第19話 side1 力の違和感
大変遅くなりました。
元パーティ、クズ勇者達sideです。
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ソリトがパーティを脱退して反転した日の翌日。
アポリア王国の勇者クロンズとファル達一行はドラゴン討伐報告のために、一度クレセント王国王都ルナールへ戻るため、馬車に乗っていた。
実はドラゴン討伐は領主と国王からの王命依頼だった。
その証明として、討伐したドラゴンを持って戻らなければならなかった。
とは言ってもクロンズ達が運んでくるのではなく、王都から派遣された騎士達が先に運び込んでいっていた。
一行が着く前日には着いているだろう。
一行達がいた領地は王都と山脈に挟まれた位置に存在し、王都到着まで
その間、魔物や盗賊が襲ってくるなんて事がなければ暇となる時間が増える。
一人の勇者の知らぬところで密かに抱き合っていた程だ。しかもその一人は元とはいえ恋人だった。
暇なときにやることは決まっていると言っていい。
「あ……んああ…クロンズ…や…」
「クロンズ、もう少しあたしもかまってよぉ〜」
「あ、ずるい。次は初めての相手の私です」
「皆落ち着きなよ、相手はしっかりやるから」
優しい声音でクロンズは答えているが、彼等は今日も抱き合っていた。付け加えるなら、馬車を引く御者の人が寝ている中で、いつ魔物が来ても可笑しくない夜にだ。
昨夜までは今までソリトが寝ている最中にする高揚感がクロンズには堪らなくヤリ続けていた。最初は恥じらっていたものの女性陣も今では背徳感や幸福感が堪らなく仕方なくなって堂々としている。
ちなみに、クロンズが手を出した順番は【魔弓師】エルフ族のフィーリス、【治癒師】魚人族のアリアーシャ、そして二ヶ月前に【賢者】にして【調和の勇者】ソリトの元恋人だったファルである。
ただ、まだ新しい女であるファルの相手をすることがここ最近多い事でフィーリスやアリアーシャは自ら甘い声でクロンズを誘っている。
そして、クロンズにとっては女が自分を求めてくる時こそが愉悦感と支配欲に浸れる最高の甘美なのだ。
満足したところでクロンズ達は服を着て、ローテーションで一人睡眠を取らせながら周囲の警戒をすることにした。
最初はファルが仮眠し、現在クロンズ、フィーリス、アリアーシャの三人で焚き火を囲みながら警戒をしていると、フィーリスがクロンズに話し掛けた。
「クロンズ、最近ファルの相手が多いわ。【調和の勇者】の………まあいいわ。もういないんだから沢山相手してよ」
「あたしは関係なくてもしてほしいなぁ」
「あはは、あいつは関係ないよ。ファルを沢山相手してたのは二人より少ないからだよ」
嘘である。
本当はいつソリトが気付くかをまだかまだかと待っていてファルの相手を二人よりもしていた。
邪魔物を消すために、そして何よりそれが楽しかったからだ。
略奪感と、掌握する感覚が加わって心地好かった。
それがもう出来なくなることを思うとクロンズとしては少し残念だったが、これからは絶望したソリトの傑作の表情を思い出しながら楽しむことにこの時決めた。
「でも、今から王都ルナールに戻るのよね。いないことに騒ぎにならない?」
戻った時の懸念を予想してフィーリスがクロンズに尋ねると不敵な笑みを一瞬浮かべそうになるが引っ込め、普段見せるニコニコした仮面の笑顔で答える。
「それは大丈夫だよ。ちゃんと考えてあるから」
そう言うと、フィーリスとアリアーシは頬染めクロンズを敬愛する目で誉め称える。そのあと、クロンズは二人に報告する際での内容を語った。後に起こる展開をくつくつと楽しみに思い浮かべながら。
「それはやり過ぎじゃない?」
「とかいってるわりにそんな事思ってない顔してるよぉフィー」
「アリアだって」
クスクスと展開を想像して笑い合う二人の間に入ってクロンズが口を開く。
「まあ魔法も使えない、かといって武技もない。ただほんの僅かに仲間を強化するだけの勇者なんていらないでしょ」
「確かにクロンズがいれば大丈夫よね」
「【嵐の勇者】クロンズ。マジつよいねぇ」
【嵐の勇者】。これがクロンズの勇者たるスキル名だ。
ちなみにスキルはというとこんな感じである。
クロンズ
職業 勇者
レベル41
スキル【嵐の勇者】
適性魔法 風魔法
【嵐の勇者】
嵐魔法を習得可能。
嵐魔法を最上級まで詠唱省略で発動可能。
防御力二割上昇。
魔物、魔族特攻付与。
武技(槍)習得可能。
名前の通り、嵐魔法という魔法を使う勇者である。
この嵐魔法は【嵐の勇者】だけが使える固有魔法で風、水、雷の属性が合わさった複合魔法なのだ。
基本、複合魔法は複数人で詠唱を調律させることで行使できる魔法だ。それを一人で三属性の合わさった魔法となれば強力なのも頷ける。
「あ、そろそろ時間だよぉ」
ファルと交代して仮眠する番のフィーリスが立ち上がる。
「それじゃあ起こしたら、ファルにも説明しておくわ」
「よろしく」
「それにしても面倒ね。見張りなんてずっと【調和の勇者】がやってたから疲れるわ。だからお願いね、クロンズ」
「あたしもあたしもぉ」
「分かった分かった」
馬車に向かう前にフィーリスと唇を重ねる。
(最近図々しいな。ま、今は気分が良いから許してやる)
クロンズは昨日のソリトの絶望した顔を思い出し内心でゲラゲラ笑い、馬車にもどっていくフィーリスに笑顔で手を振った。
暫くして、フィーリスが王都に着いた後の事を説明をしていた為に遅れてファルが馬車から降りてクロンズとアリアーシャのいる場所にやって来た。
「ねぇクロンズ」
「何だい?」
やはり、元とはいえ恋人だったソリトに慈悲でもあるのかとじっとファルを笑顔で見つめてながら内心身構えるクロンズ。
だが、そうではなかった。
「私の役割だけしょぼくない?」
その瞬間、クロンズは声を出して笑いあげるのを堪えた。
反論することもなく、役割の事を聞いて来た。
(ヤバい、アイツ本当に見捨てられてるよ!ハハハハ!)
胸の内で滑稽だと笑いながら、クロンズはファルの頬に手を添える。
「大丈夫だよ。君がその役割をしてくれれば全員が信用する筈だから」
「……分かった」
そうして、夜が開け完全に朝日が昇った後、一行は馬車に乗って王都を目指した。
その途中で魔物と遭遇した。
黒い一本角と蹄が鉄鋼石で出来ており、太陽に照らされ輝く群青の毛並みで、普通の馬よりも巨大な鉄鋼馬という馬の魔物だ。
鉄鋼馬のクロンズ達のレベルよりも少し上の魔物だが、領地に向かう際にそのレベル程度の魔物は既に倒している。
今回も問題ないと馬車から降りたクロンズ達。
前衛一人の後衛三人という攻撃陣形型で、鉄鋼馬は動かず立っている。ジッとしても仕方ないとクロンズは槍を構えて突っ込む。
しかし、鉄鋼馬の角で槍が防がれ、力負けし仰け反る。
その隙を突かれ、鉄鋼馬が突進してきた。
「魔力弓!」
そうはさせまいとフィーリスが魔力を纏わせた矢を放ち支援する。
フィーリスのスキル【魔弓師】は魔力を矢に纏わせる事で攻撃貫通力を高める事ができる。それだけではなく、魔法の属性を纏わせて攻撃力を向上させる事もでき、属性によって効果が変わるという珍しいスキルだ。
ただし、属性はスキル所持者の魔法素質によって限定される。
フィーリスの場合は風と地の二つだ。
が、あっさりと鉄鋼石の角で魔力の矢は弾かれた。
「なっ!」
「風の精霊よ、彼の者を吹き刺せ〝ツヴァイブ・ウィンドショット〟!」
フィーリスが驚いているところにファルが続けて中級の風魔法を唱えて放つ。
鉄鋼馬は高く飛び上がり、回避する。
「嘘!」
「ナイスよファル。今度こそ……」
鉄鋼馬の体の下ががら空き状態で絶好の的となり、それを目掛けてフィーリスは弓を引く。
「風魔弓!」
今度は風の魔力を纏った矢。
風の属性の効果速度向上によって放たれた矢は速度を落とすことなく鉄鋼馬の腹を突き刺した。
そのまま真下に落下するも苦痛に堪えながら鉄鋼馬は立ち上がろうとする。だが、その隙を狙ってクロンズが最後に槍で喉を突き刺して倒れたところにもう一度突いて倒した。
「フィーリス、ファルありがとう。助かったよ」
「当然」
フィーリスが、
「助け合うのは当たり前」
ファルが、
「あたしは役に立たなかったぁ」
と、最後にアリアーシャが嘆いた。
「アリアーシャ、そんなに私達に怪我してほしかった」
「せめて、クロンズが負傷したらめちゃくちゃ癒したのにぃって」
皆で笑い合っている中で「でも」とファルが口を開いた。
「危なかったよね」
「確かに、レベルが上の魔物でも、あのレベルなら余裕で私達倒してきたのに。クロンズも押し負けてたよね」
「あはは……きっと、疲れが残ってるんだよ」
(偶々だよ。余計な事いってんなよ)
表には出さず、内心でクロンズは悪態吐く。
でも、確かにこれまでそんな事は無かったと思い出す。
しかし、それもそのはず。
これまでは殆ど前衛で討伐してきたのはソリトであり、立ち回り、陣形、状況把握等をやって来たのもソリトだ。
これまでクロンズは積極的に魔物を討伐してきた事はない。積極的なのは自国とクレセント王国からの緊急依頼くらいだった。
アピール出来ればそれでいい。その程度だった。
ゆえに、ソリトの方が得るパーティとして振り分けられるも経験値もレベル上昇も高かった。
ファル達の場合も休みの日などはクロンズと親密な関係になってからはまともにやっていなかった。
ゆえに彼等パーティのレベル平均は43。ちなみに一番低いのはクロンズとアリアーシャだ。
アリアーシャは【治癒師】なので仕方ないが、戦闘スキルで、《勇者》のクロンズが一番低いというのはどうなのだろう、と考えるものはここには誰もいない。
頭がおつむなのか、某が盲目にさせているからか。
他人からすれば別にどうでもいいことなのだが、クロンズ達からすれば、その違和感は大切な事だった。
「まあ、レベル上げればそんな事も解決するよ」
そんな違和感は強くなりさえすれば時期解決する事、そう結論を出したところで馬車に乗り、御者の人に誉め称えられ鼻を高く伸ばしながら王都へと再び向かった。
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次回も元パーティside
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