第60話 vs吸血鬼 3

「うぐ……やらせない。ドーラちゃんも誰もソリトさんも好き勝手させるか!やるもんか!」


 とは言ったものの。自分だけでは無理だとルティアは女性を見ていて悟った。おそらく先程遠くでソリトと戦っていた者と村人達の命を弄んだ目の前の女性は同一人物。

 ならば、ソリトが今こちらに向かっているはず。


 ドーラがどれだけ強いのかはまだ未知数だが、倒すことは不可能に近いだろうとルティアは思っている。

 今自分が出来る事はソリトがここに来るまで時間を稼ぐ、可能なら追い詰めるくらいだ。

 出来る事なら前衛で戦いたいと思っているルティアだが、力量に差があると考えるなら前衛で動きつつ出来るだけ後衛に回った方が良いだろう。

 無理を強いることになるが、頼むしか選択肢はない。


「ごめんなさいドーラちゃん。前に一緒に戦ってくれないかな」

「もちろんやよ」


 ドーラはまだ子どもで純粋。ゆえに頼みを躊躇わず聞いてくれる事は予想していた。

 ルティアはそれに対して締め付けられ息苦しい感覚を覚えた。

 それでも、ルティアは選ぶ。


「では、お願いします!」

「はいよ!」


 ドーラが翼を広げて空に飛び上がる。


「〝フレアブレス〟」


 上空から女性目掛けて炎を吹き出し、それを女性は回避する。そこへルティアは全力で踏み込んで接近し、細剣を真っ直ぐ突き出す。


「速いな。だが、遅い」


 下に伏せて回避した女性にルティアは懐に入り込まれ腹に一発拳を入れられる。威力に耐えられずに顔を歪ませ唾を吐き出しながら近くの家中へ破り込む。

 痛みに堪えながら直ぐにルティアは魔法を唱える。


「お、大いなる癒しを〝ツヴァイブ・ヒール〟」

「へぇ、【詠唱省略】か。かなり上級スキル持ちみてぇだな、精霊よ、我が声を聞き届け、周囲を血の雨で満たせ〝ブラッディレイン〟!」


 次の瞬間、鋭い細針のような無数の血の雨がルティアのいる家に向かって降り注いできた。

 ルティアは起き上がって直ぐに外に脱出する。


「良い反応速度だ」

「なっ!」


 いつの間にかルティアの隣に女性がいた。


「だが、私の前じゃ遅い!」

「やああああ!」


 攻撃が来る。回避は無理だと感じた直後、ドーラが叫んで鋭い爪を女性に向けて急降下していた。

 回避されると続けてドーラは炎を吹き出し追撃する。


「芸がねぇな」


 と言いながら炎の息吹きを回避する。そこへ目掛けドーラは尻尾を振り回す。だが、尻尾は受け止められ、そのまま女性に振り回される。

 抵抗してドーラは翼を羽ばたかせ空中に上がる。


「確かに振り回されねぇな。けどな、このまま振り落とすことは出来るだよ!」

「うああああああ!」


 女性はドーラの尻尾を離し地面に叩き落とした。

 そこへ急降下してきた女性がドーラへ追撃した。

 空中で一体どうやってと思ってふと急降下してきた方向を見ると紅く鋭利な槍があった。

 あの槍を足場に使ったようだ。


「大いなる癒しを〝ツヴァイ〟ッ!」


 瓦解した地面に仰向けになっているドーラに向けてルティアは回復魔法を掛けようとした瞬間、下から首を掴まれ魔法を防がれた。


「力量が下だからって回復を許すかよ」


 影から浮上しながら女性は言う。

 ルティアは睨み付けながら細剣を女性の腹に突き刺す。

 直後、ルティアは女性から殺気を感じた。


「糧にしようと思ったが気が変わった。貴様は殺す」


 首を掴む手の力が強くなった。


「あが」

「お姉ちゃんを離すやよぉー!」


 ドーラが肉体と分離して精神体で突進して女性を殴った。しかし、先程とは威力が弱く、女性に叩かれ軽く後ろに飛ばされた。


「ド…ラ…ちゃ…」

「珍しいスキルを持ってると思ったが、ただの雑魚ドラゴンか。最強種の一角が聞いて呆れる」

「ドーラ、弱いやよ?」

「今から仲間を失うんだ。当然だろ」


 ルティアに同意を求めるように視線を女性が嘲笑の笑みを浮かべながら向ける。


「じゃあな女」

「ル……ティア……です」

「ルティアか。魔王四将ルミノスに最後まで闘志を燃やした事を誇って死ね」


 魔王四将、道理で敵わないと思った訳だとルティアは納得してしまった。

 そのルミノスが刺さった細剣を抜いて柄を握り直しルティアの胸に突き刺そうと腕を引く。無理だ、そう諦めようとした時、ルティアお姉ちゃんとドーラが名前を叫んだ。

 その瞬間、ドーラの方から強風が巻き起こった。


「あ?」


 ルミノスが手を止めドーラの方に顔を向けていた。ルティアも視線だけ動かしてドーラの方を見る。

 目を見開くものがあった。


 仰向けで倒れていたドーラの身体が消えると同時にゴシックドレスが消えさる。だが、ドラゴンの姿に戻らず少女姿のままドーラが少しずつ変化していく。

 頭には黒いツノが生えていき、肩から二の腕、手の甲、くびれ回り、太腿ふとももの外側に上下左右非対称で黒と白の鱗がドーラの肌を覆う。

 きっかけはルミノスの言葉なのだろうが、何故そうなったのかがルティアは分からない。


「ルティアお姉ちゃんを離すんよ!」


 ドーラが一気にルミノスの方まで距離を詰める程の速度で接近してルティアの首を掴む手を目掛けて拳を突き出す。


「ちっとは速くなった。が」


 前置きした直後、ルミノスがドーラの胸に細剣を突き刺した。

 紅い液体が細剣を地へと伝い落ちる。それから細剣が身体から引き抜かれるとドーラはドサッと地面に落ちた。


「あ……ああ……ドー……ラ…ちゃん」


 どこでも良いからドーラと一緒に逃げれば良かった。そうすれば、ドーラは刺されずに済んだはず、と、今更になってそんな考えがルティアの頭の中に浮かんだ。


「結局雑魚ドラゴンは雑魚ドラゴンだったか」

「ば…かに、しない、で!」


 自分を必死になって助けようとしたドーラを馬鹿にされて頭に血が昇ったルティアは力を振り絞って蹴りを入れる。

 しかし、力が入らず軽く叩く程度の威力しか出せなかった。


「諦め悪いなお前。けどそれも一握りくらいの気力だったみたいだが」

「うぅ」


 ソリトはまだ来ていない。ソリトが来るまでの時間稼ぎすら出来ない自分が堪らなくルティアは悔しかった。

 再度細剣がルティアに向けられる。

 心の中でソリトやドーラ、ここの神父と村人達に謝罪した。

 その瞬間、浮遊感が一瞬が訪れ、次の瞬間には温かい何かに包まれた。

 おそるおそる目蓋を開ける。


「ソリト、さん」


 待っていたはずの人がいるのに良かったと安心感はなく、何故か焦燥感が溢れてきた。ソリトでも勝てないと感じたのかと自問するがそれは違う気がするとルティアは虚ろな意識の中で考える。

 そして、その焦燥感の正体はソリトとルミノスの戦闘で目の当たりにした。



―――――


どうも、翔丸です。


ドーラの何?と思った方はいると思うので簡単に説明しますと、今までドーラは精神体と物理体という形をとれていたと思うのですが、これはスキルで本来の効果ではないんですね。


本来は分離せずに少女に変身できるんです。それが今回の事をきっかけに本来のスキルになったということです。

詳しくは後々物語で出す予定ですのでお待ち下さい。

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