第656話 お呼びし
公都に戻り、いつもの生活に戻った。
朝からレオとの剣とダンスの訓練をして、ミアの淑女レッスンを終えたところで、朝食を食べる。
最近、アンジェラがレオの訓練とミアのレッスンを見に来るようになった。エマに手をひかれというより、アンジェラがエマの手をひいてだ。
興味を持ったらしい。今日は、アンジェラも呼び、ミアのレッスンに混ぜてみた。
おもしろいことに、この二人には相乗効果がある。
アンジェラがミアをマネするので、ミアはよく見せようといつもより頑張っていた。
「ふふっ、おもしろいわね!」
「何がですか?アンナ様」
隣で見ていたレオが不思議そうにしている。説明をしてあげると、なるほどと頷いた。
「レオも混ざる?アンジェラにいいところ見せてあげて欲しいのだけど!」
「……」
「あら、混ざりたくない?レオは、ウィルの息子だからね!大きくなればなるほど、サーラー伯爵の子どもとして見られるようになるわ!そうすれば……ほんの少しの隙も見せられなくなるわよ?今のうちに基礎をしっかりしみこませておいた方が、デビュタント以降も諸侯に舐められない。ウィルの自慢になるでしょうね!」
「父様は、わりと緩いですよ?」
「領地にいるときと屋敷にいるとき、訓練場にいるときしか、知らないでしょ?社交界にでれば、それなりにウィルも貴族をしているわよ!サーラー子爵より爵位は上ですからね。貴族順位が上がれば上がるほど、きちんとしないと舐められるのよ!」
「アンナ様もですか?」
「私?」
「いつも、自由に領地を駆け巡ってらっしゃるから……」
「次の謁見、一緒に行きましょうか?」
「謁見にですか?」
「えぇ、ウィルがいる世界に連れて行ってあげる。と、言っても、謁見で会うのは、公と宰相くらいでしょうから……また、ちょっと違うのかもしれないけど!」
頷くレオに私は微笑む。そういう世界も見ておくのはいいだろう。世代的にいえば、公の子どものうち、誰か付きの近衛となるだろうから。
私とレオは、謁見の日の約束をし、アンジェラとミアのレッスンに混ざる。
兄のレッスンにも参加していたので、実は男の子の方のマナーレッスンも出来たりする。ところどころ注意をすると、驚いていた。
「姫さんはさ、うちの子どもも完璧な紳士や淑女にしてくれるの?」
「ウィルっ!久しぶりね!」
「あぁ、おかえり!話があってきたけど……レッスンが終わってからだな」
「ただいま!えぇ、完璧にしてみせるわ!それと話って?」
「朝ごはん、食べたあとでいいよ!どうせ、もう少ししたら、公からの呼び出しもあるんだろ?」
「そうなのよ!その日、レオも連れていくから、正装を用意しておいてくれる?」
「へっ?レオを連れていくの?……レオが行きたいならいいけど……子どもの前でするような話はしないよね?」
「たぶんね!それも含めてお勉強よ!」
朝ごはんにしましょうかと手を打ち鳴らすと、レオがアンジェラの手をとり、ミアが父様っ!と飛んできた。
相変わらず、ミアを溺愛しているのか、抱き上げてよく頑張ったなと褒めている。嬉しそうに頬を緩ませているのはミアだけではない。
「そういえば、アンジェラは、ウィルを卒業したの?」
「うーん、そういえば……最近、ちょっと冷たい」
寂しそうにいうウィルにミアが甘える。
あぁ、これをみたら……割って入れないわね……
娘の気持ちを察したというか……うん、なんか、ちょっとホッとしたと思いなおすことにした。
朝食を食べ終え、私のウィルは執務室へ移動する。机の上には今日も処理待ちの手紙が山のようになっていた。
「すごいな……手紙の量」
「いろいろと報告してほしいことがあるから仕方がないわよね?」
「手伝おうか?」
「お願いできる?」
「あぁ、いいぞ。そうだ、話、話」
「なんだったの?」
「姫さんの周りをウロウロしてた刺客ね、さっぱりいなくなったでしょ?」
「えぇ、パタッといなくなったわね」
「今ね、南の方がヤバいの知ってる?」
「麻薬よね?」
「それだけじゃないらしいね?伝染病っていうの?すごく爆発的になる人が多くて、対処出来ないでいるらしい。刺客ってさ、まぁ、南の方の影の部分から生まれることが多いんだけど……そういう人物たちから先に伝染病に罹って、人員確保が難しいみたいだよ?」
「詳しいわね?」
「南の情勢に詳しいヤツが言ってたからさ。鵜呑みにするつもりはなかったんだけど……どうも、南の方は、栄えていたのに一変したらしいな。投資の方は、大丈夫なのか?」
「えぇ、それなりに危ない橋を渡るようなところには、ちゃんと目をつけているわよ!本当に健全なところしか手は出してないわ!」
なら、よかったというウィル。1つ1つ封筒を開いて行ってくれているのを横目に私は開いて読んでいく。
公からの召喚状である。ただ、私が公都にいないことも知っていたので、公都に戻り次第5日後に登城するよう書いてあった。
内容も書かれていたが、伝染病の治療法について、城では調べきれないという内容であった。
「何、ニンマリしているんだ?」
「ん?人の弱みに付け込むのは、本位ではないけど……」
「なるほど、金の匂いがする……そんな話か?」
「そういうこと。コーコナ領で伝染病が流行ったのは知っているかしら?」
「あぁ、それは報告書を読ませてもらった」
「同じ病なのよ!」
「でも、あれって……インゼロで定期的に流行るやつだろ?それが、なんで?」
「麻薬と一緒に病気も入ってきたのよ!人身売買をしているって噂も絶えないのよね」
「インゼロから伝染病の人間を買った……そういうことか?」
「えぇ、ちゅんちゅんがいうには……大層美人なお姉さんが数名入ってきているらしいわよ!」
「……それは、花を愛でる的な?」
「そう、花を愛でる的な。中に、私と似た人物までいたらしいのよね!結構な人気ね?私も」
「あぁ、それは、姫さんをどうこうしたいやつらがって話?」
「そうみたい。紫の瞳の人物って、かなり少ないから……どこかから、かどわかしてきたのだろうと思うけど、私と同じようにストロベリーピンクに髪を染めさせてるらしいわ!」
「なんて、危ない趣味の持ち主なんだ!姫さんだなんて……」
「私じゃないわよ!私に似せた娼婦……もしくは奴隷ね。生業としているなら、いいけど……攫ってきたのなら、許せないわね!」
「この国で、人身売買は禁止だよね?」
「えぇ、そうね。それでも、根深く残ってはいるし、買われた女の子が寵愛を受けていい生活をしている場合もあるけど……大半がそうじゃないわね」
「女の子が多いのか?」
「そう。だから、アンジェラやミアは、私と近いところにいたから狙われていたのよ」
「胸糞悪い話だな。もし、嬢ちゃんとミアに何かあったら、殺して下さいというまでいたぶって……」
「そういうのは、ウィルに似合わないわ!そうならないように、子どもたちは、しっかり守りましょう。領地も含め、今後はもう少し目を光らせるべきね?」
公からの召喚状をしまい、明日の昼から向かうと返事をした。もちろん、そこにはレオを同伴とし、ウィルとセバスの召喚を書いておく。
明日からも忙しくなりそうねと呟くと、どこまでもお供しますよなんて茶化されるのであった。
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