第814話 義母の付き添いⅢ

 カルアに会いに行った帰り、馬車までサラおばさんに見送ってもらった。今日は視察で来ているわけではなかったので、お互い麦畑等の話はせず、もくもくと歩く。サラおばさんが最後尾にいて、後ろから義母を見つめていた。



「大奥様」

「どうかしましたか?」



 振り向く義母は、立ち止まり、サラおばさんに向き直った。



「今日は来ていただき、ありがとうございました。私たちは、カルアからの手紙でしか大奥様を知ることは出来ませんでいたが、とても大切にしていただいたことは、その手紙からも十分に感じていました。村娘であったカルアを立派な公爵家の侍女という仕事を与えていただき、ありがとうございました。感謝いたします。

 そして、今日、お会いでき、話をさせていただけて嬉しく思います」



 義母は、優しく微笑んでサラおばさんの手をとった。



「こちらこそ、カルアにはよく勤めてもらいました。ありがとう」

「大奥様、もう、お会いすることはないかと思いますが、お元気で……」



 そのまま、手を離し馬車へと向かった。その後ろ姿に頭を下げるサラおばさんの姿がとても印象てきであった。

 私も義母の後を追い馬車へ乗る。馬車が走り始め、少ししたころ、車窓を見ていた義母が口を開いた。



「アンナリーゼ、今日は一緒に来てくれてありがとう。カルアとは、最後のお別れはしたのだけど……どうしても、実感がわかなくて……小さな骨壺を見て、あぁ、カルアはいないのだなと、初めて実感したわ」

「……お義母様」

「ごめんなさい、アンナリーゼを責めているわけじゃないの。私がもっとカルアのことを見てあげれていれば……こんなことにはならなかったのにと思うと、やるせなくて。カルアは、私にとっても娘のような存在だったのよ」


 寂しそうにする義母は、何か心に抱えているのだろうか?その視線の先に何をうつしているのかはわからなかったが、次の言葉を待つ。この先、義母が言葉を績ぐのかはわからないが、私でよければと思う気持ちもあった。

 しばらく馬車が動いたとき、車窓を見ていた義母がこちらに視線を向けてくる。



「アンナリーゼ、帰ってから、時間があるかしら?」

「えぇ、時間はあります。今日は、1日あけてもらってあるので」

「そう。なら、昔話に付き合ってくれるかしら?」

「わかりました。お義母様のお部屋に伺いますか?」

「アンナリーゼの部屋がいいわ!ジョージアも旦那様と一緒に領地へ視察に出ているから、まだ、帰ってこないでしょ?二人で少し話がしたいの」

「えぇ、大丈夫ですよ!聞かせてください」



 その後、屋敷に着くまで無言になった。それぞれ着替えを済ませ私の部屋でお茶をすることを約束し、義母は客間へと向かう。



「リアン、お義母様と二人だけでお茶をすることになったわ。用意してくれるかしら?」

「かしこまりました。ドレスも用意しますね」

「お願いね!」



 それだけいうと、私は自室へと向かい、リアンはメイドに指示を出している。その間に、着替えるための部屋着を選んでいた。



「大奥様とでしたら、こちらはいかがですか?」



 春を連想するような温かみのある薄いピンク色のものをリアンは選んでくれた。それに袖を通し、整えてもらいしばらく、義母が訪ねてきた。

 部屋に通してかけてもらう。



「アンナリーゼの私室は、華美ではないのね?」

「寝に帰ってくるだけですから……本当は、執務室にベッドを置きたいくらいなのですけど……ジョージア様がそれだけは許してくださらないので……」

「それは、そうでしょう。アンナリーゼは女性ですよ。誰でも出入りのできる執務室で眠るだなんて!」

「いえ、そうではなく……この部屋、基本的にジョージア様と二人で使っているのです。

 執務室にベッドを置くと、ジョージア様の元へ帰ってこないからダメだと言われました」

「本当に……もぅ。いつまでたっても、ジョージアはアンナリーゼなのですね。羨ましいような気はしますけど……母親としては、複雑ね?」



 クスっと笑う義母の前に、アンバー領の高級茶葉で入れたお茶が置かれる。香りがふわっと広がり、さらに義母の頬が緩んだ。



「やっぱり、このお茶は美味しいわね。もっと早くに気が付いていたら……と何度も思ったものよ」

「今は、ハニーアンバー店でも扱えるほど、良質な茶葉がたくさん取れるようになりましたから、領地の資金源を担っています」

「そう。目の付け所がやはり違うわね」



 一口飲み、ほぅっと息を吐いた。リアンには目配せをして部屋から出てもらい、義母と二人だけになる。



「ごめんなさいね。忙しいアンナリーゼの時間を取ってしまって」

「いえ、イチアとは話をして、お義母様と話をする時間も作ってもらえるよう調整していますから、大丈夫ですよ!」

「ありがとう」



 何から切り出したらいいのだろうと、悩んでいるような素振りを見せる義母。その様子は珍しく、私は待った。

 すると、少し間を開けてから、落としていた視線をこちらに向け頷く。

 話す内容を決めたような瞳をしている義母に私は微笑み返す。

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