第46話別に一瞬で倒してしまっても良いのだろ?

すいません、遅れました。





「マスター私も闘う」

「いきなりだな」


 闘技場の舞台に繋がる通路内で聖剣が唐突にソリトの服をクイッっと引っ張りそう答えた。

 何が可笑しかったのか雇われ冒険者達が大爆笑し出す。


「ぶっはははははははは!!じょ、嬢ちゃんが闘う?くく、何の冗談だよ!良いとこのお嬢様はナイト様が負ける姿見るの………」「黙れチリゴミ」

「……は?」


 ソリトを侮辱するような発言を口走ろうとした雇われ冒険者の一人に、冷淡な声から発せられた辛辣な言葉と共に、凄まじい剣速の刃がその冒険者の頬を通りすぎた。

 その数秒後、頬が斜め上に切り裂かれ血がプピュッと吹き出して深く切ったらしくだらだら滴り落ちる。

 聖剣の言葉に冒険者達は笑いを止め黙り込む。

 剣速が速すぎて何が起こったのか分からないといった所だろう。今頃「何処から剣を?」「いつ斬られた?」と困惑している筈だ。もしかしたら、それすら分かっていない可能性もある。

 どちらにしろ命拾いした事は確かだ。


「マスター良い?」


 そしてその当人の聖剣は何も起きていないような素振りでソリトに尋ねてきた。

 どういう意図かは理解したが、一応確認としてソリトは問う。


「守られるだけの存在じゃないって思わせれば問題ないから参加する、そう理解して良いな?」


 聖剣はコクンと頷く。

 ただ、それを見せつけるの人数は一人。先程仲裁に入って来た受付嬢だけ。彼女が審判をするらしい。


「だが目撃者は少ない」

「だからこれらを利用する」


 聖剣は雇われ冒険者達を背を向けたまま指差す。


「ああ、なるほどな。確かにそれなら………そうするか」

「話は付いたか?」


 ソリトは聖剣の言葉に納得して雇われ冒険者の言葉に無視を通し行くと、聖剣もソリトの後を追って闘技場に出た。

 中心には受付嬢が待っており、各自受付嬢を起点に三メートル程距離を取る。


 雇われ冒険者達は陣形を整えた。

 五人内三人が前衛となり、一人は盾持ち残り二人は剣と双剣。

 後衛はどちらも魔法系スキルらしくそれぞれ杖を持って持ち場についている。


 ソリト達は聖剣の考えを考慮し、ソリトは後衛として聖剣は前衛という〝形〟を取る。

 同時に聖剣が自身である長剣を右手に顕現させる。

 殆どがどこから出した?とソリト以外の者達が謎めいた顔になる。


「………なぁ嬢ちゃん雇い主の意向もあるから大人しくしといてくれやしねぇか?」


 先程から話す冒険者、盾持ちの男が忠告するが、聖剣は忠告を無視して問い返す。


「逆に問う。殺す気で来ないとそっちが〝死ぬ直前まで〟行く」

「言うじゃねぇか。だがな、それは口だけにしとけ嬢ちゃん」


 受付嬢がルール説明をする。

 殺生は無し。どちらかが敗北宣言するか気絶させるか。ようは前回の決闘と変わらない内容だ。

 そして、開始の言葉が告げられた。

 直後、聖剣が腰を低くして盾持ち冒険者に突っ込んだ。

 聖剣は盾持ちの目の前を飛び越えて、次の瞬間には盾持ちの真後ろで構える。


「はっ!?いつの間…」

「遅い」


 細い腕で華奢な見た目に反した豪風な一撃が、知らぬ間に背後に回られたことに驚愕している盾持ちの脇腹に直撃した。


 ゴキッ!


 聖剣は自身の刃を消しているらしく、直撃後、盾持ちから血潮が舞うことは無かったが骨が折れたような音を鳴らして横に勢い激しく吹き飛ばされた。


「まず一人」


 聖剣の言葉通り、盾持ちは飛ばされたまま動く事はなかった。

 そのまま追撃を掛け聖剣は剣持ちの冒険者の懐に入り下から長剣を振るう。

 流石に今度は注意していたらしく、剣持ちは迫る長剣を防ぐために剣を前に出し防御を試みる。だが、そんな動き最初から読んでいたように空振りした直後、剣持ちの足を引っ掛け体勢が崩れた所に一撃、更に一撃と剣持ちが空中で踊るように聖剣から刃抜きの長剣を打ち付けられる。


「や、やめ……」


 ボキッ!……ゴキッ!


 言葉を言わせる間も、容赦もない数の連撃による鈍い音が剣持ちから鳴り終ると、ドサッと地面に落ち動かなくなった。


「二人目」


 そして、三人目の双剣持ちに聖剣は目を向ける。


「ひぃ!」


 双剣持ちは顔を青ざめながら尻餅をつく。


「何をやっている!こっちは高い金を払ってお前ら高ランクの冒険者を雇ってやってるんだぞ。少女一人に手こずりやがって」


 状況と実力を理解しているとは思えない罵倒が雇われ冒険者達に観客席から観戦している貴族の坊っちゃんから投げつけられた。

 理不尽な物言いにソリトはイラッと来てしまい、〝アインス・フレイムボール〟を坊っちゃんの方へと〝誤射〟してしまった。


「悪い悪い。冒険者でないんで魔法は不慣れなんだ」

「ふざけるな平民が!おい!さっさとあいつを殺せ。金は弾ませてやる」

「出来ねぇよ!ギルドから俺らが追い出されちまう」

「知ったことか!雇われてる分際で主の言葉にぎゃあ!」

「吠えるな。この後ちゃんと相手してやるからさ」

「マスター終わった」


 キャンキャン吠える坊っちゃんに付き合っている間に、いつの間にか聖剣は双剣持ちを倒していた。

 どう倒したのかは分からないが、ソリトは双剣持ちが股間を押さえて伸びているのを見て思わず「おおぅ」と声が漏れた。

 とにかく、これで前衛は全滅したわけだ。

 余りに瞬間的なもので後衛の二人も何が起きたのか、坊っちゃんの言葉に憤りを感じるも雇い主の為かどうすれば良いか分からないようにその場に佇んでいる。


「とりあえず、やるか?」




――――


ルティア「ドーラちゃんもっと速くお願いします!!」

ドーラ「ルティアお姉ちゃんどうしたの?」

ルティア「何故だか、物凄く焦燥感に煽られるのです。ポジションを取られるような」


※あとがきネタです

翔丸より

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