34.朱錆竜ジャスハール
「あんたも……? 僕の他にも、人間と会った事があるんですか?」
「うん? あんたは、もしやあの女とは関係ないのか」
「あの女……誰です?」
「あんたと
「……若い女性の、"人間"? 初耳です。そんな人が、赤の領域にいるんですか?」
「少し前、"メルカンデュラ"の市場にいきなり現れたんだ。小柄な手下を一人連れて、色んな店で買い物をして回ってた。目立ってしょうがなかったから、良く覚えてるぜ。──まあ、あんたが知らないならいい。今回の出来事には関係ないかもな」
「あんたの知りたい事を教えるよ。村をブチ壊して回った"
「そうです。一体、どんな奴なんですか?」
「"
「"
ロフストはクウから視線を
「俺達はいつも通り、製鉄所を
「村の様子はしっかり見ましたよ。大変な事になってましたね」
「その表現は
「住民達が全く見当たらなかったのは、"
「ああ。俺達は"
クウはロフストの視線を追ってドルスを見た。ドルス自身も傷を負っており、負傷した部位を痛そうに
「あんた達が"十三魔将"を倒したってのは、久々に聞いた良い知らせだ。これで黒の騎士団の連中については、心配が
ロフストがそう言った時だった。──突然、クウ達のいる空間に激しい横揺れが生じた。
「なっ、何だ!?」
動揺するクウに、フェナが素早く駆け寄り、クウの身体に密着して身を
横揺れは十数秒に渡って続いたが、やがて
「──空気の質が、またちょっと変わった。良く分かんないけど、さっきの製鉄所の方に、また何かいる」
「今の話にあった、"
フェナはクウの身体に触れたまま、
「クウ、向こうに戻るつもり?」
「外の様子を見に行くんだ。無事に全員で戻るには、安全な退路が必要だ。──いつまでもこんな
「クウって、いつも自分より誰かの心配をしてるのね。──ま、いいわ。私もついて行く」
フェナのその言葉に、クウは
「待て、俺も行く」
クウとフェナの横に、大盾を
「俺も一息ついたら、向こうに戻って黒の騎士団と一戦
「お、お待ち下さい! 将軍、我々も共に──」
「いや、お前達は残れ」
ドルスは、急いで
「お前達はここに残り、有事の際に備えろ。具体的には──私がこのまま、戻らなかった場合などだ。いいな?」
騎士達は背筋を伸ばし、ドルスに向かって全員が深く頭を下げた。クウはそれを横目に、ドルスへ話しかける。
「──ドルスさんも
「お互い様だろう。傷の具合なら、
互いに手負いではあるが、会話の様子からすれば、二人ともまだ余裕がありそうだった。
「ま、待ってくれ、ドルス将軍。それと──クウ君」
クウが振り返ると、ロフストが手を伸ばしながらクウ達を見ていた。
「どうした、ロフスト
「一つ、思い出した事がある。──あの"
「な、何だと?」
「確かに見たんだ。逃げるので
ロフストは心底心配そうな顔で、
「情報をありがとうございます、ロフストさん」
クウはそれだけ言うと、再び洞窟に戻り、来た道を引き返す。フェナとドルスが、その後に続いた。
「──妙だ。静か過ぎるよ」
洞窟を抜けたクウが前を見たまま言った。真横にはフェナがぴったりと密着し、二人の真後ろには盾を持ったドルスが位置取っている。
「黒い騎士達がいない。てっきり、シェスパーの周りで大騒ぎしてると思ったのに……」
「10人以上いたわよね。死んだシェスパーを見て、しっぽを巻いて逃げ出したのかしら?」
「そうだといいんだけどね。──フェナ、あれを見て」
クウが指差したのは──シェスパーの死体が倒れている地点だった。
地面には、山椒魚と化したシェスパーの下半身の溶けた
「ひいいいっ……!」
不意に小さな悲鳴が聞こえた。クウ達が声の方を見ると、黒い騎士が一人、腰の抜けた状態で地面を
「黒の騎士か。──おい、貴様!」
ドルスがずかずかと歩み寄り、黒い騎士の
「貴様一人か?
「ひえええっ! た、頼む! 助けてくれえっ!」
「いくら
「うあっ! は、話す! 話すから、待ってくれ。──奴が来る! この場所は、駄目だあっ!」
「奴とは"
「そ、そうだ! ここを──今すぐ離れないと、マズい!」
黒い騎士は、会話の最中に気力を取り戻したらしい。ドルスの手を振り払い、クウ達と逆方向に走って逃げ出す。
「ヴォオオオオ──!」
突如、恐ろしい鳴き声が響いた。
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