第34話 ドーラ急成長!!お腹が唸る

お待たせしました





 あれから村に戻り復興作業を手伝い時間が夕方に入った頃。

 北東に行った先にあるらしい沼地の狩り場にソリトはレベル上げの為に向かうことにした。

 ステータス上げについては一体倒すので大体が終わりだろうが、経験値に関しては影響はないのでこれまで通り入る。

 だが、その今回の主役は生まれたばかりのドーラのレベル上げと同時進行で魔法の習得である。


 沼地に着いたソリトは軽く周辺を観察する。

 沼の中を泳いでいるらしく今は陸に魔物はいない事を気配感知で確認する。

 無理に引き寄せて面倒な事になるのは避けたいソリトは。出てきたら対応してレベル上げをして、その間は魔法習得に専念することにした。

 そう決め魔法書を取り出して開く。今習得しているのは火、光、回復の三つだ。全て習得できるというのは他から見れば羨ましいのは理解しているので、贅沢な悩みだ、とソリトは呟きたくなる。


「ソリトさんレベル上げでしたら森でも良いのでは?」


 ちなみにルティアが付いてくるのにソリトも口を余り出さなくなってきた。言っても勝手に来るから諦め半分あったりする。


「どうするかな」

「あの」

「帰るか、黙ってろ」

「む」


 納得できない、とルティアは眉をしかめた後、ドーラがソリトの髪を引っ張った。


「キュア!」

「いてて、髪を引っ張るな」

「ドーラちゃんは私の味方みたいです」

「キュ?」

「構ってほしいだけだろ」

「キュア!」


 その時、陸に上がってくる魔物がいた。二足歩行で蛙の魔物だ。名前はスワンプトードー。細長く前傾に垂れた手足と丸い豊かな胴体のアンバランスが晒され、とてもではないがソリトは正直言って気持ち悪いと感じた。


 スワンプトードーはソリト達を見つけた瞬間、突然鳴き始めた。

 直後、沼から十体のスワンプトードーが飛び出してきた。


「おぇ」


 と、ルティアが少々吐きそうな顔色になっている。

 その反応は正常と言っていいほど正しいものだと、ソリトは頭の上のドーラをルティアに渡す。

 可愛いと言っていたので見ていれば少しは和らぐだろうという理由だ。


「キュア!」

「ドーラちゃん可愛いです」


 ドーラが顔色の悪いルティアを見て鳴くと、ルティアはギュッとドーラを優しく抱き締めた。

 そうこうしてる間に、スワンプトードー達が襲い掛かろうと跳躍し、これでもかと口に隠れていた長い舌をしならせてソリト、ルティアとそれぞれに仕掛けてくる。

 絵面的に変態が女、この場合ルティアに興奮して襲ってるようにしか見えない。ソリトは内心、ほんの少しだけ苛立ちが込み上げていた。

 スワンプトードーにはそんな思惑はないだろう。それでも襲い掛かって来ているのは間違いではないゆえ、さっさと倒してしまおうとソリトは魔法を唱える。


「聖女、手は出すなよ」

「え………はい」

「風の精霊よ、我が声を聞き届け彼の者を風の刃で切り裂け〝アインス・ウィンドスラスト〟!」


 ソリトの放った弧月型の風刃によって一体のスワンプトードーの舌が切られ、本体へと命中した。


『スワンプトードー討伐により全能力が上昇します』

『スキル【初級風魔法師】獲得』


 ソリトは手を止めずに違う魔法を唱える。


「水の精霊よ、我が声を聞き届け彼の者に水の球を射出せよ〝アインス・アクアショット〟!」

「〝アインス・ウィンドスラスト〟!」


 水の球を射出し、スワンプトードーを吹き飛ばし続けて風魔法の刃が頭と胴体を分離させ倒す。


『スキル【初級水魔法師】獲得』

『スキル【賢者の卵】獲得』


「……〝アインス・アクアショット〟!」

「〝アインス・ウィンドスラスト〟!」


 獲得したのは嬉しいが取りたくないものを取ってしまった気がしながらソリトは威力向上した水魔法と風魔法を駆使してスワンプトードー三体を複数の舌攻撃を回避しつつ討伐する。

 その時、さっきまでより魔法の威力が向上していたことに気付いた。おそらく【賢者の卵】の効果による影響だろう………と考察している暇はなかった。


 魔法を放った直後の隙を狙ったように陸地に降りたスワンプトードー達が、刺突、舌鞭、泥球を吐く、と様々な攻撃を仕掛けてきた。

 その内の三体がルティアとドーラ達に舌による刺突攻撃をする。


「〝アインス・ウィンドスラスト〟!」


  風魔法を三連続で魔法名を唱え、舌に向けて放つ。


「〝チェーン・アインス・フレイムボール〟!」


 舌の鞭攻撃を回避しながら複数発の泥球を複数の火魔法を連発し相殺していく。

 最後に刺突攻撃として伸びてきた一枚の舌を掴み、自分ごと回転してハンマーのように振り回し仲間のスワンプトードー達を一ヶ所に集めるように打ち飛ばし、ハンマー代わりのスワンプトードーをそちらへ手離した。


「〝チェーン・アインス・フレイムボール〟!」


 複数の火魔法がソリトの右手から一点に放たれ、気絶しているのかピクリとも動かず肉塊のようになったスワンプトードー達を焼き尽くしていった。


【初級風魔法師】

 初級の風魔法の詠唱を省略できる。(一段階アップ状態)

 初級の風魔法の威力が一割上昇、拡大する。

 スキル効果により初級の風魔法を無詠唱で発動できる。威力が二割上昇する。


【初級水魔法師】

 初級の水魔法の詠唱を省略できる。(一段階アップ状態)

 初級の水魔法の威力が一割上昇、拡大する。

 スキル効果により初級の水魔法を無詠唱で発動できる。威力が二割上昇する。


【賢者の卵】

 適性魔法属性の全初級魔法を無詠唱で発動できる。(一段階アップ状態)

 適性魔法属性の全初級魔法の消費魔力を一割軽減する。(一割アップ)

 全初級魔法の威力を一割上昇。(一段階アップ状態)

 スキル効果により初級魔法の発動を無詠唱から想像詠唱に変化。消費魔力軽減が二割上昇する。威力が二割上昇する。



 それから音に反応して沼の中にいた、スワンプトードーとサンショウウオ型の魔物、パールーパというヌメヌメコンビを相手にした。パールーパは毒粘液を吐き出して来たが【毒無効】にスキル変化した【毒耐性】で汚れて細かく洗うのは面倒と多少なりと回避行動をして接近し、ほどほどに殴った衝撃で倒していった。


 素材としてはパールーパの瞳が真珠となっているので、それくらいだろう。カエルとサンショウウオの肉は食べれなくはないだろうが、泥臭くさそうで、毒もありそうなので焼却した。

 その結果、ソリトとルティアはドーラの異変に驚いた。


 ドーラ Lv15


 傍観状態だったにもかかわらず、経験値が入ったことでレベルが急上昇して、外見が大きく変化していた。

 生まれるのも早かったので、成長も早いだろうとはソリトも思っていた。


 ただ、子どもの頭サイズで頭に乗せられたドーラが既に小さな子ども一人は背中に乗せられる子竜まで大きく成長している。翼もその分大きくなり、まだ少し丸っこい体型だが鱗も生えている。またその変化にも驚いたソリト達。全身純白だったが鱗は鼻から上が白、下が黒が混じったものとなった。


「ギャウ〜!」


 可愛らしい鳴き声まで変わっている。流石に重いからと、自分の頭に乗って来ようとしたドーラをソリトは降ろす。すると、パタパタと翼を広げて浮いた。

 何より、


 ぐるるるるるる〜


 急成長を遂げてからドーラが腹から唸り声を出す特技を覚えたくらいの音が聞こえてくるのだ。ソリトは嫌な予感しかしていない。

 真珠を回収してから山の方で多めに爪撃黒熊とブラックウルフを討伐したものの、その途中で道端の野草を与えていた。

 それでも足りず鎮めるのに夕方まで掛かってしまった。

 尽きない暴食レベルの食欲にソリトは急成長だからだよな、と納得することにした。


「ソリトさん……言葉が……思い付きません」

「食費も魔物…も凄いな」


 何を言ってるのか自分でもよく分かっていないソリト。だが、一日でこんな成長するのであれば、足代わりになるのも時間の問題だろうということは予想出来た。

 問題は身体は成熟していっても、精神が追い付かず未熟なままになるかもしれないこと。それは世話と扱いが怖い。なので、ソリトは再度使役での設定を厳しくやり直しておくことにした。


「あの、ソリトさん。一つ聞いていいですか?」

「それは協力するにあたって必要な事か?」

「………おそらく?」


 何故疑問形かは敢えて聞かないことにして、曖昧なら、とソリトは聞くだけ聞いてみることにした。


「とりあえず話してみろ」

「ソリトさんの魔法適性を教えてください」

「何故?」

「お願いします」


 ルティアの目は真剣だ。

 少なくとも好奇心で尋ねたということはないだろう。理由は分からないが、聞いて何か自分で納得、もしくはこれからの事で必要なものがあるのかもしれない。

 暫く歩きながら沈黙して考えた結果、ソリトは話すことにした。


「魔法は属性関係なく全て習得出来る。それもあっさりと」

「全部………」

「付け加えると、一度習得した魔法なら無詠唱で発動出来る」


 想像詠唱というものがまだ分かっていない段階のためこれについては話すのは伏せた。

 それを聞いてルティアは歩きはしているが目を見開いてソリトに顔を向けている状態で硬直している。

 その結果、ルティアは小石に足を引っ掛けて全身を盛大に地面にぶつけた。勿論、ソリト知っていた。意識を戻す為と考えて敢えて言わなかった。


 ぐるるるるるる〜


「ギュ〜」


 仕方ないのでブラックウルフを解体して食わせることにした。【解体師】のお陰で品質が向上し、旨そうに一体丸ごと食べ尽くした。

 その間にルティアの意識が表に戻り、立ち上がっていた。


「すいません。余りの驚愕に頭が真っ白に……あと受け止めてくださってもいいと思うのですが!?」

「意識は戻ったろ」

「いつもみたいに額に一発入れ込めばいいじゃないですか」

「痛いって言ってたからな」

「どっちにしても痛いですねぇ!」


 ツッコミ半分、問い半分と言った返しが涙目でルティアからやって来た。


「〝アインス・ヒール〟」


 とりあえず、全身をぶつけたて、顔に小さな擦り傷が出来ているので、ソリトは回復魔法を唱えて治してやることにしてから、本題に戻すことにする。


「ありがとうございます」

「で、なんで魔法適性を聞いてきた?」

「言っては何ですが、ソリトさんの事を調べた後に何故魔法を使えるのかと疑問を持ったからです。魔法適性が無いのも、【調和の勇者】スキル内にも魔法を習得する能力が無いのを知ったので。予想以上でしたけど」


 ソリトを調べたのならば、【調和の勇者】の頃のの経歴や能力の把握は大抵着いているだろう。

 魔法を使えるソリトを見た後での事なら尚疑問に思っても可笑しくない。

 だが、それだけなら別に聞かなくてもいい事。他に何かあると考えていいだろう。


「それで?」

「はい。それで先程の戦闘で思ったんです。使えないはずの魔法が使える。もしかしたらソリトさんは他の属性の魔法も使えるのではと」

「仕掛けがあるとは思わなかったのか?」

「それも考えました。無詠唱でしたし。ですが、あの沼地は何か仕掛けられるような場所はありませんでした」


 この聖女は情報屋でも開いた方が良いのではないかと思えてくるソリトだった。


「それにソリトさんは〝何かを隠すような事はあっても偽る事〟は嫌なのではないですか?」

「っ!」


 劣化というのは違いだろうが、感情が偶に見えてしまっていたことによる内面にたいしての感性の鋭敏さには少し恐ろしいとソリトは思った。


「さっきも言ったが俺は全属性全魔法を一度で習得できる。聖女はそれを聞いて何をしたい?」

「いえ、今はそれだけで十分です。出立の時にでもまた話します」

「俺が覚えてたらな」

「出立するまで忘れてないか毎日聞いてやる」


 ねっちこい陰湿な発言をするので、そうはさせまいと顔面を片手で掴み、顔面クラッシュという名のお仕置きをしながら、ルティアの魔物が来ないよう我慢して漏れる声を添えて村に戻った。



 宿に戻ったソリト達は女主人に急成長したドーラの事を見せ、説明し、部屋では無理だと相談すると、隣の馬小屋の一部屋を使わせてもらえることになった。

 その時に街の方で頼んでいた蜂針五十本の種別に分けられた袋を、ソリトは女主人から受け取った。


「ギャウ」


 ぐるぎゅるぐうう……。


 一体何匹の猛獣を買っているのかの如く腹が減っていることを知らされた。村に向かう合間にもう一度魔物を一体丸ごと与えていたのだが、まだ足りないらしい。小さな体の何処に入っているのか謎の胃袋だ。


「この子食いしん坊だねぇ。それにしても今日生まれたばかりなんだろ?凄い無理したんじゃないかい?」


 藁ベッドを作りながら女主人がソリトに尋ねる。


「いや、まだLv15だ」

「15!?」


 ソリトの返答に女主人は驚きドーラを見る。


「ソリトさんの育て方が異常だったんですよ」

「お前見てたよな」

「女の子の顔面を痛め付けるソリトさんなんて知りません」

「おやおや喧嘩かい?」

「いやただの躾」

「私はペットじゃありません!」

「後ろから付き纏う姿は忠犬っぽくないか」

「確かにそうかもね」


 女主人がうんうんと賛同し頷く。


「同意なさらないでください!」

「可愛いじゃないかい。ねぇ?」

「ギャウ?」

「そうだな、ドーラは可愛いぞ」

「ギャウー!」

「何だかドーラに負けた気がするのは何でです?」


 ピキ


 突然、不穏な音がドーラから聞こえてきた。


「もしかして成長痛かい?」


 まだ成長しているらしい。これも成長補正(大)の及ぼす影響なのだろうか。タグでステータスを見てみると、確かにまだ成長中だとを示すようにステータスが変動を起こしている。


 このまま問題無く順調に育ってくれればそれで良いとソリトは思う。それから少しだけ餌を与えた後、すぐにドーラが眠ったので、ソリトとルティアは宿に戻った。その後はソリトは厨房を借りて晩飯を、ルティアは普通に女主人に宿飯を作ってもらい、食事をして部屋に戻った。


 その夜、謎のベッドに一緒に寝る案と、一人で寝る案の頑固な小争いが起きた。



次回投稿予告です。

次回は明日、12月13日の午前7時です

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