第365話 泡沫夢幻の白波
「イーミアル。直接見て、どうだ?」
九条達を追い払い謁見の間が静まり返ると、玉座の裏から姿を現したのは1人のハイエルフの女性。
人間でいうところの25歳前後。表情は柔らかく、オールバックのブロンドの髪は腰に届きそうなほどの長髪で、後ろで1つに束ねている。
長身で細身な体つきは、スレンダーを通り越し痩せすぎとも取れるほど。青と白の刺繍で彩られた光沢のあるローブを身に纏い、護衛のハイエルフ達とはまた違った形の杖を手にしていた。
「少なくとも、警戒には値するかと……」
イーミアルは、チャイナドレスにも似た大きく開いたサイドスリットを揺らしながらも玉座の縁に肘を乗せると、胸のプラチナプレートが女王の前に垂れ下がる。
「やめんか! 鬱陶しい……」
「これはこれは失礼しました。女王陛下」
ワザとらしく取り乱して見せるイーミアルは、玉座から離れ頭を下げる。その表情は何処となく楽しそうで、反省しているようには見えない。
彼女は、
「ノルディックを殺し、スタッグの第4王女が実権を握ったと仮定するなら、国からの指示でこの依頼を受けた可能性は大いにあるでしょう。プラチナが受けるには報酬額があまりにも少なすぎる。何か裏があってもおかしくはないと考えます。女王陛下のお考えはどうなんです? そのような者をのこのこと街に入れてしまってよかったのですか?」
「プラチナが来ると知っていたら断っておったわ。それに妾の所為ではない。ギルドが非協力的なのがイカンのだ」
イーミアルから不躾な目を向けられ、女王は子供っぽくむくれながらも溜息をついた。
「はぁ。表向きはギルドの依頼。内実は国のスパイか……。問題だらけで嫌になる……。5倍の報酬で目を瞑ってくれればよいのだが……。仮にモフ……奴等とお主とがやり合えばどうだ? 勝てそうか?」
「また難しい事を聞かれますね……。状況次第……といったところでしょうか……」
「ほう。随分と弱気だのぉ。いざという時は期待しているのだが?」
ニヤリと不敵な笑みを見せる女王。すでに答えを知っているかのような見透かした視線をイーミアルへと向ける。
「不意打ちが出来れば誰にだって勝てますよ? ……ただ、後ろに控えた従魔達がそれを許さないでしょうけど……」
「ふむ。守りは硬いか……」
「モフ……彼等のパーティが前衛職なしの遠距離編成なのは、敵を欺く為のものだと推測しますね。死霊術で登録しているのも、魔術系適性に偏っているように見せかけているだけのブラフ。彼等のパーティ名がモフ……ふざけているのも、それに一役買っているのではないかと……」
「九条1人ならどうだ?」
「女王陛下には、彼を1人に出来る策があると?」
「そんなものはない。たとえばの話だ」
不躾な目を向けてくる女王に、今度はイーミアルが溜息をついた。
「はぁ。そうですね。勝てるとは思いますよ? 神の裏切者であるネロが残した魔法書が彼の手に渡らなければ……という条件付きですけど」
「現存していた魔法書は全て焼かれただろう? まだ残っていると?」
「可能性の話ですよ。見つかっていないダンジョンや遺跡などに隠されていてもおかしくはない。何せネロは、戦後魔族と手を組んだのですから」
「それが教会側に見つかれば焼かれるだけ。運よく世に流れたのなら買い取ってしまえばよかろう。ギルドも冒険者も、欲が深いからの」
「ならばもう少しギルドに譲歩してもよろしいのでは? せめてドワーフ以外の種族は緩和しなければ、本当にギルドは出て行ってしまいますよ? 毎回ギルドからの使者を相手にする私の身にもなって下さいよ。エルメロード様」
わざとらしく肩を竦めて見せるイーミアル。とは言えその視線は鋭く、とても冗談を言っている雰囲気には見えない。
さすがの女王も、それには少し引いた様子で場を濁す。
「むむ……。検討はしよう……」
「それで? もしもそれが手に入ったらどうするんです? それを餌に彼を仲間に引き入れますか?」
女王は、イーミアルの提案を鼻で笑い一蹴すると、力なく手を左右に振った。
「ないない。冗談はよせイーミアル。
「仮面の価値に気付かれたら?」
「怪しい動きがあれば殺しても構わん。妾が許可しよう。モフ……彼等の事はよろしく頼むぞ」
「御意に……」
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