第631話 桃色女神は、看護師さん?
「アンナさーん!こっちにお願いします!」
「はいはい、今行きます!」
「こっちにも!」
「終わったら向かいます!」
長雨の影響で流行り始めた伝染病。その流行っている村にやってきた。今のところ、今いる村と隣の町で収まっているのは、ヨハンが往来をとめてしまったおかげだ。
私は、ヨハンの助手として、この村に入った。アンナさんと言われ、いち助手としてついていったのだが、みなが領主だと気が付いているだろう。
「領主様……」
「どうしたの?」
「おっかぁが……」
「ヨハン、この子のお母さんが!」
「わかった、行きます!」
クルクルと動き回ってくれているヨハン。ノクトと一緒に薬草を採ってきてくれたおかげで、ヨハンの助手たちが、薬を作ってくれている。
「どこ?嬢ちゃんのお母さん?」
「……うん」
「連れて行って!」
泣きべそをかいている女の子は、ヨハンの手を取り走っていく。
「この伝染病は、基本的に子どもにしか移らない。ただ、まれに大人にうつる
こともあって、そうすると、症状が重くなる可能性があるんだ」
こちらに来る前に、ヨハンから伝染病の話を聞いた。なので、女の子のお母さんが伝染病になっていたら……症状が重くなるかもしれない。
神に祈らない私でも、無事に直ってほしい……そう、祈らずにはいられない。
「アンナさん、こっちに!手伝ってほしいです!」
「今、行きます!」
私は、一か所に集められた患者たちの真ん中を走り回っている。
「あっ、あのときのお姉さん?」
声をかけられ、振り返ると、コーコナへの視察途中に女神だと言ってくれた女性だった。手伝ってくれているようだ。
「お姉さん……女神の話をしていたときの!」
「久しぶりね!、ヨハンからあなたも伝染病に罹ったって聞いていたのだけど……
大丈夫だった?」
「えぇ、おかげ様で……的確な処置のおかげで、重くなる前に治ったの!」
「それは、よかったわ!」
「アンナちゃん、こっちも手伝っておくれ!」
「今行きます!」
「……アンナちゃん?」
目の前のお嬢さんの目はみるみる見開いていく。それもそうだろう。本人目の前にして、女神女神と言っていたのだ。その女神が目の前にいて、病人を看護しているのだから、ビックリだろう。
「ごめんね、呼ばれているから、行くわね!あとで、お話しましょう!」
「えっ、あっ、待って!」
呼ばれたけど……先に呼ばれた方が慌ただしくなっていたので、かけていく。
「大丈夫ですか?」
「薬を飲ませたいのですけど……拒否されてしまって……」
相手は子どもだった。なので、苦い薬は、苦手なんだろう。仕方がない……奥の手だ!と取り出したのは、飴玉だった。
「ねぇ、これ飲んだら、こっちの飴もあげるから……飲まない?とっても、美味しい
んだよ?」
「やだ!苦い薬なんて!」
「飲まないと治らないよ?お父さんにもお母さんにも会えないよ?」
「……」
「ほら、お水で一気に流し込んで!」
それでも嫌だと暴れる子どもの鼻をつまんだ。ごめんねと呟いて薬をほりこんで水を飲ませる。
手際よくすると、おぉーっと周りから声が上がった。
感心するところでは、なんだけど……と思いながら、約束の飴を口にほおりこむ。
「ほぉひぃひぃ……」
苦い薬の後だったので、余計に甘く感じただろう。
口の中で転がしている。他の子たちも羨ましそうにしていたので、約束をした。
「みんな、夕方のお薬を飲んだ後、1粒ずつあげるからね!」
「わーい!嬉しい!」
あちこちから聞こえてくる子どもたちの声。ヨハンが言った通り、子どもへの感染が多く、集められたここの場所も、子どもばかりだ。
「アンナ様、そんな約束して良かったのですか?」
「えぇ、実は、持ってきているので……私も数日前、ヨハンに苦い薬を飲まされた
ので……準備しておこうと」
「ありがとうございます!これで、飲んでくれる子たちが多くなれば……」
「早く、治るといいんだけどね……重い子もいるんだよね?」
「えぇ、でも、ヨハンさんの薬のおかげで、だいぶよくなってきています」
「ごめんね……医師が育っていないから、派遣もなかなか難しくて……」
「そんなことは、ないです。ヨハン産が来てくれたおかげで、伝染病があまり
広がらずにすんでいます」
私は、ヨハンの報告のあと、なるべく早く領地へと警戒の通知文を出し、手洗いうがい、飲み水の煮沸などできうることを徹底的にしてくれるようにお願いした。
子どもへの感染が多いことも含め、通知したことで、親たちがしっかり面倒を見てくれているのか、他の地域では今のところは出ていなかった。
あとは、この病原体がどのように発生したのか、それが気がかりであった。ヨハンは、もう少し落ち着いたら、そのあたりも調べてみると言っていたが、私は1つの仮説をたてている。
この長雨に災害対策ように人が集まっている。そこを狙ったかのようにこの国では流行ることのない伝染病が流行った。
誰かが、細菌を持ち込んだか、狙って混乱を起こしたかだ。
たぶん、井戸の水が怪しいとヨハンが言っていたので、たぶん、そうなのだろう。
「水攻めね……まさに」
「あの……」
「あぁ、お嬢さん!」
「お嬢さんというのは?」
「名前を聞き忘れてたから……」
「ロアンと申します。あの……アンバー公爵、アンナリーゼ様なのですか?」
まっすぐな瞳で私を見つめ、聞いてくるので挨拶することにした。
「アンバー公爵、アンナリーゼ・トロン・アンバーです!ロアン、先日は、楽しい
時間をありがとう。あなたも、伝染病に罹って大変だったわね?」
「いえ、治りましたので……それより、お会いしたかったです!アンナリーゼ様。
本当に……領地を出歩いていらっしゃるのですね?」
「言った通りでしょ?」
「今日は、あの男性は……」
「ウィル?ウィルは、別のところで仕事しているからいないわ!」
そうですかとなんだかホッとしたような顔をした。
それにしたって、ロアンは、目を輝かせてくる。あの日と同じように……
私は、苦笑いでそのキラキラした視線を受けるのであった。
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