第137話 ソリトとドーラのプチ観光
「ごっはん〜ごっはん〜♪おいしーごっはん〜♪とっくもーりげっきもーりたーのしみー♪」
中央都市アルス観光区域の表大通りを、この後懐が一瞬にして寂しくなるような歌を歌いながら、上機嫌に竜族の幼女がルンルンと歩いている。
満面な笑みで纏う雰囲気は楽しそうだ。
その顔から全身から、楽しみでしかない、という感情が満ち溢れている。
そんなドーラを周りの大人は微笑ましく、あるいは見守るように眺めている。
ソリトも普段は浮かべない穏やかな表情で真後ろを歩いていた。
「あるじ様、どこに行くんよ!?」
「そうだな〜」
以前、この都市のガイドをしているカナロアからオススメ聞いた観光のリストアップの本のように纏めたメモを片手に飲食店を探す。
商人が行商したり、店を構え集まる事もあって内陸でも魚介類の料理を出す店もある。
ソリトも美味いものを食べるのは好きなので悩み所である。
「あるじ様〜!お花いっぱいやよー!」
いつの間にか離れた所で、来て来て!、とウサギの様にピョンピョン跳ねている。
ドーラの見つけた場所は花屋だった。
色鮮やかな花で彩られた店内に瞳をキラキラさせている。
確かにソリト達は事情が事情だったとは言え、この中央都市に来てから一度も観光をしていなかった。
ドーラには目新しい物ばかりなので良い刺激になる。
腹を満たした後に、観光がてら遊ばせるのも悪くない。
ドーラに対しての親のような思考をするソリト。
ちなみに、本人は施設で子どもの世話をしていた為にそれが親目線に近い等と全く気付いていない。
店に入り、自然とどれがドーラに似合うかと見始める事も同じ理由。
そうして、選んだのは貴族等がドレス等に使用する造花用で、小さな濃赤色の花にその花より少し大きく薄桃色の花。
それを店員にコサージュに拵えてもらった物を購入する。
そして、この都市に置いてきていた旅袋から裁縫用の糸と針を取りだし、念のため【裁縫師】を発動させて、ドーラのヘッドドレスにコサージュを縫い付けた。
完成した物は黒白のゴシックドレスという事で赤系統の花のコサージュは印象的で見映えがある。
ソリトはその出来栄えに満足の表情を浮かべる。
「可愛い。よくお似合いですよ」
花屋の女性店員がドーラを見て褒めた。
「ホントなん!?ありがとやよー!」
その言葉が嬉しかったのか、ドーラは女性店員に笑顔を向けて感謝を述べた。
「あるじ様、ありがとやよ!」
ドーラはその嬉しい気持ちのままソリトの方に飛び込んで抱き付くと、ニパァと幸せそうな笑顔を向ける。
背中を見れば小さな翼が高速で動いている。
ドーラの幸せそうな笑顔にソリトは肩を竦めながら、頭を撫でる。
ドラゴンだからか、使い魔だからか、ドーラとは接触しても拒絶反応が出ないのが幸いした。
「じゃあご飯食べに行くか」
「やよー!……あるじ様、ドーラもあるじ様の肩乗りたいんよ」
「肩?」
歩き始めた足を止めて言われた唐突な言葉。
ドーラの視線と指差す先を辿ると、三人家族なのか子どもが父親らしき男性に肩車をしてもらっていた。
身体は成竜とはいえ、ドーラはまだ子ども。
羨ましいもしくはやってみたいという向上心や好奇心が湧いたのだろう。
否定する理由も特に見つからないし、子どもの内の特権だしやってやるか、とソリトはドーラを持ち上げて自分の肩の上に乗せる。
「わぁ〜高いやよ〜!」
今のドーラの目線は三メートル程。
それよりも高い場所を飛んでるだろう、とソリトは思うが、気分を台無しにするかもしれないと何も言わずに飲食店探しに歩き出した。
その数分後、黒服の仮面の男と黒白のゴシックドレスの幼女の怪奇親子の肩車姿が観光区域内で噂されていたのだが、ソリト達にとってそれはどうでも良い話である。
ただ、昼飯時で聖剣を人の姿にするタイミングを逃して不機嫌にさせてしまったのは最悪な結果だった。
聖槍は……不憫にも気絶したままであった。
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