第94話 side9 女勇者の疑問

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 ソリトがドーラに運ばれながらルティア達と氷雪地帯へ向かい出した、丁度その頃。


「……どういうこと」


 ソリト達から数キロ離れた密林の一本の樹木の上で唯一の女勇者は疑問を抱いた。


 遠距離の射撃を避けられた事ではない。そちらの方は寧ろ驚きだ。

 だが、それに対して【雨霧の勇者】シュオンに余り驚きは無い。

 頭部に直撃させても健在で、その直後に一瞬で反撃された事の方が驚きがあったのだ。


 シュオンの疑問は、犯罪者であり【調和の勇者】である男、ソリトを狙い打ち、二射目の弦を引き絞った時に遠方のソリト達を見た時の光景。

 二人の聖女と奇抜なドレスを着た少女達がソリトを運ぼうとドラゴンに変身した少女の背中に乗せて氷雪地帯へ再び向かっていくのだ。


【調和の勇者】ソリトは【癒しの聖女】を強姦しようと誘拐した。

 それを聞いた【嵐の勇者】クロンズが救出に向かったが、近くにいた少女一人を人質にして、重傷を負わせて逃亡した。

 シュオンはクロンズに付いてきたという騎士達の一人からそのように聞かされた。


 都市を守る岩の上から外を探して見つけると、聞いていたよりも一人多かった

 印象的な人物だった為、それが【守護の聖女】リーチェ様だとすぐにシュオンは分かった。


 殺気も敵意も聖弓も向けはすれど狙い定めず、少し様子を見ていると、三人に向かって何かを言っている様だった。

 その時、【守護の聖女】様が鋭い目付きでソリトに何かを言われたらしく、悔しげな表情をして俯いた。


 脅されたのかと思った瞬間、【癒しの聖女】様が強姦された話を思い出したシュオン。激しい怒りが湧き上がり、聖弓を大きな弩弓へ形状を変換して、ソリトに向けて撃った。

 直後の反撃に命の危機感を感じた。

 必死に弦を引き絞り、照準を再度合わせて放ち、偶然の命中で弾き返すことが出来た。

 その時、大きな安堵に満ちた感覚の筈が、安心感は全くなく、シュオンは逆に怖さを感じた。


【調和の勇者】は一人では力を発揮しないと耳にしていたが、この時、危険人物だと思ったシュオンは、絶対に逃がさないと必死に道を塞ごうとした。

 結局、それは無駄打ちになってしまった。


 唯に、先程目にした光景は、自分の行動に対しての疑問と聞いた話を否定するものではないだろうかと思わせるには十分だった。


 迷いが生じ、シュオンはソリトに向けていた聖弓を無意識に下ろした。

 見た所、【調和の勇者】は疲弊しているのかまともに動けない様子。逃げるには絶好のチャンス。

 しかし、聖女達は逃げない。それは何故?


 何か弱味でも握られたのか。

 魔法か何かで洗脳か暗示でも受けたのか。

 もし、そのどれでもなく、自らの意思で付いて行っているとしたら?あり得なくはない。

 では、その場合の動機は?

 いや、そもそもこの騒動の原因が【調和の勇者】ソリトで無かったとしたら。

 もしそうだとしても、何故起こす必要がある?


「……話を聞くべき、だろうか」


 結局、シュオンの行き着いた先は〝分からない〟だった。

 こうして考えている間にも、ソリト達との距離は広がっていく。


 考えても答えが出ない。

 そういう時、どうすれば良いか。シュオンは教えられていた。


 〝答えが出ない時は己の直感を信じて進め、そうすれば、己の本能が答えへと導いてくれる〟


 これは狼牙族の行動理念のような物で、物心の付く前から家族に教えられる言葉だ。

 シュオンはどうするかを決め、迷いを取り払った。

 その時、巨漢の男が地上から跳躍してシュオンの隣にやって来た。


「聖弓を下ろしてどうした?【雨霧の勇者】よ」

「あなたか、グラヴィオース。少し迷っただけだ。それも終わった」

「そうか。冒険者達とあのクロンズとか言う奴の騎士達は後で来る。その前に、俺達で時間稼ぎ、もしくは拘束と救出へと先に行くぞ」


 話を聞くのも真偽を確かめるのも、身柄を拘束した後にすれば良い。

 その前に悪人だったのなら、その時は全力で逃亡を阻止して拘束する。勇者とはそういう存在ものだからだ。

 そう方針を決め、シュオンは【日輪の勇者】グラヴィオースの言葉に頷く。


「それで【調和の勇者】は何処へ向かったのだ」


 厳つい顔を向けて、グラヴィオースがシュオンに尋ねた。


「氷雪地帯に行った」

「皇国に逃げ込むのではないのか?うむ……今は急ぐとしよう」


 二、三本木を跳び越しながら、グラヴィオースは氷雪地帯へ向かっていく。

 それとは逆に、シュオンは軽やかに一本一本跳び移っていきながら氷雪地帯へと向かった。

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