第8話 癒しの聖女

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「私はステラミラ皇国の《聖女》、ルティアと申します」

「………誰?」

「………えーと…」


 丁寧な自己紹介を一刀両断されると、ルティアという少女の微笑みはどう答えたものかと苦笑いに変わった。


「あ!癒……って、ちょっと待ってください!」

「なんだ?」

「人が自己紹介している時に立ち去るなんて失礼じゃないですか?」


 ルティアに背を向けて、立ち去ろうするソリトにピシッと言った。


「確かにそうだな。すまなかった。じゃあな」

「はい!…って、違います!」


 中々にキレのあるボケツッコミでソリトを呼び止める。

 それにソリトは少し感心した。


「分かった。キレある返しに免じて聞いてやる」

「素直に喜べません。それに何で上から目線なんですか…うぅ…」


 一瞬涙ぐんだ後、ルティアは一回小さく咳払いをして再び自己紹介を始めた。


「……改めて、ステラミラ皇国の聖女、ルティアと申します。多くの人からは【癒しの聖女】と呼ばれております。こちらの名前は知ってます、よね?」

「知らん」


 またも、しかも今度は即一刀両断されたその瞬間、ルティアの顔があからさまにショックを受けた表情に一変した。

 そこまで落ち込む事ととは思いもよら無かったソリトは、一瞬だけ困惑する。


「………そうですか。私もまだまだということですね!」


 突然、暗かった顔を引き締めて、ルティアがポジティブに意気込んだ。

 ネガティブに落ち込むよりは基本ポジティブな方が断然良い。


「頑張れよ」

「はい!」

「じゃあな」

「はい!」


 元気良く返事を返すルティアに背を向けてソリトは歩き出す。


「って!待ってください!?」


 ソリトは内心で舌打ちした。

 流れで話を逸らせたと思ったが、やはりそう上手く行かないようだ。

 だとしても、話に付き合う必要はないとルティアを無視して、ソリトは下山し続ける。


「無視しないでください!」

「…………」

「もう!待ってください!!」




 聖女は勇者と同じく、四人存在するらしい。

 悪しきものから守る【守護の聖女】。

 嘘を見抜き真実を暴く【天秤の聖女】。

 相手の能力を向上、強化し支える【加護の聖女】。

 傷付いた人達を癒す【癒しの聖女】。


 【聖女】スキルも同じく一ヵ国一人に現れ、その後は教会に所属することになるそうだ。

 また、【聖女】スキルには共通する能力があるという。

 その他にも聖女のスキルは一人一人違う為に、勇者同様にある程度の自由行動が許されている。

 その為、聖女達は各地を回り、立ち寄った先の人々の奴は悩み事や相談事を聞いたり、自身のスキルを使い助けているらしい。


「と、ステラミラ皇国の聖女の私がいるのはそういう訳です」


 下山途中、ソリトが話し掛けられても返事をせず歩いていると、突然ルティアが聖女について説明し出した。

 無視をしていたら一つ知識が増えた。

 それが嬉しいかと問われれば、ソリトはどちらでも良かった。

 知ったからといって、お近づきになりたいなんて思わないし、関係を築きたいとも思わない。

 そもそも、何処にいるかも分からないのだから。

 一人を除いて。


 それよりも、ソリトはずっと気になっていることがある。


「何で付いてくんだよ!」

「付いてきてませんよ。同じ方向なだけです」

「そうか。じゃあここでお別れだ。俺は薬草を採取してから戻るんでな」


 ソリトは方向を変えて、薬草を探し出す。というのは建前で、距離を取ったらまた下山するつもり……だったのだが、


「何でいるんだよ!」


 方向を変えたにもかかわらずソリトの後ろを付いてくる聖女。


「薬草採取を見たいだけなので気にしないでください。それとも他に何か?」


 ルティアは分かっていながら、敢えて問い掛けているのは間違いない。

 そして、話を聞かなければずっと付き纏ってくる事も。

 ソリトはそんな気がしてならない。


「はぁ」


 諦めたように小さく溜息を吐く。


 この聖女に非がないのは重々承知している。

 だが、理性と感情は別。女を見ると忌々しさ、怒り、憎悪と言った負の感情がソリトの心の内から沸き上がってくる。

 だからといって、危害を加えるつもりはない。

 それは只の八つ当たり。意味の無いことだ。


 酷い対応をしていると自覚しているが、今のソリトには、こんな対応しか出来なかった。


 だがそれも、話を聞いて事を終わらせれば良いだけの話だ。


「街に付いたら話を聞く」

「ほ、本当ですか?」

「ああ、自分の言葉を裏切るつもりはない」


 今、ソリトが信じられるのは自分だけ。その自分の言葉を裏切ることをしたくない。

 勿論、かつてのパーティメンバー達と同じ裏切り者になど絶対になりたくないからという理由もある。


「そうですか。では、行きましょう!」


 意気込むルティアに、ソリトは待てと制止をかける。


「その前に薬草を幾つか採取する」

「え?本当に採取するんですか。てっきり建前かと」

「最初は建前だった」

「はは、建前だったんですね」


 薄笑いをしてルティアはしゅんと俯く。


「戻ったらちゃんと聞く」

「約束ですよ」


 そして薬草を採取し、途中魔物を数体討伐しながらソリト達は街へ向かった。




「そもそも、本当に聖女なのか?」


 街に着いたソリト達はすぐにギルドへ向かい、討伐済みだった三体と今日討伐した二体、合計五体のワイバーンと他の魔物達の素材を提示し、依頼完了の報告を行った。


 依頼報酬は金貨四枚に、素材の買取金額が銀貨五十枚と、かなりの高収入となった。

 買取時とギルドから退出時に周囲から視線を浴びたが、ソリトは気にする事なく後にした。


 そして、陽の落ちた頃。ソリトは話を聞く為にルティアとプルトの街の酒場の二人席にて、そんな事を問い掛けた。


「今疑います?」

「話を聞くつもりなんてなかったからな」

「酷い!」

「今は聞く耳持ってるんだから良いだろ」

「そういう問題ではないと思うんですけど。というか嘘ではありません。正真正銘【癒しの聖女】です!」


 ルティアは最初に何かブツブツとソリトに聞こえない声量で呟いたと思ったら、力強く聖女と名乗った。


 忙しない聖女である。


「で、証拠は?」


 すると、ルティアはどう説明するか考え始めた。


「…………ステータスは安易に見せられませんし、今魔法を使っても効果は余り分かりませんし……」


 このままでは、話が終わらないだろうと判断してソリトは口を開く。


「仮に聖女としておいて、話を進める」

「仮に……」


 ルティアの顔が悲しそうな表情に変わる。

 やっぱりころころ変わって忙しないと、ソリトは思った。


「というか格好が聖女らしくないよな」

「これですか?確かにそうですね。ですが、各地を回るんですから動きやすい方が良いかとオーダーメイドで作って貰ったんです」


 穂先が紫掛かった灰色の髪を軽く後ろに留めた藍色のカチューシャ。

 服のデザインは司祭服のような白を基調とした、刺繍の施されたローブ。中に着ているのも同じデザインの白服。

 艶やかな白雪の太ももを少し隠すスカートと履き口がもこもこした編み上げブーツ。

 聖職者とは明らかに離れた服装だ。


「可愛くないですか?」

「それよりも、用は何だ?」


 感想を求めて訊ねるルティアを無視して、ソリトは話を進める。その態度に、ルティアがむっと頬を膨らませてソリトをじっと睨む。

 その仕草は、ビッチ―――ファルを連想させ、ソリトには不愉快だった。


「その前に、何か食べませんか?」

「……そうだな」


 確かに時間的にも晩飯時だったので、ソリトは同意した。

 丁度、近くに店員がいたので、ソリトは席まで呼び注文する。


「この店で一番安いディナーセットを頼む」

「え!?もう少し、良いの食べませんか?奢りますよ」

「必要ない」


 ソリトがそう返すと不服そうな表情で見つめるルティア。今日の報酬で多少懐が潤っているので奢られる必要がない。

 それにどれを頼んでも味がしないならソリトにはどれも同じだった。


「まあ、貴方がそういうなら。すいません、私も同じセットを」

「いや、お前は他の頼めよ」

「私が食べたいのですから、いいんです」

「強がるなよ。他に食べたいのあるんだろ」

「そんな子どものワガママを諭す親のような優しい目で見透かしたようにしてますけど、本っ当に違いますからね!」


 そんな会話を注文を待ちながら困惑の表情で店員が見ていた。


「悪いが、同じのにしてやってくれ」

「は、はい」


 店員は注文を受け取りキッチンに向かった。


「貴方は私の親ですか?」

「本当に良いのか?」

「良いんです!」


 頑固にルティアがなっている時、結局は相手が食べたいものを食べるのが一番か、とソリトは一人納得していた。

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