第40話 聖女vs聖剣
大晦日ですね。
声を開始の合図にすると同時に、ルティアが地を蹴った。約六メートルとなる距離を、爆発的瞬発力で駆け抜けていきながら、腕を矢を引くようにし、体を右にグイッと捻りを加える。
「ッ!!」
瞬き程の短い気合いと共に、射ち出される豪矢の如く右手に握る細剣を突き放った。速力と体と腕の捻りと突き出した際の回転力、全てを乗せた一突きを人化した聖剣の胸左側に突き出す瞬間、姿勢をギリギリまで低くして下から一撃、タイミングをわざと外した突きを一発紛れ込ませた二連撃。
虚を衝いた所への一撃を聖剣は右に回避、続いての二連突き。回避してしまった瞬間の隙からの攻撃は回避不可能に近い。
おそらくここまではルティアの思惑通りに聖剣は動かされているだろう。
思惑通りに動いた先で静止した所に、三撃目を狙い定め違わずに向かって行く。
しかし、剣先は胸元に行く前、聖剣の腕がブレたように消えた。直後、ルティアの細剣からバチバチと火花が散っていき、突きの軌道が徐々にズレていく。
聖剣が細剣から分身の長剣を前に少し斜めに構えて受け流したのだ。
そのままルティアは流れのままに体を捻り回転を掛ける。その瞬間、ルティアの目前に聖剣が現れ、同時に白い影、蒼白の長剣がルティアの首の胴目掛けてやってくる。
以前に見せた流星の如きルティアの速力と同等かそれ以上の剣速だ。
ルティアは迫る剣尖を避けるために体よりも命優先に体を限界まで捻り回避を試みる。
それとは裏腹に踏み締めていた左足は足下の草でズルッと滑らせ体が崩れる。
それ幸いと、聖剣の剣は体を覆っていた外套を斬るに留まった。
次の瞬間には、ソリトとドーラの方まで軽く風が舞って来た。
ルティアは左手を地面に付き横に飛び退き、続けて地面を蹴り距離を取った。
聖剣は追撃を警戒してか姿勢を屈めたままにしていたが、余裕と言わんばかりに無表情のまま変えずに中段に構え直して停止した。
乱れた息を整えながら、ルティアもまだ余裕があると見せようとしているのか表情を変えないように努めているものの、流れる汗は滝のように尋常ではない程流していた。
ソリトから見て身体能力は同等に見えた。反応速度に関してはルティアが上かもしれない。ただ、剣技と経験が聖剣に大きなアドバンテージを与えている。
いつから意思があるのかは知らないが、剣として生き、ソリトの前の代の【勇者】スキル保持者と共にいて扱われてきた時の動きや技術をその身に叩き込まれていたのだろう。
体に無駄な力が殆どなく、剣への力の伝導率、攻撃速度などがヒシヒシと伝わる。
ビスクドールのような美形の容姿の中に聖剣という本質が潜む様は、ルティアに油断も隙も手心も与える事は無さそうだ。
このままではルティアは負ける。確実と言って良いだろう。
魔法を使えれば埋められる可能性はあるかもしれないが、それは叶わないだろう。
しかし、ルティアも諦めるつもりはない。それをソリトは嫌でも分かってしまった。
諦めが悪い、というよりは放っておけないというのが聖女には合っているかもしれないと。
それでもこの決闘に意味があるかないかと問われた場合、はっきり言ってソリトは意味がないのではと思っている。
どちらが勝とうが負けようが自分がやることには変わりない。ただ、ルティアが負けた場合は協力者が減り時間と免罪の道が長引き浪費するだけ。
それを考えると多少はあるが、それを認めていない聖剣の主張にとそれに答えようとする聖女の決闘が無駄でしかない。
唯に意味がない。
理由が自分であるゆえに見届けているが正直何度でも言えるくらいどちらでも良いのだ。それよりも早く出発したいというのがソリトの本音であり心境。
ならば止めろと考えるだろうが、それは無粋というものだ。
『スキル【集中】獲得』
『スキル【予測】獲得』
とりあえず、獲得したスキルは後回しにしてソリトは見続ける。
ルティアが息を整えながら外套を脱ぎ捨てる。
聖剣はその隙に懐に迫った。
足の側面を前に出し、速度を落としながら右斜め下段から剣を振るう。
咄嗟に細剣で防御を取るも甘く、後方に弾き押される。すかさず聖剣は次を右斜め上から撃ち込む。ルティアは左から切り払って受けた。火花と金属音が同時に鳴り響く。
一瞬目を開いたが直ぐ様弾かれた剣を、聖剣は凄絶な速度で切り返しに掛かり次々と撃ち込んでいく。
掠って避け、受けて、避ける。
徐々にルティアに掠り傷をつけていた聖剣の攻撃は掠る寸前で留まっていき、やがて互いの剣が交差して体を掠め反撃出来るまでになっていく。
成長している、この土壇場で戦闘中に戦闘経験を上げてきている。
だが、それでも付いていけているのは聖剣がルティアのようにテンポを遅らせてといったフェイントを使っていないから。
攻撃と反応速度だけでも着実に追い詰めていたゆえに使う事をしなかったのだろう。
「あぐっ!」
考えている時に下から斬り上げた剣をタイミングをズラされ、ルティアは聖剣の攻撃をまともに受けてしまった……ように見えたが、斬り上げる軌道と反対にルティアは無理矢理体を斜め上に仰け反り捻り地面を転がり距離を取った。
【癒しの聖女】と支援系に属するスキルを無視して良いほどに聖剣の剣速に良く食らい付いている。
スキルとステータスはかなり親密な関係にある。その片鱗を見せないルティアの身のこなしは、逆に恐ろしいものなのかもしれない。
ソリトと同じくらいの年齢を考えれば聖女として活動してからの日々での自由を捨てている事を予想させるくらいの事だからだ。
それほど、スキルとステータスの結び付きは強い。
ソリトはそれをよく知っている。【調和の勇者】であった時、適性がないと同じくらい低い適性の初級の光魔法を覚えるのに苦労した。当時のステータスも魔力に関しては使えて初級魔法一日一回レベルだった。
光魔法を覚えてからは気持ち程度に魔力が上がっていった。
ゆえにルティアが前戦で戦闘を行えるくらいのステータスにした苦労は理解できる。
聖女としてはやはりズレていると思うが。
そのルティアの雰囲気が変わった。意識が研ぎ澄まされたような感じだ。
剣先をまっすぐ聖剣に右肩の高さで構えて向ける。その次の瞬間、ルティアは地面を蹴って飛び出す。黒大蛇を討伐しに行く途中で見せた流星を想わせる瞬速。
無表情だった聖剣の顔が警戒の念が宿ったものになる。
右横、左上、右上、左下と続く四連撃。それを掻い潜り懐に入り込む。少し前に出すだけで刺突出来る程の間合いだ。
互いに回避が困難になった。
寧ろ、ルティアとしてはそれで良いのかもしれない。
速度に付いていける様になってきたものの決定的な攻撃の機会を一度として与えられていない。だから危険覚悟で回避行動を極力攻撃に注ぐ事に転換させるのだろう。
勝機は連続で細剣を撃ち込み体勢を崩させるのが妥当なところか。
懐に入った瞬間、仕返しとばかりに四連続の突きを放った。
距離的に回避は不可能だ。
だというのに、四発の内二発だけ命中。が、至近距離で攻撃を捌く動きが限定されていたことで聖剣が体勢を崩す。
体勢を整える隙を与えまいと更に四連続撃ち込む。
聖剣の表情が苦悶に一瞬歪む。だが、その表情とは逆にルティアの四連撃は体勢を崩したままの状態で四方に弾かれ、命中することはなかった。
聖剣の瞳が完璧に剣筋を捉えていた。
最後の一撃を体勢を右足を軸に踏ん張り上に弾いた瞬間思い切り体を引き捻りを加えて右肩から左斜め下に向かって自身である蒼白の長剣を振った。
「ッ………!せやああああ!」
どくどくと流れ出る血が出る元の痛みで目を閉じそうになるのを左手を握って、別の痛みで無理に抑えたらしく、目を少し開き戻しながら右足を後ろに下げてルティアが突きを一撃放つ。
それに反応して剣を下から聖剣は切り払おうとした。
直後、ルティアが細剣を引き戻す。
その瞬間、ルティアは左拳を聖剣の腹に放った。
衝撃で、聖剣は目を丸くする。また殴った僅かな反動が負傷箇所から痛みを生み出し、ルティアを硬直させた。
その隙を見逃す聖剣ではないだろう。
と、ソリトが思った矢先に凄絶な速度の直突きが、ルティアの胸元を捉える。
ルティアから反撃するような素振りはない。
諦めたわけではない。しかし、ルティアはその一撃を甘んじて受けようとしている事をソリトは直感した。
瞳は諦めてはいない。ただ、今の自分では勝てないと悟りとどめの一撃を待っている。
その聖剣の一撃は、胸元に突き刺さる寸前でピタリと停止し、衝撃を空に撒き散らし、周囲の草木を風が扇いだ。
「及第点」
「…………」
そう言って、聖剣は剣を引き長剣を手放して消した。
何が起こったのか分かっていないのか唖然として目を見開くルティアから返事の声は出ない。
それでもなお聖剣は話続ける
「今のお前では足手まといになりがちになる。けど剣から
「あ……は……えっと」
ルティアは何がやらと頭が追い付いていない様子。間抜けな声を漏らすのが良い例だ。
「仕方ないから私が鍛える。付いてきたいなら否定しない。良い?」
「は………はい」
「ん」
とりあえず決闘は終わったようだ。
会話終了直後、ルティアが魔法を唱えた。
「ひ、光の精霊よ、私、聖女の声を聞き届け、聖なる波動で彼の者を癒し包め
ルティアの体を雲から射し込む光芒のような光が照らす。すると、物凄い早さで傷が癒えていく。
聖魔法と呼ばれる。聖女や聖職者系スキルのもの限定で使える魔法だ。
「ふぅ」
「終わったな。よし、中央都市に向かうぞ」
「鞭打ちますか!?」
「時間が惜しい。竜車で休め」
「気分が悪くなるだけですよ!」
「聖女、あれこれ言わない」
「聖剣さんも辛辣です」
「ドーラなるべく揺らさないようにゆっくり行け」
「はいやよー」
それを聞いてルティアは安堵の息を吐く。
「というか、お前無茶が過ぎるだろ」
「少しソリトさんに習ってみました」
そんな事を聖剣に語りかけているが、鮮血を流しながら無茶をした覚えはない気がするソリト。
「死にたくないんだろ?止めとけ」
「毒と炎に躊躇いなく突っ込んで行った人が何を言いますか!」
――
どうも翔丸です。
これが今年最後です。
早いものですね。
あれから予想と違ってしまったようで、ブクマが十人近く減って、そこで落ち着きました。
まあ私は書きたいように書きます。
感想減少も仕方なし。
反発を買う?ような事も発言しましたしね。
それでは皆様良いお年を。ガキ使見るぞ〜。
起きれますでしょうか………
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