63.フィエラルで明かす夜
「武器商人?」
クウが、首を
「"
「武器商人って
「トールコンも、そんな事を言ってたような気がするぜ。『"黒の騎士団"がいたからこそ、僕はここまで
ソウはそこまで言った所で、
「随分と話し込んじまったな。今日はこの辺にしとくか。お前らも疲れてんだろ? ──ほら、持って行けよ」
ソウはクウに向かって、鯨の
「ソウ。これって……何?」
「家の鍵に決まってんだろ。お前らのために探しといた宿のもんだぜ。──ウチのギルドが所有してる建物の一つさ。少しばかり散らかってるが、ベッドも保存食も水場もある。それだけ
「
「そんな大した事じゃねえよ。──場所はここからそう遠くねえぜ。ここを出て右に曲がったら、角を左に曲がってその後でまた右だ。家の扉には、その鍵と同じ模様が描かれてるからすぐ分かるだろ」
「分かったよ。ソウ、本当にありがとう。この借りは、ちゃんと働いて返すからさ。──君のギルドの一員として」
「あん? お前、もしかして例の"伯爵"の依頼を受ける気なのか?」
「そのつもりだよ。"
「気前がいい話じゃねえか。確かに伯爵はフィエラルで一番の情報通だ。いいぜ。その話、ギルドへの依頼として正式に受けようじゃねえか。──まあ、伯爵にお前をいいように利用させる気はねえけどな」
「ソウが僕をギルドに入れた理由は、やっぱり他の四貴人に僕が取り込まれないようにするためだったの?」
「ああ、念のためにな。"青の領域"は力だけじゃなく、財力や地位、
「
クウはゆっくりと立ち上がって扉の方へ移動すると、フェナを
「──宿の場所は、ここだね」
「何の
「ソウのギルドが所有する物件の一つなのかも。
クウは目の前の
クウが鍵をドアの鍵穴に差し込む。ドアが開錠され、クウとフェナが中へと踏み込んだ。
「うわ、何ここ……」
クウの表情が硬くなった。
室内を、山積みにされた本が埋め
家屋と言うよりは、
「あの"青黒フード"ったら……。いえ、この言い方は失礼ね。屋根のある場所を
「このままじゃ、ベッドも使えないね。──本の整理から始めよう」
小一時間後。無造作に積まれた本の山が消滅し、すっきりとした空間の中──クウとフェナの二人は疲れた様子で、同じベッドに横たわっていた。
「やっと終わった……何冊あったんだよ、あのよく分かんない本」
「クウ、あれは全部"
「誰でも使える、"輪"の魔術とは違う──魔術……?」
「あら。クウは"輪"の魔術しか使ったことが無いのかしら? イルトの魔術は基本、文字で魔術の命令式を書き込むの。書き込んだ対象に"魔力"が伝わった時、その書いた内容の
「へえ、面白そうだね。そう言えば、"イルト語"は"日本語"と同一の文字だったっけ。後で、ちょっと読んでみようかな。──ねえ、フェナは何か魔術を使えないの?」
「使えるかも知れないけど、使わないわ。"
「エルフね。──ナリアも初めて会った時、エルフは『多くの者が魔術を扱う』って内容の話をしてたなあ」
ナリア──という名前が出た瞬間、フェナの目つきが変わる。
「ねえ、フェナ。……君、顔が急に怖くなったんだけど」
「そうかしら? 自分じゃ分からないわね」
「えっ、フェナ……? うわっ──」
フェナが突然──クウの体に抱きついた。首元に顔を近づけ、クウの耳のすぐ
「ねえ、クウ。──少しだけ、頂いてもいいかしら」
「……拒否する自由は無さそうだよね? その姿勢を見る限り」
「そうかも知れないわね。──うふふ」
フェナが──クウの首に
「そのナリアって女より、私の方がいいでしょ? ──うふふっ」
満足したらしいフェナが、笑いながらクウから離れる。クウの首に、針の穴ほどの大きさの傷が二つできていた。傷から、出血は見受けられなかった。
「──ねえ、フェナ」
「何かしら?」
「ソウが言ってたことを、ちょっと思い出したんだ。"
「そうよ。──クウは、上位種じゃない普通の吸血鬼を見たことはまだ無いの? 知性が備わっていなくて、会話すら
「そうなんだね。じゃあ、フェナって──誰の血液で変質した"
「えっ……?」
珍しく、フェナの顔に
「もしかして、言いたくない?」
「……ごめんなさい、言いたくないわ。──クウ、どうしても知りたいの?」
「分かった。言いたくないなら、いいよ。──
「──ありがとう、クウ」
フェナはとてもバツの悪そうな顔をする。クウはフェナの顔を直視しないように意識しながら、ベッドの上でフェナの反対側に寝返りを打つ。
「何だか、今日はもう動きたくないよ。このまま──寝ちゃおうかな」
「えっ、このまま? ちょっと、クウ──」
フェナは背中を向けているクウの顔を、ベッドから上体を起こして
クウは、すでにすやすやと寝息を立てていた。
「……起こさない方がいいわね」
フェナは優しくクウの背中に手を当てた。
フェナは気付かなかったが、クウの背中にはこの時──紫色の光を発する"輪"が発動していた。
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