17 屋外授業①




「ここでエテルナを変化させてこうして・・・うん、良いでき。ここに液体合金アマルガムを注いで合わせて・・・」


「あら、リュミィ様。こちらでいらっしゃいましたか。工作でいらっしゃいますか? 精が出ますね」


わたしが自分の部屋、工作机に向かって錬金工作で小物を作っていると、メアリさんが後ろから話しかけてきた。


「ええ」わたしは上機嫌で振り向いた。「わたし自分がこういう細工ものが好きだってしらなかったけれど、楽しいものね。ほら、これ。良いできでしょう?」


そう言って、作ったばかりのお護りチャームを見せる。エテルナと特殊な合金を、魔法によって掛け合わせ、形状を象ったものだ。魔法もいろいろ種類があり、このようにアイテムを作る錬金魔法というものがあるのだ。


お護りチャームづくりは意匠を勝手に決めれるのが楽しいし、施術者の力量が高ければ付与する魔法の効果を変えてみたり、エテルナの注ぐ量を変えることで、効果が高いものを作成できて、とても自由度が高い。ただ色がエテルナの属性によって決まってしまうので、細かな色使いは難しい。それに、わたしが作るとだいたい闇属性の黒色になってしまうのだけど・・・。



「あら、ポルを意匠にした細工物でしょうか? 活き活きしていて、お上手ですね」


「・・・シャットなんだけど」


「も、申し訳ありません。シャットです、そう見えます、いえ、それにしか見えません」


・・・気を使われている。


わたしは咳払いをして、仕切り直す。


「こほん。お護りチャームは見た目だけじゃないわ。効果だって大切なんだから。それに、いくつも作っているんだから。メアリにも気に入ったものをあげるわよ」


「まあ、よろしいのですか?」


ぱっと明るい表情になるメアリさん。可愛いなあ。


「リュミィ様がお作りになったお護りチャームなら、ものすごくご利益がありそうです。すぐにでも幸運がやってきそうですね」


「えっ・・・幸運?」


「え?」


「・・・・・・」


なんとなくわたしが目をそらすと、メアリさんはわたしの工作机のうえにあったチャームを指差す。

「あの、たとえばですが、このお護りの効果は、なんでしょうか?」


「カエルとかヘビとかコウモリになぜかとても好かれるようになるお護り<爬虫類ラブな人用>」


「・・・では、こちらは?」


「血のめぐりをちょっとのあいだ止めれるお護り<死闘のさなか心臓を止めて相手を騙したい方用>」


「それでは、こちらは?」


「・・・元気のなくなった不死者を、がばっといきおいよく立ち上がらせることができるお護り<肝試し用>」


メアリさんが黙り込んでしまった。やっぱり不死者アンデット用は刺激が強すぎただろうか。わたしも作るのに楽しくて、魔法の先生からもらった教本のなかでも複雑なものを作っていたけれど、もっと普通のものを作っておけば良かったと後悔した。いや、普通のものも作ったような気がする。


独特ですね、とメアリさんは絞り出すように言った。


うん、ちょっと待って。リベンジの機会をちょうだい。


思い出せわたし・・・お護りって、お護りって、そもそもなんだっけ?・・・いやそうじゃない、それはともかく、これだ!


わたしは赤黒い雫型のお護りを摘んでかかげた。


「こ、これはどうかしら? 一般的でつかいやすいとおもうんだけど・・・」


「一般的! それはよろしいですね、見た目も可愛らしいですし。どんな効果なんです?」


「こ、攻撃力のこうじょう・・・かな」


「さようですか・・・」


メアリさんは戦うことがないから、攻撃力向上は役に立たないね。


結局、メアリさんに贈るお護りは、ゼロから作り直すことにした。




■□■




わたしが魔法を習い始めてから、夏が過ぎ、秋が来て去り、やがて冬が来て。半年が過ぎた。


「今日は少し寒いですが、よく晴れて気持ちがいいですね。絶好の屋外授業の日ですね」


ヴラド先生の授業に行くと、いつも難しい顔をしている先生には珍しく、上機嫌でそんなことを言った。わたしは予定していた外出着に身を包み、先生に続いて、お屋敷の前庭に出る。そこは公爵家の騎士たちの訓練場も兼ねる場所だ。


ヴラド先生は、実際のところ本当に優秀なのだろう。魔法理論はわかりやすいし、実技も高水準だ。その魔法制御は実践を旨とする騎士団のに人たちから見ても見事なもののようで、前庭で授業をしていると、いつの間にか騎士たちもわたしたちを取り囲むようにして授業を聞いていた。わたした言えたことじゃないかも知れないけど、もっと訓練を真面目にしたほうがいいと思うなあ。


「魔法でもっとも初歩的なものは、スフィア型と呼ばれる型です。これは各属性のエテルナを集めてぶつけるだけなので、工夫が少ないゆえに制御が簡単です」


公爵騎士たちの練兵場を兼ねる薄く雪が積もったお屋敷の前庭。ぼふっ、とヴラド先生は魔法で緑色の球を出現させた。風属性の球だ。


「スフィア型の魔法をそのままで威力を高めようとすると、このように膨らみます」


バスケットボールほどの大きさだった緑の球はヴラド先生の言葉に従い、バルーンみたいに4倍ほどの大きさになった。


「しかしこれだと大きいだけで威力が拡散してしまうし、球が飛ぶのも遅くなってしまう。そこで・・・」


ぎぎぎ、と音とともに、膨らんだ球が小さく『圧縮』される。


「このように小さく圧縮する。この型をブレッド型と呼びます。圧縮すると弾速が速くなる上に、威力も跳ね上がります。このまま圧縮を重ねて威力を上げ続ける方法もありますが、相当な制御力が必要です」


緑の球が、親指の先ほどの大きさになる。それでも籠めたエテルナの量は変えていないらしい。質問をしていた騎士たちがざわつく。これが暴発したらあたり一面が吹き飛ぶことがわかるのだろう。その恐怖と、それほどの威力の魔法を顔色ひとつかえずに制御しきるヴラド先生の制御力への称賛だろう。


「アプローチを変えて、具現型をお見せしましょう。これは魔法に形状を与え、その『イメージを付加』することで、魔法の威力と特性を変化させます」


緑の弾丸は三度みたびかたちを変え、今度はナイフの形状へと変化した。


「ナイフの形状に具現化したことで、ナイフのイメージが付与されました。これにより、この魔法の効果は斬撃攻撃となり、さらに貫通力が高まりました。このように」


ヴラド先生が手を上に掲げると、ひゅっーーと魔法の緑色の刃が高々と空に舞い上がった。騎士たちがざわつく。そして先生がダーツを投げるような動きで地面を指すと、緑色の刃は高速で音も無く雪の積もった地面を貫いて、見えなくなった。


表面上は、刃の幅の薄い穴があいただけだけど、耐魔法処理が施された石畳を貫いて、地下1メートルぐらいのところまで刃が届いた。魔法師系の騎士さんは大気と地中のエテルナの流れからそこまで感知したはずだ。


思って何人かの顔を見ると、青ざめたりあっけにとられたりしている人が多い。なるほどね。いまのデモンストレーションは、みんなから見てすごいんだ・・・ということがわたしにもわかる。




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