第36話 仮面の欲求
それは安西さんだった。
彼女ともまた無難なあいさつや、やり取りを繰り返してこれでようやく堅苦しい場にもひと息がつけると、そう思っていたのだが・・・・・。
「この前はどうもっす五島さん。
正式には初めましてですね、嬉しいっす。いや~でもなんだかこの会やっぱ盛り上がんないっすね~。私もちょっとネタ目的と、からかい半分で来たんだけど」
「ははっそうだよね、僕もそう思ってる。
失業者集めてコンパだなんて」
軽やかに話しはじめる安西さん。
話始めると意外にスムーズに会話が弾みだし・・・・・。
「五島さん、男性ってこの会に参加している人ってみんな班長なんですよね?
実は女性の参加者は全然違くて、ここにいるのはみんな有志で参加した人なんです。だから7名なんですよ。32名中7名だけだったんです。実際コンパに参加したいって言った人。それ聞くとなんか男どもは寂しくないっすか?」
「へぇ~そうなんだ。どうりで不揃いなわけだ・・・・」
「でね、ここだけの話なんですけどね。ちょっと耳寄せて・・・・・、この7名の女性陣ってね、実はほとんど五島さん目当てだったんですよ。4人はそうだったかな?最初に出てった子、坂巻さんもそうです。
影から見てて五島さんのこと素敵~ソリマチみたい~、昔のドラマの時の~なんて言ってたんですよ~!」
「はははっ、また~そんなウソばっか」
「いやマジっすってコレ~、アタシらだって一応女子トークしてたんすから~。でも気を付けてくださいよ、女は裏にドス黒いもん抱えてるかもっすから・・・・」
安西さんは見た目の印象としては全く好みでもなく、関係性を深めようとも思っていなかったが、喋ってみると顔とは真逆で意外に朗らかで話上手で、コチラの意図をくんで乗せるように話してくれるもんだからスムーズに会話は展開し、私は彼女との会話に引き込まれていった。
『ではこれでお一人ずつの交流タイムは終了になりまーす。ここからはフリータイムとなりますので。どうぞご自由なメンバーでご歓談ください』
時間が終わってもまだ話は尽きず、ついさっきまでとは一転この時間が名残惜しく感じてられていた。
「あっじゃあ五島さんどうします?よければ私はまだちょっと話したいんっすけど」
「あっああうん。じゃあそうしよっかな」
安西さんとは恋人にはならないだろうけど友人にはなれそうだと。
今まで信じられなかった異性間の友人関係を確かめようと、私はもう少し交流に励むことにした。
そこで二人で席を立って飲み物を取りに行こうとすると、通路の向こうから一人の女性が近づいてくるのが分かった。
それは最初に席を立った坂巻さんだった。
「あっ良かった~これからフリータイムですよね~。さっきはすいません五島さん~私どうしても我慢ならなくって~」
内またでヨタヨタ歩きながらコチラへ近づいてくる坂巻さん。
さてコレは気まずくなったぞと思っていると、またも安西さんが私の耳元でささやく。
「気を付けてくださいあの人。五島さんのこと素敵とは言ってましたけど、
それは資産としてって意味です、たぶん。あの人五島さんを金目当てで狙ってます」
「えっどういうこと?」
いきなり何を不可解なことをと思って彼女の方を振り向くと、安西さんはある一枚のパンフレットを持って示していた。
それにはC3隊員生涯保険と書かれている資料だった。
「あっちょっと待ってて坂巻さん」
寄ってきた坂巻さんをその場に留めてまで、安西さんを脇に引き連れてさらなる説明を求める。
「で、その保険金ってなに?」
「これ実は内緒なんっすけどこの会が始まる前にね、参加者がイマイチ集まらないもんだから講師の女性からこの資料が数人の女性に示されたんっすよ。
男性隊員はこの任務中死んだら、在籍期間問わず保険金としてその配偶者に1億入りますって。」
「えっ!いっ1億!うそだっ、そんなに入隊期間とか関係なく?でも死んだらだよね?って今から保険金示すってあまりに不吉だよなあ」
「ケガとかでも程度によっては数千万とか。だからこの会で男一匹捕まえておいても損はないわよね。だからって殺すのはダメよーダメダメ!って講師が古いギャグまでかましながら、坂巻さんたちに言ってるの聞いちゃって、私腹立っちゃって。
その後すぐあの人参加したもんだから、私その資料奪い取ったんすよ。・・・いやだから多分そうかなって。いや、憶測ですよ憶測ですけどね、一応念のため五島さんに」
「ウソだろ・・・・。そんなん言われたらもうこの会自体、女性を誰も信じられなくなるよ。でもさあそれって僕じゃなくてもいいわけじゃん。言っちゃ悪いけど他にも乗ってくれそうな相手はいるわけで」
「そりゃあそうですけど、出来ればそのカッコいい人の方がいいじゃないっすかあ、一緒になるんだから。それに若い人の方が保険金も多くもらえるって言うし。・・・・言っとくけど私は、そんなお金とか全然目的じゃないっすからね、別に男とか興味ないんで」
「ああ、そうなんだ。うん分かったよ。ありがとう安西さん」
何を偉そうに言っているのかこのブスはと思いながらも、そんなブスな安西さんだから彼女のことは何故か無条件に信じられると感じていた。
その後坂巻さんとは適当にグラスを酌み交わし、適当な距離感を保ったままその場限りで近付くことはなかった。
他の女性も数人私に近寄ってきたが、誰もが目が虚ろでにやけ面しているのが含みがあるようで気に入らず、唐突にオッパイの形と乳首のサイズを聞くなどという猥談をかまして、女性陣が顔を赤らめている隙を逃げるようにしてその場を立ち去った。
ただ安西さんだけは別で、出口で待っていた彼女とは真顔で連絡先を交換して別れた。
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