第2話 めんどくさい美少女・岩佐美希さん。

 夏休み初日。快晴。時刻は十二時。


 俺こと鈴木一護は近くのコンビニにお昼ご飯の買い出し帰りの途中。


 俺はお母さんと二人暮らし。お父さんは小さい頃病気で死んでいる。


 お母さんの仕事は個人美容師。店舗兼自宅で今日もお仕事を頑張っている。尊敬するお母さん。親子の仲は良好だ。


 家への帰り道の河川敷の歩道で草むらを眺めている一人の少女がいる。コンビニに向かっている時にもその場所その人はいた。


 同じクラスで学校一の美少女と言われている岩佐美希さんだ。


 河川敷を眺めているその姿は美しく絵になる……とは程遠かった。なぜなら学校指定の緑のジャージ姿。さすがの美少女でも絵にならない。


 ずっと河川敷を眺めているよね? 十五分くらいかな? どうしたんだろ?


 思い切って声をかけてみる? 一年生の時も同じクラスだったけど、一度も話をしたことない。


 岩佐美希さんは入学当初から学校一の美少女って言われている。無理っす。緊張して声なんてかけられない。


 でも今なら声をかけられる気がする。最大勇気を出せばできる。周りに人はいない。冷やかしはない。やればできる。


「いいい、岩佐さん。こここ、こんにちは」


 緊張マックス! 岩佐美希さんが俺を見た。うおぉぉ、かっ、かわいい! 心臓バクバク! ジャージ姿でも最高!


「……誰?」


 ——ぐはっ! クラスメイトなのに『誰?』って。まっ、まぁ俺は有象無象ですよ……シクシク。 


「えっと、岩佐さんと同じクラスの鈴木一護です」


「そう。で、何?」


 あれ? なんだか怒ってる? 俺のせい?


「さ、さっきからそこに居るよね? 何してるのかなぁと思って声をかけました」


「私のお昼ご飯が除草剤まみれなのが悔しくて……」


 ……はい? 私のお昼ご飯が除草剤まみれ? 何を言ってるのかな?


「えっと、ちょっと意味が分からないんですけど……」


「ほら、目の前の河川敷に沢山の野草が生えているでしょ? 夏休みは野草をお昼ご飯にしようと思って河川敷の管轄に取っていいか電話したの。

 そしたら除草剤かけているから触らないほうがいいって言われたの」


 悔しそうにしている岩佐美希さん。ますます意味が分からない。考えろ、考えるんだ。推理するんだ。


 三日前に図書館で見た、食べられる野草の本を嬉しそうに見て借りた岩佐美希。


 河川敷の野草が採取できなくて悔しがる岩佐美希。


 夏休みは野草をお昼ご飯にすると言った岩佐美希。


 謎は全て解けた——生活のための野草採取! 自由研究じゃなかった!


 俺は岩佐さんの事は何も知らない。学校でも謎の存在。私生活は誰も知らない。探ってはいけないと暗黙のルールとなっている。


「お腹すいたな……」


 ボソリと呟く岩佐さん。もしかして……お昼ご飯も食べれない貧乏さんなの?


「……えっと、おにぎり食べる?」


「えっ! でも……初対面の人からものを貰うのはちょっと……」


「初対面って……さっきも言ったけどクラスメイトです!」


「証拠は?」


「証拠って……ないです。あ、でも食べられる野草の本を借りているのは見ました」


「そう。でもクラスメイトの証拠にはならないよね」


 ぐむむ。信じてもらえない。ええい。もういいや!


 俺は手に持っていたコンビニの袋を強引に渡した。


「それにいろいろご飯入っているから食べて! じゃ!」


 そう言って俺は家の方に走り出した。何か言っているけど無視無視。


 走りながら考える。学校一の美少女、岩佐美希。おそらく貧乏さん。


 でも美少女とか貧乏さんとかをかき消すほどの——


 めんどくさい女の子だぁぁぁ!

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