人間側 とある冒険者パーティーの海女
「よーし、ついたよー。全員命がけで頑張ってきてねー。 それじゃ、以下、よろしくー」
船頭の若干間延びした鼓舞が青空の下に響く。それを皮切りに、数艇の高速魔導艇から次々と乗っていた冒険者達が飛び込んでいく。勿論、私達3人も。
「――。――。 はい!魔法付与かんりょーう」
「装備忘れ物は無い? 船一旦帰っちゃうからね」
「勿論、行くよ…せーの!」
「「「やっほー!」」」
パーティー揃って、船から勢いよく飛び降りる。中には空中で一回転してバシャンと着水した子も。
冷たい水が心地よい…が、これも楽しめるのは今だけ。唇が紫になるほど深く潜らなきゃいけないから。
私達のパーティーは今、『海溝ダンジョン』というところに来ている。正確には、その海面上だけど。
ここには一個回収するだけで暫く遊べるほどの超高価な巨大真珠が大量に眠っている。それを目当てにしているのだ。
え?そんなに沢山の同業者が同時に行って大丈夫なのか? 大丈夫、真珠は大量にあるから。いやいや、それよりも違う、危険な問題がある。
「あっ! 見て!」
メンバーの1人が既に遠くに消えかけの船を指さす。その真後ろから、巨大なタコの触手がザバァと上がり、追いかけているではないか。
普通の船ならたちどころに捕まり巻き潰されるところだが、高速艇だからギリギリのところで振り切りなんとか逃げ続けている。
あの触手の正体、それは『クラーケン』。巨大なタコだかイカだかの姿をしていて、航海中の船を潰して海中に引きずり込むと恐れられているあの魔物である。この海溝ダンジョンは2匹のクラーケンの棲み処なのだ。
剣も魔法もほとんど弾力ある身体に弾かれ効かない。というか当たっても巨大すぎてダメージとならない。そして水中の魔物だから私達冒険者は圧倒的に不利。 クラーケンの姿を見たらそそくさ逃げるのが正しい対処法だったりする。
「今がチャンスだ! 潜れ潜れ!」
しかし、そのうちの一匹が船にご執心中。絶好のチャンスだと周囲の冒険者達は一斉に水中へと潜っていく。私達もそれに続く、が…。
「いやいるじゃん!」
水中に顔を入れた瞬間、真下に見えたのは白いイカのクラーケン。赤いタコのクラーケンより多い手をくねらせ戦闘モードを取っている。
「また運試しかぁ…仕方ない、行くよ!」
号令を出し、パーティーを動かす。これが先に述べた『危険な問題』。相手は手足(?)の多いクラーケン、数名で挑んだらたちどころに捕まって復活魔法陣送りにされてしまう。
だから、挑戦者を増やし、クラーケンが対処できなくなる隙を狙うのだ。当然ほとんどは仕留められてしまうが、運が良ければ海溝の中に潜り込める。
「ぐええ…」
「くそぅ!」
次々とクラーケンに縛られ力尽き、ぷかぁと海面まで浮かんでいく冒険者達。それを背に、私達のパーティーはなんとか全員が触手の網を潜り抜けることができた。よかった、最近海産物食べるの止めておいて。
「…もうライトつけていいかな?」
「多分…」
闇雲に深く潜り、真上を見やる。どうやらクラーケンには気づかれていなかったらしい。ほっと一息つく。…海の中で一息つくって、よくよく考えれば凄い体験してる。魔法さまさま。
でも、ここまでくればもう成功したようなもの。真珠を拾い、クラーケンにみつからないよう静かに浮上するだけ。さて、真珠貝を探さなきゃ。
カチリとライトをつけ、暗めの水中を泳ぐ。クラーケンの棲み処とあって、狂暴な鮫とかは全くいない。気軽に探索をすることができる。
と―。
「ん? リーダー、あれ!」
メンバーの1人が指さした先には、ぺかっと光るライト。動いている。こちらがカチカチとライトを点滅させると、向こうも気づいたらしく、点滅させながらこっちに寄ってきた。
「よぅ、お前達も逃げきれたのか?」
それは別パーティーの一団。最も、何人かやられたのか2人しかいなかったけども。
とはいえ仲間が増えるのは嬉しい事。いつクラーケンが帰ってくるかわからない現状、人手は多い方が良いもの。もうここまで来たら宝の奪い合いとか必要ないしね。
「おっあったぞ。真珠貝だ」
早速、別パーティーの人達が見つけてくれた。私達も後ろから覗かせてもらうことに。今日は何個獲れるかな。重いけど10個はほしいな、私がそう考えていた時だった。
「よいしょっ!」
カパンッ ギュルッ!
「へ…? ぐえっ…!?」
貝の蓋が開けられた直後、中から何かが飛び出してくる。それは、蛸足のような触手。蓋を開けた冒険者は一瞬で絡めとられ、絞め殺された。
「「「「えぇ…」」」」
唖然とする私達と、別パーティーのメンバー。その間に死んだ冒険者はぷかぁっと海面に向かって浮かび上がり、真珠貝はパタンと蓋を閉じた。
「どういうこと…?」
「えっと、とりあえず…えいっ!」
困惑しながらも、私は真珠貝に剣を突き刺してみる。しかし…。
ギィンッ
「堅っ!」
海の中で攻撃の威力が弱まっているというのもあるのだろうけど、傷すらつかない。それどころか、再度触手を伸ばしてきたため、慌てて距離を取った。
「もしかしてあれ、ミミック?」
「あいつら海中にもいるの!? 嘘ぉ…」
それでも、何も獲らず帰るわけにはいかない。とりあえずミミック真珠貝から逃げ、別のを探しに。
すると、運よくすぐ見つかった。警戒しながら蓋を開けると…。
「やった! 当たり!」
中にはキラキラ輝く巨大真珠。一個目確保! 早速仲間の子が拾い上げ…。
パカンッ
「は?」
え…なんで…? なんで真珠が二つに割れたの…!? なんで真珠の中身が空洞なの…!?
ガブッ
「痛っ…! あばばば…あばばばばば…ごぼぼっ…」
ぼうっとしている間に、真珠を持ち上げていた仲間の子は苦しみだす。慌ててヒール魔法をかけるが、効果なし。力なくぷかぁっと浮かんでいってしまった。
一方ゴトンと貝の中に落ちた、半分に割れた真珠は…いや違う、これ蓋ついた真珠型の容器だ! だって中に赤と青の明らかな毒持ちウミヘビ達が棲みついているんだもん!
「…これ持って帰るわけにはいかないよね…」
カポンと蓋を閉じたウミヘビ入り真珠もどきを見ながら、仲間の子はぼそりと呟く。
「いや駄目でしょ…」
こんなもの持ち帰っても売れるわけない。むー…真珠のベッドとは羨ましい。
「仕方ないですし、他のを探しましょう。あのー…パーティー入れてくださいませんか?」
別パーティーだった人もそう提案してくれたので、臨時パーティー結成。よし、気を取り直して探索を続けよう、そう意気込んだ時だった。
「ひっ! 後ろ!」
仲間の子の叫びに、私は反射的に飛び退く。真上からズオッと現れたのは巨大な白い柱…じゃない、イカの触手。クラーケンだ…!
「あそこに洞穴があります…!」
「逃げよう…!」
慌ててライトを消し、近場の穴に逃げ込む私達。息を潜め、外の様子を窺う。
ズルリズルリと壁を這いずる音、そして穴の時折覆う影。どうやらクラーケンは周囲を警戒しているらしい。
でも、ここに居れば大丈夫。あの太い触手じゃここまで入ってこれない…。
「あれ…?」
ふと、その場にいた3人が眉を潜める。穴の中に何かが入ってきたのだ。
「もしかして、私達の他にも逃げてきた冒険者が…?」
「いや、魔物かもしれません…!」
岩陰に隠れながら警戒を強める。すると、その何かはパッとライトを点灯させた。
「…魔物じゃなさそう…?」
様子を確認に、3人そろって恐る恐る顔を出してみる。 でも…それが悪かった。
「「「へ…?」」」
瞬間、私達のおでこに赤く細い光が当てられる。そして…。
バシュッ ドスッドスッドスッ!
「マ゛ンッ!?」
「メ゛ンッ!?」
「ミ゛ッ…!?」
小さく悲鳴をあげる私達。ライトの元から、何かが飛んできて頭をヘッドショットして来たのだ。
「「「…はっ!?」」」
気づいたら港の教会の復活魔法陣の上にいた。どうやら即死してしまったらしい。
「なんだったの最期のやつ…!」
「わからないです…」
おでこを抑えながら困惑する2人。しかし、私は僅かに正体を見ていた。
いやでも…なんだったのあれ…? 潜水艦…いや、宝箱…? それなのに飛んできたのは魚だったような…。
なんか腹立ってきた…!今日は我慢していたお刺身とか焼き魚とかたっぷり食べてやる! 特に蛸と烏賊!
――――――――――――――――――――――
隠れていた冒険者が仕留められた後、彼女達の頭に刺さった何かがスポンと外れ泳ぎ出す。それは通称『宝箱ダツ』と呼ばれている魚魔物であった。
どんな厚手の鱗ですら貫くほどの尖った口をしており、海の中に落ちている箱に隠れ、獲物が近づいた瞬間勢いよく突き刺さり仕留める生態をもっている。
しかし臆病な性質のため、箱から遠くに離れることはないのだが…。
宝箱ダツ達はライトがつく謎の箱の元へと泳ぎ戻り、次々と入っていく。すると、箱からひょこりと何かが顔をのぞかせた。
「うーん…もういなさそうね! お仕事終わりっ。海中移動式ミミック宝箱、帰投しまーす!」
それは上位ミミックが一体。彼女は首を引っ込めると、なにかをごそごそ弄る。
すると、宝箱はその場でぐるりと半回転。背後についたスクリューを回しながらふよふよと穴の外に泳ぎ出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます