第843話 3歳のお祭りの楽しみ方

 どうも、おじいちゃん、おばあちゃんは、私に優しいということを悟ったアンジェラ。どこかの誰かさんが我が家の女王様の怒りをかったときに逃げ込む父の後ろというのが見えてくる。

 私の祖父母も、遠く離れた場所で住んでいたので、それほど頻繁に会えなかった。だから、祖父母の方も私を甘やかしたかったというのもあったのだと思うが、目の前でそれを見せられていると、どうしたものかと思ってしまう。

 アンジェラたちの誕生祭は、始まっており、屋敷の前は店が並び賑わっていた。



「次はあっち」

「アンジェラや、こっちのはどうだ?」

「うぅん、こっちがいいの!」



 我儘言いたい放題になっているアンジェラに少々悩まされる。



「アンジーはかなり打ち解けているね?」

「……ジョージア様。なんとか言ってあげてください」

「そうはいってもねぇ?両親も可愛くて仕方がないんだから、しょうがないよ。アンナがあんなに可愛い子を生むからいけないんだ」

「……ほぼほぼ、見た目はジョージア様ですけどね!」

「中身はアンナだけどね?」



 クスクス笑うジョージアは、私の子ども時代を見てきたかのようにアンジェラの話をする。私がいなかった数ヶ月の間、そうとうジョージアに甘やかされていたらしい。ただし、リアンには、叱られてばかりいたとか。



「リアンはさすがだよね。母親だけあって、うまく叱ってくれるよ」

「叱るというより、諭すのほうが正解ですよ。リアンは、決して威圧的ではなく、目を見てどうしてそれをしたのかとか、しっかり話を聞いた上で、これはどうしてしてはいけないのかと、こんこんと言われるの」

「まるで、アンナが言われたようなふうに聞こえるけど?」

「……そんなこと、ありませんよ?」



 おほほほ……と笑うと、じとっとこちらを見てくる。



「ママは、リアンに叱られているの」



 思わぬ伏兵に手を繋いでいたジョージを見る。



「へぇーアンナがリアンにね?まぁ、デリアがいたときもよく見た光景だけど?」

「……そんなことありませんよ?」

「デリアがいたときは、注意だけではなかったよね。本当にアンナはいつまでたっても……」

「子どもだって言いたいんですか?」

「……違うよ?予測不可能って言いたかったんだよ」

「同じじゃないですか!アンジェラだって、あっ、ほら!」

「本当だ。おんなじだね。母娘なのに……もう少し落ち着こうか?アンナも」

「……落ち着いた立派な淑女ですよ!」

「そういうことにしておくよ!さて、アンジーを回収してくるよ。そうしないと、両親が寝込んでしまいそうだ」

「それは、困りますから、お願いします」

「あぁ、わかったよ。それにしても……」



 こちらを見て、まだ、何か言いたげなジョージアを睨む。



「アンジーは、きっとアンナのような大人になるんだろうね」

「それは……」

「そのままだよ」



 そういってアンジェラの元に駆けていってしまう。その後ろ姿を見ながらため息をつく。



「ママ?」

「どうしたの?」

「あれ、食べたい」



 珍しくジョージが興味をひいた食べ物があったようで、指さした方を見ると、たまに食べたくなる蒸かし芋。そこにバターがのかっていておいしそうだ。

 おやつに出してもらうことがあるので、ジョージも好きだそうだ。



「半分こする?」

「うん、する!」



 私はジョージと蒸かし芋をしている店の前まで行く。



「こんにちは!お芋1つくださいな!」

「はいはい、お芋……って、アンナちゃんかい?持っていきな!」

「ダメダメ!お金は受取って!あとで、回収させてもらうから」

「抜け目がないねぇ……まったく。今日は、ぼっちゃんと回っているのかい?」

「えぇ、そうよ!ジョージがお芋が食べたいって。割ってもらえるかしら?」

「任せといて!それより、お嬢ちゃんはどうしたんだい?いつも元気な……」

「マッマッ!」

「あら、来た来た。お嬢ちゃん」

「アンジー待ちなさい!」



 ジョージアからスルッと逃げ出し、私たち一目散に走ってくるアンジェラ。蒸かし芋の店をしているおばさんが、嬉しそうにしている。



「もう1個必要だね?」



 ニヤッと笑うので、私は2個分の代金を払う。先にジョージ、走って私に抱きついたアンジーにも渡してあげ、私の分とジョージアの分を受取った。



「もう、食べているの?」

「ジョージが欲しいっていったから、半分にするつもりだったの。どうぞ、旦那様」



 ジョージアに半分に切った芋を渡そうとすると、その手を掴んで固定し、そのまま口でかぶりつく。

 いままでそんなこと1度もされたことがなかったので驚いたのと、なんだかとても恥ずかしくなった。



「……あの、ジョージア様?」

「ん?このお芋おいしいね。おばさん、どこのお芋?」

「おっ、旦那様だね。芋はアンバーで採れたものだけど、そんなことより!なんだい?あんたたち、熱いんだねぇ?こっちのホクホク蒸かしている芋より熱いんじゃないかい?ねぇ、アンナちゃん?」

「……」

「アンナ?」

「えっ?何?」

「何?って大丈夫?」

「……えぇ、大丈夫よ!」

「あら、アンナちゃん、顔が赤いわよ?」

「……そうかしら?お芋が熱いからじゃない?ほら、ふぅふぅ……」

「ママ、もう冷めてるよ?」



 食べ終わったアンジェラが、物欲しそうにこちらを見上げていた。目があったら、何か見透かされているようで、それも恥ずかしくなる。



「アンナは一体どうしたことやら?」

「……なんでもありません!さぁ、次はどこに行く?」



 前を見れば、義両親が仲良さげに店を見て回っていた。手にはアンジェラにねだられたものが、たくさんあって、申し訳なく思ったが、顔を見れば、満足そうに笑いあっている。



「年をとっても、あんなふうに一緒にいたいね?」

「……ジョージア様?」

「ん。俺、アンナの両親もだけど、ああやって二人揃って穏やかにこの領地で過ごしたいなって思っているんだ。まだまだ、これから、アンジェラたちに振り回されるんだろうけど……ね?」



 苦笑いをするジョージアに私も微笑む。外側の手を子どもたちと繋いでいたので、真ん中でジョージアの手を握る。驚いてはいたが、久しぶりのデートのようで嬉しそうであった。

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