第37話 三年生と二年生① 全国レベルと元エース
「さて、戦場に参りますか!」
夜空が意気揚々と声を上げると、試合が始まった。
先ほどの試合もそうだったのだが、先攻後攻は逆転している。一試合目は一年生、二試合目は二年生、そして今回の試合の先攻は三年生だ。
そして三年生チームのオーダーは、
一番ピッチャー大星夜空
二番センター峰夏海
三番ショート天野晴
四番サード柳瀬実里
五番ライト仲村智佳
六番レフト平河秀
七番ファースト本田珠姫
八番キャッチャー瑞原景
九番セカンド藤崎巧
三年生主体なので、巧自身は九番と一番打順が回らない位置。景はキャッチャーを二試合ぶっ通しでするため負担を考えた上で打順降格を選択した。あとは様々な打順を試すために入れ替えという形でポジション自体は大きな変更はない。
そして二年生チームは、
一番センター川元一(光陵)
二番セカンド明石雪穂(水色)
三番サード藤峰七海(明鈴)
四番ファースト諏訪亜澄(明鈴)
五番ライト佐野明菜(光陵)
六番キャッチャー三船魁(光陵)
七番ピッチャー土屋護(光陵)
八番レフト霧島夢乃(水色)
九番ショート水瀬鈴里(明鈴)
そのほとんどの選手を一試合目から代えてきた。
一年生チームはほとんどの選手を両試合で共に出場させていたが、二年生チームの一試合目を見る限り、ある程度長いイニングを出場させている。
そのためこの試合で初登場する選手は長いイニング出場すると考えてもいいかもしれない。そして先ほどの試合にと出ていた選手は途中交代の可能性もある程度考慮しておいてもいい。
そして、ピッチャーは光陵の土屋護だが、あと投げていないのは水色の村中亜里沙くらいだ。他の選手の登板の可能性もあるが、護と亜里沙で一試合を繋ぐと考えてもいいだろう。
ある程度状況が分析できたところで三年生チームの攻撃が始まり、一番の夜空が打席に入る。まずは塁に出ることが最優先だ。
初球、外角低めのストレートを夜空は見送った。判定はストライク。際どいボールには初球から手を出さない。
二球目、今度は内角低めの変化球だ。それも夜空は見送る。
「ボール」
ワンボールワンストライクとなった三球目、内角高めのストレートに夜空は思わずバットを動かす。コースギリギリのボールになんとか食らいつき、バットに反発したボールはファウルゾーンを転々とする。
追い込まれた。しかし、ここまでセオリー通りのリードだ。となると、次の投球は予想がついた。
四球目、外角低めのボールだ。やはりか、巧の予想通りの配球だ。しかし、夜空はバットの先に当てるだけで打球は三塁側ファウルゾーンを転がる。
「手元で動いたかな?」
隣で晴が呟いた。右投げの護が左打ちの夜空に対して投げたのは恐らくシュートかシンカー系の小さく変化する変化球だ。コースギリギリからボールゾーンに逃げる球故にバットの先に当たっただけと予想ができる。
「厄介かもしれないですね」
手元で動くボールというのは変化が小さい分打ちやすいように思えるが実はそうではない。夜狐のツーシームもそうだが、一見ストレートと変わらない軌道で向かってくる投球に対して素直にスイングすれば芯からズレて内野ゴロを量産することとなってしまう。三振を取るほどの変化ではないにしても、凡打を打たせて取ることは十分に可能な武器だ。
むしろ今の投球にファウルを打って凌いだ夜空は流石と言える。
五球目、今度は外角高めへのストレートだ。これには夜空も食いつき、白球はバットに反発して中を舞う。レフトへの大きなフライ。レフトを守る夢乃はどんどん後ろに下がっていく。しばらく後ろに下がると正面を向き、落下してきた打球をしっかりと掴んだ。
「アウト!」
打った夜空すでに一塁に到達したところでオーバーランをしていた。捕球されたのを確認して夜空は悔しそうな表情を浮かべた。
「流石は光陵の元エースってところですね」
昨年一年生エースだったが、今年は琥珀がエースだろう。神代先生も琥珀を『エースで四番』とハッキリ言っていた。
「そうだね。でもこれで打てたら私も全国で通用するかもしれないって考えたら俄然やる気が出るよ」
晴はそう言ってヘルメットとバットを持ってネクストバッターズサークルに入っていった。
晴の言葉は少し言い過ぎかもしれないが、確かにその通りだ。全国区の選手と言っても何打席かあれば一度くらい打てるかもしれない。しかし、打てないのとその一度を試合で打てるというのは大きな違いがある。
三年生という上級生ではあるが、二年生の護に対して胸を借りるつもりで挑んでもいいかもしれない。
ただ、やはり護は厄介だった。二番の夏海と三番の晴は三振、セカンドゴロと打ち取られた。
「どうやって攻略していくか……」
フルイニング投げることはないだろうが、長くてもあと四イニング、下手したらあと二、三イニングで降板あり得る。
試合に勝つ以上にどうやってこのピッチャーを攻略していこうか、そのことに巧は注視していた。
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