第60話 敗走
盗賊達のボス。馬に乗った騎士風の男は不敵な笑みを浮かべていた。
(騎士でもないこんな寄せ集めのゴロツキ共と一緒に馬車を襲撃しろと言われた時は耳を疑ったが、今のところは順調だ……。馬車の中では慌てふためいているに違いない……)
しばらくすると馬車の中から御者が顔を出し、慌てた様子で馬達の手綱を握った。
強行突破でもするのかと思いきや、御者は手綱を握ったまま震えているだけ。
次の瞬間、馬車の中から漏れ出る魔法の光。紫色に輝くそれは抵抗の意志を見せたと言っていいだろう。
(情報によると、馬車の中にはゴールドプレートの冒険者が2人。
今の光は
「そろそろ出てくるぞ! 警戒を怠るな!」
それを言い終わった瞬間、馬車の後方から誰かが降りて来た。
その独特の金属音は、相手が重装備であろうことを思わせる。
「ものども! やってしまえ!!」
持っていた直剣を掲げ攻撃開始を宣言する騎士風の男。
それに呼応するかのように威勢の良い雄叫びが聞こえてくるはずだったのだが、返ってきたのは想像とは違う声。
「リ……リビングアーマーだぁぁぁぁぁぁ!!」
悲痛な叫び声が聞こえた矢先、馬車の後ろから何かが宙を舞った。
(あれは……なんだ?)
目を凝らすようにそれを追う。綺麗な弧を描き飛んでいくそれは、誰かの腕。
持っていた武器はそのままに、それは鈍い音を立てて地面へと落ちた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
悲鳴と共に激しく打ち合う金属音だけが辺りに響き、吸い寄せられるように馬車の裏側へと消えていくゴロツキ達は、誰1人として戻ってこない。
馬車の影から流れてくる血の量は、そこで何が起きているのかを安易に連想させた。
「おい。お……お前。よ……様子を見て来い……」
騎士風の男が手近な所にいた部下に命令するも、そいつは引きつった表情で首を横に振った。
そして辺りが静まり返ると、馬車の裏から血まみれのフルプレートアーマーが姿を現したのだ。
右手には片手用の金属斧。左手には重厚なタワーシールド。鎧の右側は返り血で真っ赤だが、左側は盾のおかげで原色を保っている。
その鎧の中には誰もいなかったのだ。
隙間から漏れ出ている瘴気が、それに命を吹き込んでいるのである。
それを目にした馬達は危険を感じて暴れ出す。それは騎士風の男が乗る馬も例外ではなく、情けなくも落馬してしまったのだ。
「ぐえ……」
馬はそのまま走り去り、御者は暴れる馬達を必死に抑えていた。
「クソッ……落ち着け……落ち着くんだ!」
それを横目に、ゆっくりと歩き出したリビングアーマー。
「話が違うぞ! あんなバケモノが出て来るなんて聞いてない!」
リビングアーマー。別名、動く鎧。
ダンジョンで死に絶えた冒険者の鎧に悪霊が宿ったものだと言われている魔物の一種だ。
倒すには原型を留めないほどに鎧を破壊するか、魔法で中身に直接ダメージを与える必要がある。
物理系適性にとっては相性の悪い相手。
「お前達の中に魔法を扱える者は……」
騎士風の男が身体を起こすと、周囲には誰もいなかった。
ゴロツキ達は脱兎の如く逃げ出していて、既に残っているのは騎士風の男ただ1人。
「うわぁぁぁぁ!」
なんとかその場に立ち上がると、男は無我夢中で走った。
逃げる以外に生き残る術はなく、1人で勝てる相手ではないのは明らか。
走りながら、何度も何度も振り返る。しかし、リビングアーマーは諦めることなく追って来ていた。
相手の歩幅がデカイのか、中々距離は開かない。
(疲れた、立ち止まって休憩したい……。鎧が重くて暑い……。足が震える……)
しっかりと力を入れなければ、よろけて転んでしまいそうなほど力なく走り続ける騎士風の男。
追い付かれたら確実に死ぬという恐怖。しかし、そこへ一筋の希望が見えた。
正面に騎馬隊が見えたのだ。その奥には王家の紋章の入った馬車。
(しめた! アレに助けを求めれば!)
騎士風の男は上げた両腕を必死に振りながらも、大声で叫んだ。
「おぉーい! 助けてくれぇ!!」
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