61.魔法薬での変装
「……そう怖い顔で
マルトシャールが、敵意の無いことをアピールするかのように、軽く両手を上げる。
「まあ、安心するといい。──君がソウのギルドの一員である限り、俺が今言った可能性はかなり低くなるだろうからな」
「と、言いますと?」
クウの顔は、普段の
「ソウのギルド"
マルトシャールがクウの手を指差す。いつの間にかクウの手には──"
「先手を打ったというのは、そういう事ですか。……フェナは、ギルドの一員じゃないんだけどね」
マルトシャールに聞こえないような小声で、クウはぼそりと
「話を戻そう。クウ君、改めて──君に依頼したい仕事が一つある。君に頼んではいるが、ギルド"
「
「行方不明になった部下の捜索だ。──優秀な奴で、その実力を買って危険な仕事を頼んだんだ。もう"フィエラル"に到着していてもいい頃なんだが、一向に
「危険な仕事、というのが気になりますね」
「簡単に言えば情報収集だ。──俺の表の職業は"銀行家"でな。金融業というのはイルトでは嫌われる職種だが、
「裏の仕事……。何ですか?」
「それを表す
マルトシャール自身が
「説明しておこう。──フィエラルは中立都市の名の通り、種族の
「そうだったんですか? ──でも、
「種族ではなく、"黒の騎士団"と"十三魔将"のみを区別する結界のようなものだと思えばいい。──とにかく、"黒の騎士団"はこの街には入れない。それはフィエラルが"中立都市"として正常に機能している、
マルトシャールの口調はやや重々しい。クウは何かを察したようで、それ以上は聞くのを止めようと考えた。
「しかし、街に入れないからと言って、奴らがフィエラルの住民達を襲わない訳ではない。商人などを待ち伏せし、フィエラルの外で住民達を急襲する騎士共は後を絶たないのさ。──そういう奴らを野放しにはできんだろう? 」
「それで──
「適切な言葉だと思うがな。──奴らを始末すれば、着ていた鎧や武器、運次第では金品なども手に入る。フィエラルの
「じゃあ、その行方不明者も──"黒の騎士団"と戦う仕事をしていたんですか?」
「普段の仕事はそうだった。しかし、今回俺があいつに頼んだのは、もっと難しい内容の仕事だったのさ」
マルトシャールの顔に、暗い影が差す。
「俺があいつに頼んだ仕事は──"黒の騎士団"への
「せ、潜入捜査?」
「分かってくれたか? ──君にこの仕事を頼んだ理由と、その危険度が」
◇◇
"霧の館"。マルトファールとソウがいる部屋から、少し離れた位置にある一室。
ニニエラとフェナは、いかにも貴婦人の寝室といった
「準備できた。こっちに来て、フェナちゃん」
「ニニエラさん。何をするか、まだ聞いてないわよ」
「"
「七色……油? ──あの襲って来た
「ああ。そう言えば、知らなかったんだっけ。塗ったモノの色を変える、魔法薬の一種よ。フィエラルでは、皆が知ってる、便利な"
「あ──」
フェナは、ウルゼキアの宮殿にクウと立ち寄った時の事を思い出す。門番の騎士が、"魔法を打ち消す聖水"で強引にクウを
あの騎士は、クウが"七色油"を使っていたと
「その緑がかった白髪は、サラサラしてて
「……ジョンラス王が"
「──そうでしょ? ほら、いらっしゃい。塗ってあげる。私、上手だから」
ニニエラは
フェナは魔女のような帽子を取り、後頭部に束ねていた髪を
「──クウ君にも、塗ってあげた方がいいかも。ずっと帽子を
「そうね。私、後でその油を買いに行くわ」
「大丈夫。私のを、分けてあげる。まだ、予備はあるから」
「ニニエラさん、どうしてそこまで? 純粋な親切心からかしら?」
「そうとも言えるかも。あなた達の事、好きになっちゃったの」
「あら、嬉しいわね。嫌われた事ならいくらでもあるのだけれど。──毒女、蛇女、殺人吸血鬼……"黒の領域"の裏切り者。これまで散々に言われてきたわ。他にも、まだ何かあったかしらね」
「へえ、そうなんだ。──クウ君には、何か言われた?」
「──クウはそんな事、言わないわ。彼は優しいから。たとえ、心の中でそう思ってたとしてもね」
「フェナちゃん、彼の名前を言う時に、体がちょっと赤くなるわね。──血の感じで、分かるの」
「……あなた、まさか?」
「はい、終わり。──色が変わっても、奇麗ね」
フェナは目の前の鏡を見る。フェナの髪色は──白に近い金髪に変わっていた。ウルゼキアにいたノーム達と同じ髪色である。
「"七色油"の効果は、基本的には永続的。水で洗ったりしても、基本的には大丈夫。でも、もし色が落ちたら、また来て」
「……ありがとう、ニニエラさん」
フェナは体の向きを変え、ニニエラに向かって丁寧に礼をする。普段の堂々とした態度とは、まるで別人のようである。
「クウ君にも、後でやってあげる。──あなたと、同じ色でいい?」
「ええ。是非、それでお願い」
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