第45話ギルド中央都市アルス支部で

試験(専門)が終わったので再開していこうと思います。












 中央都市アルスは隕石の一部が八百メートル、周囲は三百メートルの一枚岩の中心に落下して生まれた岩壁に囲まれ、落下地点から湧き出したオアシスによって発展を遂げた大陸一の商業都市。

 様々な業種が集まっており、訪れる者の理由もまた様々。

 一攫千金を狙って来る者や取り引き、観光に来る者と、こちらもまた他国に比べて大陸一を自負しても良いくらいだ。


 そんな巨大な都市は五つの区域エリアに別れている。

 中心から六十メートルが都市での手続き方面を担当の中央区域。そこから八十メートルが娯楽施設を中心に集められた観光区域。武器や防具は勿論の事、生産面での家具の生産と販売をしている職人区域、そして、その他のあらゆる業種が集まり、都市を守る岩壁にまで伸びた商業区域。この二区域は約七十メートル間隔だ。

 その東西南北に中央区域に続く表大通りメインストリートは区域関係なく、様々な業種の店が並ぶ。


 ただこれほど広域となると汚い商売も存在するという。

 その類いの例を挙げるなら奴隷商だろう。四ヵ国以外での珍しい物まで存在するという事で多数の奴隷商がいるのではと懸念するよりもその出入りは少数らしい。だが、冒険者や傭兵の中に掘り出し物等を求めて訪れることもあるらしく油断はできないらしい。


 という話を商業区域にあるアルス支部ギルドの食事処兼休憩所の席で突然、この都市でガイドと呼称される案内人の女性からソリトと聖剣は長々と聞かされていた。

 この案内人は中央都市アルスが巨大ゆえに都市の説明、区域の案内等を生業とする商売の事で、一人で生活する分であれば少し贅沢出来るくらいには意外と儲かるらしい。その分全ての区域を簡単でも把握しておく能力が必要な為にやる者は少ないそうだ。


 それに関して女性は【筆写師】という珍しいスキルを持っており、そのお陰でこの都市の店舗、職人、オススメスポット等を日を跨がない限り、自分が得た情報を詳細に記録でき、更に自身が記録した手帳等の記録媒体を所持していれば、閲覧することなくすぐに情報を引き出せる能力。

 そのデメリットはその逆で記録媒体を身に付けていなければ瞬時に引き出すことは出来ないという点だ。


 とはいえまさにガイドにピッタリのスキル所持者だった。


 ソリトはギルドに来たのは良かったが、行商を行う際の手続きは別の場所でとのことで、無料配布されているガイドブックという案内書を頼りに向かおうとした。

 その時にガイドのカナロアと名乗った女性が接触してきたという訳である。


 最初は警戒を最大限にして対応したが、それなら試しに能力を見せるということで都市の基本的な事を聞いた。

 そして、現在ソリトと聖剣は軽食を各自で共に取りながら手続きでのオススメ役所や武器屋を聞いていた。今度は料金を払ってである。


「という訳でこじんまりとした小さい役所ですけど、行商を行う際の薦めてくれる場所が良いです。あとこれ、個人的な意見なんですが、選ぶなら中央区域か職人区域を薦めます。中央区域にも店はありますがごく少数で、殆ど中央区域で働く方々の仮眠場所としての宿や住居ですから競争相手がいません。職人区域は冒険者や兵の方々が立ち寄りますから、商業区域に行かずに近場で武具以外を購入できるとなれば買っていただけると思います」

「なるほど。まあ、そこは品によるが俺は問題ないか。後は役所で選ぶしかないな。武器屋でオススメは?」

「そうですね要望とかありますか?」

「接近戦に重点を置いた防具売る店だな」

「………そうですねぇ………そういえば珍しい服を着てますね」


 カナロアがソリトの来ているジャケットガードに目を向け訊ねてきた。


「ああ、ここに来る前の街の武器屋で買った。で、この防具の強化をお願いしたくてな」

「それでしたらここからだと遠いですけど、南側に良い店がありますよ。そこは仕立て屋もしているので」


 仕立て屋。それを聞いて、ソリトはドーラの服もまとめてそこで行うか見当してみることにした。


「オススメの宿ってあるか?」


 探すとルティアは言っていたが、念のためこちらでも探しておいた方が良いだろうと考えソリトは尋ねる。


「ありますが、これもお客様の要望次第です」

「飯が旨い。もしくは近くに飯屋がある、客の情報の守秘義務を徹底して、問題への的確な対処が出来る宿だな」


 なるほどと頷きながらカナロアは手帳に要望を書き込んでいくと、途中で止めて「ん?」と眉を寄せる。


「問題ですか?」

「ああ。例えば、何か宿で問題が起きて、絡まれでも、巻き込まれでもこっちが被害を被った時に責任はどちらに回り持つのかの判断だな」

「あの否定するつもりでは無いのですが、この都市ではそういった事はそうないと思われます」

「万が一だ。連れが少々面倒な奴な上に目立つんでな。それに後で賠償しろと吹っ掛けられるのも嫌だからな」

「なるほど。確かに観光区域等は羽目を外す人が良く見られますからあり得るなくは無いのかも。それで守秘義務というのは?」


 理解が早くて良いと思いながらソリトは説明を続ける。


「今さっき言ったが連れが厄介でな。例えばこいつとか。出来れば仕事に忠実な所で身を匿えるような形を取れるようにしたい。〝出来れば〟で良い。連れも探してるからな」


 説明し終わるとカナロアはソリトの隣で飲み物をちびちびと飲む聖剣を見て納得したように軽く頷く。

 今現在もギルド内の冒険者の視線を集めているほどに聖剣は目立つ。一応補足としてルティアもその部類であるが、そこはどうでも良いソリト。

 また、魔物商のような商魂逞しい行動をする商人や羽目を外した者がいても可笑しくないのだ。


「でしたら、警備の厳重が高い宿を案内します」

「いや、それでも良いがそれだと、もし自身で身を守る事になった時に困る。だからそれに対応出来る所で頼みたい」

「…………つまり物理的に対処出来る所が良いと。ふふ、承りました」


 ソリトの考えを理解した途端、カナロアは笑みを浮かべる。

 〝出来れば〟という言葉をいれて正解だったらしい。商人というのは好奇心旺盛で仕事に誇りを持つ者が多いと聞いたソリト。

 だから、少し煽るようにカナロアの案内人としての商魂を刺激してみたのだ。


「そちらのお客様も何か要望はございませんか?」


 カナロアは聖剣にも要望はないかを尋ねる。

 おそらくは、案内人としてできるだけお客様の要望に応える、というのが彼女のスタイル、案内屋に所属しているならそこ方針なのだろう。


「必要ない。私はマスターの剣となり力となる。それだけで良い」

「……そ、そうですか…」

「そう。だから混浴できる場所を希望する」

「おい、お前は俺を犯罪者にしたいのか?」

「違う。私はいつでも力になれるように側にいたいだけ」

「頼むから止めてくれ」

「……分かった」


 無表情のはずなのだが、雰囲気から不満を感じるソリト。

 しかし、面倒は避けたいので、このまま了承してもらう。


「はい、承知致しました。リスト作成するので、数分程お待ちください」


 平静を装っているものの、顔が少しだけ真っ赤なカナロア。一瞬だけ誰もが予想できるありきたりな想像をしてしまったらしい。

 とりあえず、その間にソリトは来る途中に討伐した魔物の素材をギルドで売ることにした。


 そして買取受付で素材を売ると、銀貨十枚とそこそこ売れた。

 この都市だと来る途中にある森で手に入るために余り珍しくもないのだろう。


「私はガイドですので、そういう依頼は受け付けておりません」


 戻ってくると荒くれ者のような冒険者の男達五人にカナロアが囲まれた絡まれていた。


 その時、視線が合わさりカナロアが怒りに歪めていた顔を少し明るいものに変わった。これは面倒な事になるとソリトが予感したと同時にカナロアが男達の輪から抜け出しこちらに逃げ走ってきた。

 とはいえ、自分達の仕事を受けていたカナロアを邪魔した時点で時間を削がれ、欲丸出しの言葉を聞いて虫酸が走ったので対処するつもりであったが。


 男達はすぐ傍までやって来ると、聖剣にニヤニヤと目を向けた。


「悪いがそっちの女を渡せ。あとそっちのドレスの女もな。俺らの依頼人がいたく気に入ったらしくてな。安心しろ金はある」


 その時、ソリトは嫌な視線を感じた。ただしそれは自分にではなく、カナロアと聖剣に対してだった。

 視線の先を辿ると、遠目でも身成りの良い如何にもお貴族様な金髪のお坊ちゃんが下卑た目を向けていた。

 そのお坊ちゃんが席から立ち上がり冒険者達の前までやって来た。


「おい男。聞いた通りだ。実はカナロアは僕の婚約者なんだ引き渡せ。金髪の女は僕の側室にしてやる。男お前には金貨二百枚渡してやるよ」


 どうだ嬉しいだろとでも言いたげにお坊ちゃんが笑みを浮かべる。すると、雇われ冒険者の一人がカナロアに、お坊ちゃんが聖剣に手を伸ばして触れようとする。既に頭の中では自分のものと決定しているらしい。

 どれだけお花畑なんだと思い、思わずソリトは大笑いを上げる。

 その瞬間、お坊ちゃんを対象にこの場に笑い【威圧】を広げた。

 食事処で休憩していた周囲の者達が影響を受け、ソリトよりレベルが低い者は席に伏せ、逆に高い者は影響が弱い為青ざめながらソリトから必死に後退し距離を取ろうとする。


 ならばその対象であるお坊ちゃんはというと。【威圧】を直撃して怯えに顔を歪めて、立ったまま幼子おさなごのようにじょばしょばと小を漏らしていた。


 殺意を向けないだけマシだ。向ければ意識を刈り取れる事もソリトなら出来るだろう。だが、それだと目を覚ました時にまたやって来るはずゆえ意味がない。


「悪いが別の場所でリストを貰う」

「え、ええ」


 汚ない場所から退散しようと聖剣とカナロアを連れてギルドの入り口に体を向ける。

 ちなみにカナロアが平然として無事なのは対象から外しているからだ。その為カナロアからすると、触ろうとしたらいきなりお漏らしをした変態お貴族様にしか見えない筈だ。


 他に関してはわざと対象から外さなかった。

 また同じ事が起きても困るし、似たような視線はギルドに入ってきてからあり、鬱陶しい事この上なかったのだ。


【威圧】の効果は一分。

 その間にギルドを出ようとした時、先ほどの五人の雇われ冒険者達が青ざめた顔とまともに動けない体で取り囲んだ。


「そ、そうだ貴様ら、そいつを殺せ!この僕に恥をかかせたんだからな!」

「おいおい、いくらなんでも殺しはないぜ」

「だ、黙れ!僕は依頼人だ!金は弾んでやるから早く殺れよ!けけ、けどカナロア達は傷付けるなよ!」

「はいはい」


 冒険者の男達は報酬の上限アップにニヤついて武器を構える。


「厄介な奴に気に入られてんな」

「すいません巻き込んでしまって」

「なら、巻き込みついでに後で仕事を一つ追加で頼まれてくれ。勿論無償で」

「畏まりました。ち、ちなみに割引じゃ……?」

「引き渡しだな」

「うぐ。か、畏まりました」

「契約成立だ」


 その時、一分経ったらしく。雇われ冒険者の二人が武器を構えて突っ込んできた。

 カナロアと話が付いた瞬間にソリトは【思考加速】を発動していた。

 先に仕掛けてきたのはあちらだ。正当防衛は成立するだろう。

 そして、拳を振るおうとした瞬間、受付嬢から制止が掛かった。


「ここには他にも人がいます。裏に私達ギルドが管理している闘技場がありますのでそちらでお願いいたします」

「俺は別にどちらでも構わないが、あっちの返事次第だな」


 本当はさっさと終わらせて立ち去りたいのだが、それをしてしまうと責任がこちらにも来てしまうかもしれない。行商や情報収集を出来ずに都市を去る可能性だってなくはないそれは避けたい所だ。

 逆にお坊ちゃんはそんな事気にしていないように傲慢な発言をする。


「ふざけるな!貴族だぞ。恥をかいて移動しろというのか!」

「貴族ですか……ふふ」

「な、何が可笑しい!」


 不敵に笑う受付嬢に激情しながらお坊ちゃんは言葉を返す。


「ここが何処がお忘れですか。中央都市は国には属しない中立都市です。国や貴族の権力はここでは無意味ですよ」

「戦争が起きても良いというのか」

「このご時世に戦争など頭でも沸いてますか?」

「なんだと………」

「ご理解出来るなら闘技場で」

「……おい貴様!」


 お坊ちゃんの矛先がソリトの方に戻ってきた。


「今なら見逃してやる。だからそいつらを渡せ」

「断る。一時的に契約関係を築いてる以上は仕事相手を売るつもりはない」


 ソリトは「それと」と前置きして聖剣の頭に手を乗せて続ける。


「こいつは俺のもの聖剣なんでな渡すつもりはない」

「マスターから求婚をもらった」

「お前分かってて言ってるだろ。止めろそういうの。あとタイミングな」

「ん、夜が楽しみ」

「なにもしねぇからな!」

「おい!」


 聖剣のペースに乗せられてソリトはすっかりお坊ちゃんの事を忘れていた。

 放置されて貴族のプライドが傷付いたと思ったのか顔が真っ赤にするほどご立腹らしい。


「とりあえず戦うで良いんだな?」

「そうだ。後で後悔するなよ」


 戦うのはお坊ちゃんの雇われ冒険者の筈なのだが、自分が戦う風の言葉を堂々と話せるとは大物だ。


「事が大きくなってる」


 カナロアがボソッと呟いていたが今更だ。



―――

どうも翔丸です。


さて、【筆写師】は情報関係に強いスキルです。

これだけでどんな役割をしてくれるか分かりましたよね?よね?

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