59.霧の四貴人
◇◇
クウとフェナは、
複雑に入り組んだフィエラルの路地をいくつも抜けた所で、
「ここは、"
クウとフェナに建物の名前を告げ、ニニエラは屋敷の門の前に立つ。門はニニエラの来訪を歓迎するかのように、ゆっくりと開いた。
屋敷の内部は、とても豪華な内装だった。左右に絵画や調度品が立ち並び、床には赤い
クウはフェナと共にその光景も観察しつつ、ニニエラの後に続いて歩く。
「ここは、どういう場所なんです?」
クウが、彼女の背中に向けて質問する。
「昔からこの場所にある、霧と魔力に満ちた建物。今は"中立都市フィエラル"を陰で支配する実力者──"
「"霧の四貴人"……ですか?」
「フィエラルの土地にいる限りは、覚えておくべき言葉。フィエラルの土地は、その大部分が四貴人の誰かの縄張りなのよ。──もし、四貴人全員の機嫌を
「あなたも、その一人なのかしら? ──ニニエラさん」
クウの後ろにぴったりとくっついて歩くフェナが、ニニエラに質問する。ニニエラはフェナに
「……フィエラルは表向き、都市を訪れる者達に──ここは種族間の差別意識を完全に
「さっきの……"
クウの言葉に、ニニエラは肩をぴくつかせて反応する。
「多くの種族が共存する都市で、差別意識を完全に無くすなんて不可能。──ドワーフならチビは山に帰れと言われるし、エルフは
「イルトの
「言われるだけなら、かわいい方。──縛り上げられて水路に逆さ
クウとフェナの表情が硬くなる。
「その
「"黒の騎士団"に所属した事のない者達しか、いなかった。──フィエラルに来る"
「じゃあ、僕達を
「"黒の騎士団"に
クウは口を結んで下を向く。何か、小難しい事を考えている様子である。
「……僕は"イルト"の平和のために、ただ
「その考えが、悪い訳じゃない。"十三魔将"は、全員が
ニニエラはそう言うと、急に体の向きを変える。その方向には、大きな両開きの扉があった。扉の
豪華な家具と調度品に
クウ達の正面には、椅子に座って筆記具を持ち、
「──
ニニエラが、ベルベットの男に呼びかけた。男の手が止まり、青白い顔がクウの方を向く。
「──珍しいな、ニニエラ。お前が、"霧の館"に客人を招き入れるとは」
「どうしても連れて来たかったから、来ちゃった。──予告も無しに連れと来たこと、怒ってない?」
「怒る理由などないからな。俺達は縄張りを区別し、互いの
「そのつもりは無いわ。むしろ、その逆よ。──この二人を、よく見て」
「もう見たさ。その二人が誰なのかは、分かっているとも。──現状でお前が"霧の館"連れてくる者など、かなり限られているからな」
伯爵と呼ばれた男は、椅子から
"伯爵"の、頭髪の無い頭が
「お初にお目にかかる、"人間"殿。そして、"
「ぼ、僕は──
「……私はフェナ。イルトの一部では、"
クウとフェナがそれぞれ名乗る。クウは一礼をしたが、フェナはただ腕組みをしながら"伯爵"を見ている。
「"人間"──いや、クウ君か。俺の角を見て顔が変わったな? "
「ええ……あなたで、四人目です。──"中立都市フィエラル"という言葉を、本当の意味で理解しましたよ。ソウの思わせぶりなセリフは、こういう事だったんだ……」
「前の三人は──"
「ご存じだったんですか? 一体、"青の領域"の
「たった今、入手した情報だ。君の
クウの
「俺の情報屋によれば、"赤の領域"で"十三魔将"の消息が
「ソウの"輪"──"
部屋の壁に
「ソウめ……。近頃は"黒の騎士団"の
「敗北……。何の事ですか、マルトシャール伯爵?」
クウの質問に、マルトシャールが静かに口を開く。
「聞かされていないのか? ソウはかつて、当時の相棒である"輪"の魔術師と共に、ある"十三魔将"へ戦いを
「ソウが、そんな事を言ってたんですか……?」
「今も言っているかは分からん。だが、"十三魔将"に挑んで生きて帰っただけでも英雄的だ。──クウ君。ソウはもしかしたら、自分と同じ"人間"である君と出会ったことで、再びその目的を果たそうと考えているのかも知れんな」
クウは、ソウの顔を脳裏に思い描く。クウがイルトを旅する目的──"十三魔将"全員の
ソウは、クウをどういう心境で見ていたのだろう。クウには、想像がつかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます