第134話 5大会議 part2

 殺気混じりの言葉に会議室の空気が凍り付いた。


「フッ、なぁんてな」


 冗談ですよアピールとしてソリトは態とらしく笑って見せる。


「…………」


 だが、グラヴィオースも他の重鎮達も急なことで呆けていた。

 邪魔をするなら容赦しないのは違わないのだが、冗談で殺気を込めた殺す宣言は流石にやり過ぎであったようだ。

 そんな中、クティスリーゼが口を開いた。


「ソリト、それ二日前にも似た事を仰っていましたわね」

「俺なりのジョークだったつもりだ」

「最後に笑っても殺気は込めた時点でジョークではありませんわ」

「あ〜…やっぱりそうだよな」

「ソリトさんのお馬鹿様!」


 放心状態から抜け出したルティアが早々にツッコミをいれてきた。


「うるさい」

「何で私だけ辛辣!?」

「そうですわ!普通逆ですわ!」

「ち・が・い・ま・す!」


 表情は真剣で、発言はルティアを庇っているように聞こえるが、新たに目覚めたクティスリーゼの性癖を知っているソリトには変態性に溢れた発言に聞こえた。


 ただ、中身がおっさんな事は会議室にいる帝国以外の王族女性陣は知っている筈なので呆然としてなければ察していただろう。


「もう、少しは自重と威厳を保ってください」

「あらつい…いえ、申し訳ありません」

「理性は何処に行ったんですか?」

「理性ならずっと働かせてますわ」


 理性が既に変態とは、クティスリーゼの何かが終わってしまっていたらしい。

 否、中身がおっさん化している時点で彼女は変態である。

 ソリトはその事に気付いていない。

 おそらくルティアも。


「グラヴィオース殿、そろそろ席にお戻りいただいても?」

「う、うむ」


 正気に戻ったカロミオが促すと、展開に追い付いていないようで、言葉のままにグラヴィオースは自身の席に戻っていった。


「―――さて、全員が揃いましたので、これより仮称円卓5大会議を開催したいと思うのですが、宜しいかな?」


 カロミオの言葉に全員の意識が会議をする方向に戻ったのか気を引き締めた顔で一同が頷いた。

 どうやらカロミオが司会進行役を務めるようだ。


「それでは出席者のご紹介から。アルマ帝国皇后クラリス・P《ペルセフォーヌ》・アニマーレ様」


 紹介されると、左耳辺りに髪飾りを下げた黄色の長髪が特徴の初見の女性の一人、アルマ帝国皇后クラリスが立ち上がり一礼して再び席につく。


「【日輪の勇者】グラヴィオース様」

「うむ」


 グラヴィオースはその巨体を起こしてクラリス同様に一礼して席につく。


「【加護の聖女】レティシア様」


 修道服風の紺色の服に銀色の軽装を身に付けた、腰辺りまでありそうな羽っ毛の金髪を三つ編みに纏めたもう一人の初見の少女、【加護の聖女】はレティシアという名前らしい。


「宜しくお願いします」


 レティシアは一言一礼して席についた。


「次にステラミラ皇国女皇ユリシーラ・Hヒルデガルド・アストルム様」


 ユリシーラは穏やかな表情で一礼して席につく。


「狼牙族の戦士【雨霧の勇者】シュオン」


 シュオンは緊張気味なのか狼耳をピコピコ動かしながらガチガチと音がしそうな動きで一礼して席につく。


「【癒しの聖女】ルティア様」

「はい」


 緊張など遠そうなほど特に変わりなく綺麗な所作で一礼して、ルティアは席についた。


「次にアポリア王国女王ロゼリアーナ・Fフロリアーナ・サンライト」


 生気に溢れた気配を纏った堂々とした顔で一礼した。


「【天秤の聖女】クティスリーゼ・サフィラス様」


 クティスリーゼは立ち上がる際に少し乱れた青髪を靡かせて整えてから一礼する。

 その所作だけなら完璧な貴族の令嬢だった。

 中身がおっさんで変態だが、それも彼女の魅力なので、ソリトはただ残念だと思った。


「次にクレセント王国王妃女王代行リリスティア・Aアイテール・クレセント様」


 ロゼリアーナとは逆に静かな気配と涼しげな顔でリリスティアは一礼して席につく。


「クレセント王国王女【守護の聖女】リーチェ・クレセント様」


 幼い少女とは思えない所作でリーチェは一礼して席についた。


「次に中央都市アルス統括会頭ラルスタ・スタローン様」


 スーツが張り裂けそうで、グラヴィオース以上の巨体を起こしてラルスタ一礼する。


「ギルドアルス支部ギルドマスターカロミオ・ローベン」


 カロミオは自分を紹介して直ぐに最後の紹介に移る。


「そして流浪フリーダム【調和の勇者】ソリト」


 最後に呼ばれたソリトは一つ頷いて終わった。

 だが、


「待てい!」


 グラヴィオースが手を前に出して注目を集める。


「どうかいたしましたかな」

「何ゆえ、何ゆえ私だけ二つ名のような名前が付いていないのだ!」

「……は?」


 突然の子ども染みた発言にソリトから間の抜けた声が漏れた。


「【雨霧の勇者】が」

「シュオンだ」

「シュオンが狼牙の戦士、【調和の勇者】ソリトがフリーダムと名前があるのに何故俺にはないのだあぁぁ……!」

「ひぐっ!」


 嘆くグラヴィオースの叩き響いた音にリーチェがビクッと怯える。

 要は、グラヴィオースはソリトとシュオンのスキル勇者名の前に付いていたような別の名前が羨ましいという事だ。


「おい、おっさん。羨ましくて嘆くのは良いが、子どもを怯えさせるのは大人げないぞ」

「がはっ!お、おっさん……」


 雷に撃たれたような顔を浮かべた直後、グラヴィオースは倒れ伏したりでもしたのか、円卓の下へと消えていった。


「ソリト、グラヴィオース殿は十八歳だ」

「同い年!?それにしては三、四十老けたおっさん顔じゃないか!」

「ゴバッ!」


 ソリトの言葉にグラヴィオースが大きく跳ねて倒れた。


「ソリト様、グラヴィオースは自分の顔に少しコンプレックスがあるので、該当する言葉に気を付けていただけませんか?」


 アルマ帝国皇后のクラリスが柔和な声で間に入り、ソリトに注意を呼び掛けてきた。

 どうやら、グラヴィオースは自分の容姿に対して繊細なガラスのハートの持ち主のようだ。


「分かった。すまなかった」

「さて、本題に戻りましょう。今回の議題は『昨日の深夜に永獄囚人対象ファルが消失した』件についてです。サフィラス令嬢、経緯と状況のご説明をいただけますか?」

「はい。私は裁判中彼女の発言、態度に疑問を抱きました。それは法廷にいた女王様達も感じたと思いますわ」


 ルティアやリリスティア達が同意する。


「ここでは言えなかった理由があった。そう思っていた私は休廷中にソリトと一つ話し合いました」

「話し合い?彼は私達と共におりましたが」

「そこは判決審議中にソリトが手回ししてくださいました」


 ロゼリアーナ女王の疑問に答えた。


 クティスリーゼが説明していた時、向かい側の席からソリトは視線を感じた。

 聞くことに集中するために閉じていた目を細目で辿ると、不満げな表情でルティアが見ていた。

 面倒臭そうだ、と思ったソリトはもう一度目を閉じて耳を傾ける。

 直後、視線が強くなったが後回しにすることに決める。


「それから私は深夜に収監されている部屋へ行きました。そこで先ず彼女から聞いたのは、このままでは世界が消滅するという一言」


 その発言に部屋の空気が重くなった。

 だが、そこは流石と言うべきか、今にも声に出したいだろう所を全員口を閉じてクティスリーゼの話の続きを待っている。


「それを防ぐ鍵となるのが【調和の勇者】であるソリト、という事ですわ」

「俺?」

「ええ、私も最初は疑いましたわ。でも彼女は嘘をついていない。それだけではどうも納得は出来ませんでしたが、歴代の勇者を振り返って。そう言われ振り返ると、【調和の勇者】が全世代で存在していましたの」


 その瞬間、王族女性陣の顔色が変わった。

 どういうこと、何故気づかなかった等といった驚愕の感情が伺える程に目が開かれる。

 ユニークスキルと言われている【勇者】スキルに必ず同スキルがあるというのは確かに異常だ、と。


「クティスリーゼ殿、世界が消滅というのは魔王に敗ければの話という容易に思い付く結果で起きることなのだろうか?」


 シュオンが律儀に手を上げてクティスリーゼに尋ねる。

 その質問に彼女は首を横に振る。


「いえ、おそらくシュオン様が感じている通り別のことですわ。ただ…」

「ただ?」

「魔王を倒すことは力を付け勇者と各国が協力すれば問題ないと、彼女はそう言っていましたわ」

「問題無い!?何故そんな断定して言えるのだ?」

「それは私にも分かりません。ですが、魔王を倒すことはただの通過点であり、そして終着点と言っていましたわ」

「ではサフィラス公爵令嬢。世界を消滅させないためには【調和の勇者】様と魔王討伐以外に何が必要なのですか?」


 クティスリーゼの右隣に座るロゼリアーナが質問する。


「申し訳ありません。それに関しては条件を呑んでからと言われ、その内容次第で決めるつもりだったところで」

「そうですか」

「ですが、彼女は私達の知らない事を確実に知っておりました。何せ誰にも話したことのない私のスキルの効果まで知っておりましたから」

「何ですって!?」

「サフィラス公爵令嬢、それは誠なのですね」


 確認を取るのはクラリス皇后。それにクティスリーゼは肯定した。

 今となっては直接聞くことは出来ないが、ファルは世界が消滅する原因となる何かを知り動いていた。

 そして、それをクティスリーゼに話している最中に消失。


「つまり、今結論を上げるとするならファルはその原因となる者に口封じの為消された。そういう事になるのでしょう」

「おそらく」


 リリスティアが上げた仮定に全員が思っているだろう同意をクティスリーゼが代表して言った。

 そこからリリスティアは話を続ける。


「他に何か聞いていることはありますか?何を行動に移すとしても情報が不足しすぎています」

「それでしたら、短的にですが言い残していった言葉があります。一つはクロンズを必ず永獄刑に処すこと。これは既に済んでいます。もう一つは必ず魔王を倒すこと。そしてこれは断片的ですが、真実を知るには遺跡を探す必要がありそうですわ」

「遺跡…遺跡と言っても様々ですね」

「それならば、私がギルド本部と掛け合いこちらから冒険者に依頼を出しましょう。探索ならば冒険者が得意としています」


 カロミオの発言にリリスティア達各国が探索依頼を確実にするために書状を出すこと。

 冒険者への報酬金額はギルド、各国が負担。

 世界の消滅を秘匿にして依頼内容は単なる遺跡の探索と調査とすること。

 但し、スタンピードや魔族の侵攻を考慮して依頼参加パーティは各支部で一パーティに限定。

 そして各国でも騎士団を小隊編成して探索、調査を行うなど細部を詰めていく。

 そこにソリトも一つ提案を出してみた。


「露見させるようで悪いが、情報収集なら国の諜報部隊でいいのか?そいつらにさせてみたらどうだ?高い情報収集能力はあんたらが一番分かってるんじゃないか?」

「そうですね、クレセント王国は問題ありません」

「アポリア王国も異論はございません」

「ステラミラ皇国も特にありません」

「アルマ帝国も。ですが帝国は最前線の状況への情報をいち早く伝えるために集中して注いでおりますので、極少数しか動かせません」


 帝国の状況は誰もが把握している。

【加護の聖女】レティシアと共に皇后のクラリスがこの集まりに参加出来ているという事は、今は戦闘が落ち着いているという事だろう。

 だが、いつまた戦闘が始まるかも分からない。

 情報収集に割ける人数が限れる事に関してはそれが妥当だと納得するしかない。


「そこは仕方ないだろ」

「ええ、我が皇国や王国も人材や武器などの支援は行っていますが、最前線では情報が何より重要となります。収集範囲が薄くなるのは痛手です」


 ユリシーラの言葉にリリスティアとロゼリアーナは頷いた。


「それにアルマ帝国の防衛線が突破されれば流れ込んできていたよりも多くの魔物や魔王軍が攻め入ってくる。アルマ帝国には防衛の方に力を注いで貰うことが探索等の時間が短縮できます」

「では、クレセント王妃の言葉に甘えさせていただきます」


 一先ず話は纏まった所をソリトはルティア達聖女、シュオン、グラヴィオース勇者達に話を振る。


「さて、お前ら勇者と聖女はどうする」

「お前らって、ソリトはどうするんだ?」


 質問に質問が帰ってきたがソリトは先にシュオンの問いに答えることにした。


「俺はまだまだ駆け出しだが商人として生活費を稼いでるからな。戦いの腕を上げるつもりだ」

「そうなのか。私は一度狼牙族の里に戻ろうと思う。可能なら狼牙の戦士か誰か皇国と協力して遺跡探索に参加してもらえるよう掛け合ってみるつもりだ」

「加わってくれれば心強いですわね」

「ただし、狼牙族の中では私は勇者ではなく一同族一戦士。余り期待はしないでくれ。グラヴィオース殿はやはり帝国の最前線に戻るのか?」

「うむ。再び侵攻してくる時に【加護の聖女】と共に戻り備えねばならんからな」

「私達聖女と勇者は帝国において大きな支柱。お力になれないことお許しください」


 レティシアは芯の通った声で謝罪を申すと共に頭を下げる。

 別に気にしていないと、シュオンとグラヴィオース勇者組とルティア達聖女組が頭を上げさせて話を戻す。


「それで【加護の聖女】のレティシア殿は帝国に戻るという事だが、ルティア殿達はどうするのだ?」

「俺の冤罪も晴れたし【癒し】との協力は終わったしな」

「そ、そうですね」


 と言いながらルティアはソリトの顔をチラチラと見ては体をソワソワさせている。


「何か言いたいことでもあるのか?」

「え?あ!いえ、特に…はい」

「……私はソリトと一緒に同行させていただきたいですわ」

「却下」

「予想通りの即答!…はぁはぁ…聖女ですので下僕とか奴隷は無理ですが、 ボロ雑巾のように使ってくださっても…」

「一瞬で破く」

「き、鬼畜っ!」


 恍惚な表情で躊躇いもなく扱いの困る宣言をしてきたクティスリーゼ。

 ソリトは自然と人を人と思っていない、まさしく汚物ような目を向ける。

 初めて知ったであろうリーチェやグラヴィオースはその変態性にドン引きである。

 ルティアは手慣れたように能面顔に一瞬で変化させて沈黙する。


「こほん!それにソリトは今回の件の裏について唯一結び付いている人物。同行していることで真実を知れる機会が他よりも早く訪れる可能性だってあります。それに言葉の真偽が判別出来ますわよ?東方の言葉一石二鳥ですわね」


 自分への視線を露骨に誤魔化すように真面目に話すクティスリーゼの話にソリトは、


「意味は分からないが、俺にとってはデメリットしかない」

「ソリトには新たな扉を開いた責任を取っていただきたいですわ」

「断る!!」

「お願いしますわぁ…!」


 クティスリーゼがねだるように言ってくるが、ソリトはバッサリ切り捨てた。

 その時、ステラミラ皇国女皇ユリシーラが気まずそうにソリト達に呼び掛けた。


「皆さんにも向かっていただきたい場所がありまして。特に勇者の皆様には朗報かと」


 一体何を話すつもりなのか、とユリシーラの話を身構えながらソリトは耳を傾ける。


「後一週間以内に、ダンジョン島のダンジョンが開放される事が判明したのです!」

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