第4話 村の現状
「只今こちらのギルドに専属としてご登録いただくと、なんと3階の宿泊施設が1ヵ月間無料でご利用出来ますよ!? さらに! ギルド所有の温泉施設も無料でお使いいただけます! そして1日3食の食事付きでワンドリンク無料! アルコールは別料金なので気を付けてくださいね! その上なんと、武器や防具などのメンテナンス費が通常の半額でご利用いただけてお得! そして最後の目玉! 現在こちらのギルドでは冒険者の方が担当を選ぶことが可能となっておりますっ!」
話だけ聞くと言ったらこれだ。深夜の通販番組のような怒涛の売り込みに、正直ちょっと引いてしまう。
しかし、メリットだけ聞けば悪くない話だ。カネのない俺にとって、住み込み食事付きは大変ありがたい。
担当を選ぶ――というのがよくわからないが、それより問題は仕事内容の方である。
いきなり魔物退治などを任されて、失敗した挙句に死亡――なんてのは、まっぴら御免だ。
「確かにそれだけ聞くといい話だとは思いますが……」
「じゃぁ!」
ソフィアは嬉しそうに目を輝かせる。
「いや、待ってください。仮にギルドに登録したとして、仕事内容はどういった感じなんでしょうか?」
ゲームや物語の中での冒険者ギルドと言えば、大きな掲示板に依頼書が貼り付けられていて、そこから自分に見合った仕事を探す――という流れだと認識している。
その質問に2人は顔を見合わせると、何かを決意したかのように頷いた。
「特に何もしていただく必要はございません。登録するだけで結構でございます」
「いやいや、登録しただけで宿泊施設が無料で使えたり、飯が食えたりするのはおかしいでしょ……。それなら村人の誰かが、ギルドに登録すればいいじゃないですか」
「もちろんそれは可能なのですが、この村には適性持ちがいないので……」
「適性持ち?」
「はい。人は生まれながらに適性を持っています。成長によって会得することもあれば、自然と身に付くこともあります」
「ちなみに俺は、狩猟適性と弓適性を持ってるぜ」
カイルが胸を張る姿は、どこか誇らしげだ。
「つまり、ここの村人はギルド所属に必要な適性がない……と?」
「そういうことになります……」
「じゃぁ俺も適性がなければ、ギルドに登録することは出来ないんじゃないですか?」
「いえ、
転生前にガブリエルが教えてくれた『経験が強く反映される』というのは、適性のことなのだろう。
「そこはわかりました。けど、何もしなくていいってのはどういうことです?」
「それは……」
口ごもるソフィアは、何から話せばいいか悩んでいるようにも見えた。
悩むほどのものなのかとも思ったのだが、俺はその話を聞いて納得したのだ。
ギルドは畑や家畜を襲う獣や魔物、盗賊の襲撃などから村を守る抑止力となっている。
隣の国とは外交上あまり仲が良くないようで、小さな戦争が頻発している為、より報酬の高い依頼を求めてそちらに冒険者が流れてしまっているようだ。
冒険者が村から出て行ってしまうと依頼が達成されず、ギルドにもお金が入らない。
ギルドの赤字経営が続けば支店の撤退。結果、村人が困るということのようだ。
「もちろん依頼を受けてくださった方が助かりますが、所属登録してくださるだけでも、首の皮1枚繋がるんです!」
必死に訴え掛けるソフィア。
ギルドの存続に必要な条件は主に2つ。1つはギルドの売り上げだ。
場所によって異なるが、ギルドへの依頼料の60%が冒険者に支払われ、残りの40%がギルドの取り分になる。
もう1つは、ギルドに所属している冒険者の人数や強さだ。
拠点を持たずに渡り歩く、一般的な"流れ"の冒険者。それとは別に"村付き"、"街付き"、"専属"などと呼ばれる冒険者がいる。
その名の通りその拠点でのみ活動する冒険者のことで、最低でも数か月間は縛られるが、依頼報酬とは別にギルドから毎月一時金が支給されるのだ。
ソフィアいわく、高ランクの冒険者は報酬額の低い依頼は受けないので、必然的に低ランクの依頼が溜まってしまうらしい。
高ランク冒険者がやりたがらない依頼の処理や、村の警備などが主な仕事内容になるそうだ。
2000年前に魔王が倒されてからというもの、冒険者に憧れを抱く者や、夢を見る若者も減少傾向にある。故に地方のギルド支部は、人手不足が深刻なのである。
「ど……どうでしょうか?」
全て話した。あとはこちらの返事待ち――といったところか。
「わかりました。俺でよければ協力します」
「「やったー!」」
真剣な面持ちで俺を見つめていた2人は、返事を聞くと嬉しそうに歓声を上げ、手を取り合った。
実は話の途中から受けようとは決めていたのだ。
助けてもらった恩というのもあるが、ソフィアとカイルの村を守りたいという熱意が痛いほど伝わったからだ。
しかし、自分に適性と言うものがあるのかどうか――。それだけが気掛かりであった。
「ただし、俺に適性がなかったら諦めてください」
2人は、キョトンとして「そんな訳ないだろう?」とでも言いたげな様子だったが、ソフィアは俺が冗談で言っている訳ではないと悟り、その場合は諦めることを約束してくれた。
「おっと、そうだった。自己紹介がまだだったな。俺の名はカイル。この村で"村付き"の冒険者をやっている。ちなみに、この村は俺の故郷なんだ」
なるほど。それならこの村に肩入れするのも頷ける。
「では、登録作業をしますので2階へどうぞ」
綺麗に平らげたたまごかけごはんのトレイをカウンターに下げると、厨房から出てくるレベッカ。
「ご馳走様。美味かったよ」
「お粗末様。あんた、ギルドに入るのかい?」
「ああ」
「へぇ。ソフィアも中々やるじゃねーか」
「すごいでしょ?」
階段下で俺を待っていたソフィアは、先程の真剣な表情とはうってかわってフランクに答え、レベッカに向かってガッツポーズをして見せた。
「おい、おっさん。登録終わったら夕飯はウチに来なよ。うめぇ飯用意して待ってるからさ」
おっさんと呼ばれたことに少し引っかかりを感じるも、嬉しそうなレベッカの笑顔に「登録出来たらそうさせてもらうよ」とだけ言い残し、その場を去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます