第23話魔物群/一時共闘
急遽分割しました。
――
村に到着した時、魔物群から分隊した魔物達が村に侵入し暴れだし始めていた。
情報によって冒険者や兵士はプルトの街の方に集中している。万が一を考えていたようで、村にいた冒険者達が辛うじて魔物と対峙しているが防衛としては厳しく、前衛一人が魔物二体を相手にしているパーティもおり、今にも決壊しかかっている。
助ける義理はないが、世話になっている村の人間を殺させないためには、冒険者等は必要だ。
ならばと、ソリトは速力を上げて一気に魔物と冒険者達の方へと詰め寄る。
十メートル程離れた距離で直進しながら跳躍して冒険者達と対峙していた魔物達を一瞬にして斬り通り過ぎた。
一体目は右上斜めから袈裟斬りし、そこから体を捻って一体目のブラックウルフの上を軽く飛び越えながら回転斬りで二体目のブラックウルフ首を斬り跳ね、着地後そのままピョンと跳ね越えて三体目のスカルソルジャーを真上から真っ二つ、四体目のゾンビは宙返りで飛び越えて脳天から………と繰り返して魔物の首を斬り跳ねながら通り過ぎたのだ。
『
すかさず、足で速度を削りながら体を魔物達の方へ向き直して左手を翳す。
その時、視界に入った冒険者達が何が起こったのかわからず、呆気に取られていた。
呆気に取られている場合ではないのに呑気な奴等だとソリトは思いながら魔法を唱える。
「フレイムボール!、フレイムボール!、フレイムボール!、フレイムボール!、フレイムボール!」
何とも芸のない事だと思うが、省略された詠唱では魔法習得は出来ない。まずは正式な詠唱を覚え、唱えなくてはならないのだ。
ビッチの場合は省略されたものだった為に役に立たない。裏切っておいて使えないと、この一週間と少しの間に一回だけ心底残念に思ったソリト。
それでも【孤高の勇者】で中級レベルに一段上昇し、全生物への特攻効果に、一段階上昇している【初級火魔法師】で二割だけ威力が上昇し、効果範囲も上がっている。
総合的に中級より上級に近い威力を誇っている。
更に無詠唱での連発も可能。
十分過ぎる程だ。
ただ、やはり他にも魔法は欲しい気持ちを持ちつつ集るハエのように飛んでいる蜂の魔物群に初級火魔法を放つ。
『パラライズキラービーを討伐により全能力が上昇します』
『パラライズキラービー二十体討伐により全能力が上昇します』
『パラライズキラービーを三十体討伐により全能力が上昇します』
目視できる限りで空にいた蜂の魔物群は倒した。
ソリトはその余りの数に正直引いた。
「おい、冒険者!村の人間を避難誘導しろ」
「は?そんな余裕……」
「敵は引き付けてやる。早くしろ」
悪戦苦闘しているより、村の人間を守る事に集中してもらった方が邪魔をされずに済む。
冒険者達は村の人間達の方へ駆け出し、ソリトは防衛線の方に向かい、一体の屍食鬼を斬り倒す。
「グルァ!!」
ブラックウルフ、スカルソルジャー、屍食鬼の魔物群がソリトに向かって襲い掛かってくる。
回避しながら討伐していく。
ステータスのお陰か、はたまたジャケットガードのお陰か、ダメージは受けなかった。
これにソリトは結構内心で驚愕した。
「おお、ソリト様!」
「お前等、俺が引き付けてる間に態勢立て直して冒険者の誘導にしたがってさっさと避難しろ!」
村の顔馴染みの奴等に促す。
「は、はい!」
深手を負っていない人間は負傷した村仲間に手を貸して下がっていた。
「おい」
いや、別に下がるのは良いのだ。
だが、余りにも必死に下がるものだったもので、それなら早く逃げておけばと、ソリトは言葉を何か投げたくなっただけなのだ。
半分呆れている間にも、ソリトを倒そうと魔物達が爪や牙で、攻撃してくる。
やはり、痛くも何とも無い。ただ、痛み等が無いせいか、身体を何かに這われるような、痒いのに掻いても痒みが取れなくて気持ち悪い感覚に似てイライラするソリト。
魔物を斬り倒して鬱憤を晴らす。
元々そのつもりだったので、延長戦でしかないのだが、村に入り込まれて、引き付けつけると言った以上は避難が終わるまでは全ての魔物を引き付ける必要がある。
「ひぃ!」
「ったく!早く逃げるんだよ」
世話になっている宿屋の女主人が逞しく、怯えて腰抜かしている男性を起こして逃がそうとしている所を魔物に襲われそうになっていた。
魔物の牙が宿屋の女主人の肉を噛もうとした瞬間、ソリトは聖剣を上段に構えた。
「流星閃!」
武技名を唱えて、魔物を裂く光の剣閃を放った。
突然、前後に別れて倒れた魔物を見て女主人は目を丸くして驚いていたが、気を戻してソリトの方を向いた。
「早く行け」
「ああ、すまないね」
「あ、ありがとう……ご、ございます」
「ったくだらしないね。若い男ならこんなおばさんに尻にしかれてんじゃないよ!」
腰を抜かしている男性に渇をいれながら性根逞しい宿屋の女主人は礼を言って、その場を去った。
「く、来るなぁァァァァ!!」
叫び声が甲高く拡がる。
振り向き、ソリトの視界に入った途端、大の字に腕を広げる立っている男性と守られている背後の女性をスカルソルジャー群が近付いていっている。
恋人か夫婦なのか。それは正直どうでも良い。
その反面で、ビッチ達の事を無意識に思い出してしまい、苛立ちが増す。と、いつの間にか膝蹴りを入れて一体のスカルソルジャーを吹き飛ばしていた。
ソリトはさっさと行けと、顔で促す。
その間にスカルソルジャーはターゲットをソリトへと変更していた。
今のところ狙いを自分に仕向けて距離を取るのが目的。とても順調だ。
恋人か夫婦かの仲の良い男女が逃げ切るまで引き連れて移動する。
その時、浮気などせずに上手くいけば良いと、そんな事をほんの僅かに思ったソリト。
裏切られた身として思うところがあったとしか言いようがない。
「何やってるのやら」
気配感知で周囲を警戒していると、前方から十体程魔物が近付いてきていた。
確認すると、ブラックウルフの群れが見える。
後方からは連れてきた魔物達がいる。
「ここでやるか」
幸い、近くに村の中央の少し広々した場所があったはずなのだ。
引き集めた魔物と戦うにしても、冒険者達が避難誘導を終える前に鬱憤晴らしをするには丁度良い。
一体でも多く引き付けて討伐すればソリトのステータスも上がる。
「よし、来い魔物共!」
付いていける程度に抑えながら走る速度を上げる。
ブラックウルフ、屍食鬼、キラービー、スカルソルジャーと様々な魔物達を連れている。
それぞれ行軍速度は違うせいで調整がいる。
幸い、魔物の知能がそれほど高く無く、ソリトしかいない状況なので一番に狙って来る。
「おっ、囲まれたか」
中央につくとまた新たに前から魔物がやって来た。
一体何体この村にやって来たのだろうか。
ソリトの周りを魔物達が円囲みで密集している。全域からとなるとソリトでも少々手こずりそうだ。
それでも、
「ふっ!」
後ろから接近してくるブラックウルフ達の方へ振り返り、聖剣を振るう。
ガキン!
一体が聖剣に噛みつかれ攻撃手段を防がれた。
が、それなら聖剣を手放せば良いだけだ。
捻りを加えながら紅姫の籠手を装備した右拳を聖剣に噛みつくブラックウルフにアッパーカットを決め、軽く飛びウルフに空中で蹴りを入れながら地面に叩きつけてそのまま足場に裏拳で他のウルフ達に一発を入れる。
更にその回転を利用して追加で攻撃する。
「おらぁ!」
最後に残りをブラックウルフの内一体の腕を掴み、ハンマー代わりに振り回して巻き込みながらブッ叩く。
ボキッと不穏な音が何回かしたので、勢い良く叩かれたことで骨が砕けたのだろう。
ソリトも一応そのつもりで試しにやってみたので何も問題はなかった。
『ブラックウルフ十六体を討伐により全能力が上昇します』
蜂の魔物が密集して迫ってくる。やっぱり、見た目は気持ち悪い。
「フレイムボール!」
火魔法を放ったが一部は退散して回避した。
聖剣を拾い握り直す。
危機察知が反応した後ろからの攻撃を回避する。
徐々に移動範囲が狭まってきている。
このままだと一体でも複数体でも相手している暇はなくなる。
密集しているため縦横無尽に駆け回るのもこれでは出来ず、飛んで逃げるにしてもその隙に攻撃を受ける可能性もある。
「しまった」
色々考えている間にソリトは背後から攻撃を仕掛けられていた。
スカルソルジャーが大剣を振りかぶってきたのだ。
何とか聖剣で防ぐことは出来たが無理に体勢を変えた事で上手く動けない。
「ぐっ」
上手く力が入らず、押し込まれ声が漏れた。
本当に何でこんな事をしているのか分からない。
自分を陥れる国の人間を必死になって守っているなんて馬鹿だろと、自分で自分を罵ってやりたい。
だが、世話になった連中を放っておく事が忍びなかったのもまた事実。
難儀な性格をしているとソリトは思った。
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