第841話 とりあえず、決まりね?

 翌日からの警備の話も大詰めになった。私の護衛はさておき、ジョージアと子どもたちの護衛はやはり必須であるから、アデル、リリー、エマ、ヒーナの四人が交代でつくことになった。日中は、出歩くことや執務室にいることが多い私にもと言われたが、必要ないと断る。



「少ない警備だからね。ノクトもいつまでいるかわからないし、ウィルがいつ帰ってきてくれるかわからないから。夜は、なるべくジョージア様と子どもたちと固まっていることにするわ!」

「大旦那様と大奥様はどうされるのですか?」

「それぞれ護衛がついているから大丈夫よ!」

「いらっしゃるのですか?」

「そう、いつもつかず離れずいるでしょ?」

「執事と侍女だと思っていました……」



 苦笑いをすると、セバスは察してくれたようだった。



「なるほど……デリアさんみたいな感じですね。護衛もできますものね」

「ちなみに、その、護衛も出来る侍従は、どうやって?」

「幼いうちに雇った場合とか、似合った運動能力があれば、ディルが教え込む感じかしらね?残念ながら、ローズディアも全てが綺麗な場所ではないわ。そういう場から、稀に自身で出てくる場合があるのよ。それを狙って、かな?当家の侍従になりませんか?って」

「……そんな感じでです?」

「私も詳しくはないんだけどね……命の危険もあるっていうのは、もちろん提示するわよ!それでも、お給金がいいから、メイドや下男をする人が多いわね」

「そうやって、最下層から抜け出しているものがいるなんて……」



 知らなかったとセバスは驚くばかりである。逆にイチアは難しい顔をする。



「インゼロ帝国では、人攫いがいて、奴隷市が開かれます。その中で、目利きが見て、よさそうな子を買う。それが常識でしたから、自身で選べるというのは……」

「選べると言っても、お金を目の前にぶら下げられた状態で、するしないの選択って難しいわよね。食うや食わずの子からすれば、そのお給金があれば、ご飯をたらふく食べられるという知識だけはあるから、否が応でも飛びつく。自身のこれからが、どれほど大変かも知らないで」

「それでも、アンバー公爵家のメイドや下男はいいでしょ?教育がされているから、解雇されるようなことがあったとしても、生活する糧は自身で掴むことができる」

「確かに、読み書き計算は最低限できるよう、どの侍従に対しても勉強会を開き、できるようにしているわ!福利厚生もそこそこ充実させているはずだから、意識は高く仕事をしてくれていると思うよ!」

「独自評価方法が、確かあったね?」

「面談ね!」

「面談?」

「そう。年に何回か、一人一人面談をするの。ごく短い時間だけど。今は、頭とつく上役がしてくれて、報告をしてもらっているんだけど……王都の屋敷にいた頃は、私がしていたわ!」

「面談のときは、えらくみながそわそわしていたよね。ディルまで、少しソワソワしていたんじゃないかな?僕が思うに、時間は取られてしまうから大変だと思うけど、なかなかいい方法だと思う。一般教養としての読み書き計算もだけど。僕の父の領地では、そういうのは、全然。だから、代々、子どもたちは親の職業かそれに関係する職業にしかつけないんだよね。本来なら、もっと能力があったかもしれない子でも、学ぶ機会がないから、他になれないんだ」



 私とイチアはセバスの話に頷く。どこの領地でも、代々親の仕事を受け継ぐことが多い。それは、セバスが言ったとおり、一般教養としての読み書き計算を教えてもらえないからということもあり、農家が商人になるのは難しかったりする。逆もしかりではあるが、比較的、給金の高い職業につこうと思えば、読み書き計算と礼儀作法なども身につけないといけない。自力で辿り着く子もいるが、なかなか難しい世の中ではある。



「そういえば、人口が増えているという話をしたよね?」

「えぇ、聞いたわ!それが何かあるの?」

「アンバー領では、読み書き計算を学べる場所があるとか、知識を得ることができ、領民になれば、今いる領地よりずっと楽に生活ができると思っている人が多いみたいで、学校の方が、子どもたちに教えたいのに、なかなかそれが難しいという話が出てきていたね」

「いい傾向だとは思うけど、子どもたちの学ぶ場所や機会を奪わないで欲しいわ!」



 人口増加、一般教養や専門知識を学ぶ機会が多いと、領民が増えていることは確かだ。元々アンバー領で住んでいた人も、戻ってきているものもいるらしい。ただ、戻ってきても、戻れる家は無くなっていることが多いので、自分の家だと主張して無断で住み始める人もいたりと、少々問題も起きている。



「とりあえず、決まりね?護衛は、あとで通達するわ!調整はリリーに任せる形で」

「そのように。子どもといえば、レオ様やミア様はどうされるつもりですか?」

「そうなのよね……」

「どうして?」

「間違って襲われることもあるかもしれないじゃない?今回、ジョージア様は実際間違われて襲われたのだから。二人のことも考えないといけないわね……」

「昼間は、子ども部屋でいるので、大丈夫だとは思いますけどね!」

「問題は、夜ね……」



 これが片付くと、あっちに問題。あっちが片付くと、そっちに問題と、無限に仕事がわいてくるようで、ウンザリしてしまった。

 領主の仕事……と心の中で考え、頑張ろうと呟いた。

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