まさに天敵。私達ミミックに頼ってくるのもわかる。



「自分達で遊ぶだけなら楽しいんだけど…。社長、なんとかなる?」


「えぇ!お任せを! 我が社には他にもミミックはいますから! いい子達を派遣させていただきます!」


ナアガさんのすがるような言葉に、未だ身体を揺らし踊っていた社長はピースサインを出した。


「あと、良い方法思いつきました! これを使いましょう!」


そう言い、社長が手にしたのは…。


「私達の抜け殻?」


さっきから横にあった、代金としても貰った蛇の皮。首を捻るナアガさん達に向け、社長は自信満々に言い切った。


「はい! ミミックは擬態するもの。それは別に動かぬ箱だけじゃありませんから!」

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