第837話 やっぱりねぇ?

 うーんと唸っているとセバスも部屋に入ってきた。



「アンナリーゼ様、昨日刺客に襲われたって?」

「それは、なんだか少しだけ違うわ。私が狙われたのではなくて、ジョージア様が狙われたの」

「……どうして?」

「どうしてかしら?」

「……やっぱりねぇ?」

「何?」

「ジョージア様が公爵として、爵位を得たままのことで、今、賛否両論があるんだよ」

「それ、初めて聞いた話だわ!」

「パルマから聞いた話だから、確かだと思うけど……先日、公が、病の終息のために城へ呼んだのがアンナリーゼ様だったでしょ?」



 えぇと頷き、セバスに話を促す。心得たと教えてくれるので、聞き入っていた。



「アンナリーゼ様が呼ばれたことをよく思わないある公爵が、爵位を持つジョージア様が何もしていないと言い出したんだ」

「……格好だけみればそうなるわよね?アンバー領へ引篭もっていたし、子どもたちの安全確保のために残ってもらっていたから」

「そうなんだけど、世間はそう評価してくれないんだよ。貴族位になれば、国からいくばくかのお金が出るだろう?それを理由に辞退するべきとか、アンナリーゼ様を繋ぎとめておくには必要だとか、まぁいろいろ言われているんだよね。アンナリーゼ様が目立ってしまっているから、お飾りの公爵に見えるんだ」

「ゴールド公爵も最近大人しくしていると思ったら、とんだたぬきね?ジョージア様含め目の上たんこぶである私を排除したいんでしょ?」



 はぁ……と盛大にため息をつく。わかってはいるが、面倒だ。相手にしなくてもいいのなら、政敵と言っても過言ではないゴールド公爵とは関わりたくない。これから、嫌というほど、戦うことになるのだ。今は、領地の底上げをして、対抗出来るすべを磨いているところなのに、邪魔をしてくる。さすがといえば、さすがなのだろう。



「ジョージア様の爵位を無くすわけにはいかないわ!公に脅しをかけてもらいたいんだけど……公の脅しより、ゴールド公爵に脅される材料の方が多いのが悩みの種よね……」

「そこは、肯定も否定もしないよ。ただ、今言ったように、ジョージア様の爵位は、血筋から正当なものと認められているものだからね。覆すことは難しい」

「……だから、刺客なのかしら?」

「どういうことですか?」



 セバスとの話に割って入ってきたイチア。心当たりはあるだろうけど、話すことにした。意思疎通はしっかりして、情報を共有しておかない、イチアやセバスが狙われる可能性もあるのだ。



「ジョージア様は、ローズディア公国の公族です。爵位も公を冠しているのは、そういう意味というのは、わかるよね?」

「えぇ、私も元も平民とはいえ、そこは、ノクト様から微妙なバランスについては聞いています」

「三国の起こりから話すと長くなるから、アンバーの瞳を持つものが、アンバー公爵家の跡取りとなることは知っていて?」

「それは、なんとなく」

「そうなんですか?」

「ジョージア様は、ハニーローズと同じく、アンバーの瞳を持つれっきとしたアンバー公爵家の血筋なうえ、この瞳こそが、初代三国をまとめ上げた女王の系譜であることを語っているの。他の国の王族もみんな原初の女王の血は繋がっているけど、同じ瞳をもつものは、誰もいないはずよ!」

「……確かに。僕らも挨拶をするときに、まず瞳を見るようにしているんだ。アンバーの瞳でなければ、普通に接するしって感じかな」



 私はセバスに頷く。私も隣国生まれであるため、このあたりのことは、よく知らない。アンバーの瞳というのは、それほどまでに重宝されているものであり、この国の誇りでもあると誰かが聞いたことがあった。

 そんなジョージア様から爵位を奪うということは……私の力を削ぐだけでなく、上り調子のアンバー領そのものを叩くということに他ならない。



「どうすれば、いいんですかね?」

「どうもすることは、ないと思うけど。ジョージア様が爵位を無くすことはないして、どちらかと言うと、私の方が爵位を剥奪される可能性があるのよね……ジョージア様なら、爵位が無くても、今のまま領地改革を進めさせてくれるでしょうけど、公の呼び出しは、個人的なものになるから、お金をぶんどることができないよね」

「……アンナリーゼ様?」

「お金は大事よ?ヨハンの研究費だって、もぎ取ってきたんだし。いろいろとお金は使い勝手がいいのよ」

「わかっているけど……公からもらってくるって……」

「くれるっていうものを辞退はしないわよ?でも、爵位に応じてもらっているお金は、私もジョージア様ももらっていないのよね。その分、アンバー領に還元出来るものを買ってくれと言ってあるのよ。例えば、葡萄酒とか」



 セバスとイチアが顔を付き合わせて驚いている。



「葡萄酒の分は、私たちへの給付金なのよ。個人資産は、ほっておいてもお金がわいてくるから、いらないのよね。そのぶん、領地にお金を使ってもらった方が、領地の経済が回るからたすかっているのよね。あとは、公共工事である街道作りなんかにも、お金をもらう予定だから……」

「どれほど、公から、お金をぶんどっていることか……」



 大きくため息をつく二人。私も領地への投資は結構な額を入れているのだが、領地を出れば、そういうことは広められているので、知らない人からしたら、反発が起きるのかもしれない。



 仕方がないなぁ……と呟き、顔は満面の笑み浮かべるのである。

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