第620話 せっかく、コーコナにいるのだから!

 その日から、領民や近衛の働く時間を変えた。日が昇る前から移動して、日が昇ったら昼まで作業をし、昼間の暑い時間は休憩。夕方の涼しくなってから暗くなるまでの間に作業をすることにした。

 ただし、晴れている日だけと続くのだが、こんなに晴れの日が続くとは思ってなかったのだ。もしかすると、そろそろ、また、雨が降りだすのかもしれない。



「あと少ししたら、綿花を摘む時期になるんだけど……もう、そろそろ、摘んだ

 方がいいんでしょうかね?」



 悩みに悩んでいるコットンの隣にたち、うーんと綿花畑を作りかけの仮設住宅から見渡す。黴がはえた綿花の予知夢を見たので、摘み取り時期的には少々早いかもしれないが、詰めるときに摘んでおきたいと言うのは、私としては願望としてあった。

 農家を指揮しているコットンとしては、あと数日……と言う気持ちなのもわかるので、悩みどころだが、この晴れもいつまで続くのかはわからない。



「コットン、私も手伝うから、摘みましょう。黴が生えたら、全く使えなくなる

 のでしょ?」

「はい、その部分を取り除いたとしても、すでに胞子が他にもついている場合も

 あり、そこから別の黴が生えてしまうこともありますから……使い物にはなり

 ません。アンナリーゼ様が望む品質にはなりませんので、貴族のドレスを作る

 分ができません。今なら、取れる分が多少減りますが、全くなくなると言う

 ことではありませんから……」

「うん、真っ赤になるよりかは、少々の赤字くらいなら、他でも補填出来るから。

 ごめんね。金勘定で動いて」

「いえ、それは、普通のことです!農場経営している限り、収入がないと、一緒に

 働いてくれるみなに賃金を払えないことが1番辛いですから……そうですね、

 摘み取りましょう!」

「今回は、女性たちが手伝ってくれるのよね?」

「賃金をいつも払っている農家の奥さんと話をして、そういうふうにお願いして

 います。もちろん、工事も優先しないといけませんから……」

「わかったわ!今日は、ココナが着ているから、ちょうどいいわ!ココナっ!」

「はい、なんでしょうか?」

「昼食と夕食を簡素なものでも構わないから領地の人の分も用意してと屋敷の料理

 人に言ってきてくれる?」



 私がココナに頼むと、今日のぶんですか?と驚いていたし、難色を示すのもわかる。

 でも、やってもらわないといけないのだ。



「お昼は、パンとスープだけで大丈夫よ!夜は少し、栄養のつくものをお願いした

 いわ!あと、リアンに言って、万能解毒剤を昼と夜のスープに入れてくれる

 かしら?」

「万能解毒剤ですか?」

「ヨハンが作ったものなの。解毒だけでなく、栄養剤にもなるから、みんなこの

 暑さでまいっていると思うから……」



 胡散臭そうな顔をしているが……まぁ、ヨハン本人を見ているココナとしては、そういう評価なのだろう。

 優秀なんだけど、変人ではあるヨハンだから……もう少ししたら、ヨハンもこちらに来るだろう。

 伝染病が流行っているという話もあったので、その原因究明と対処を兼ねてコーコナに呼んだのだ。



「お願いね!」

「畏まりました!では、時間もないので、さっそく。ノクト様の馬を借りていきます!」

「伝えておくわ!」



 ひょいっとお仕着せの裾を翻し、馬に跨る。身軽なココナは、馬に指示を出すと、飛ぶように領地の屋敷へ向かってくれた。



「あの、ねぇーちゃん、すごいな?」

「そうね!侍女の身のこなしでは……ないよね」

「えっ?侍女?あっ、あぁ、そうか。制服……」

「お仕着せを着ているから侍女とは限らないけど?便宜上、あのお仕着せが動き

 やすいってだけで、着ているのだから」

「何かありそうだけど、聞かないでおきます!」



 じゃっかん、ひいているコットンにニコリと笑いかけておいた。



「では、始めましょうか!奥さまがたを呼んできてくれる?」

「わかりました。では、道具も並べ……」

「道具は私がするわ!気にせず、呼びに行ってきて!役割分担しましょう!ここに

 集まってくれ……現地集合?もしかして」

「まぁ、その方が近いですから……」

「じゃあ、荷馬車で向かうわ!コットンも荷馬車で行って、奥様がたに早く声を

 かけてきて!」



 そういって、コットンと別れる。馬車の御者をしないと行けなくなったことに、少々どうしようかと考えたが、基本的に馬は賢い生き物なので、たぶん、大丈夫だろう。

 荷馬車に、道具を詰め込め、私は綿花畑へ急ぐ。すると、後ろからアデルが飛んできた。



「アンナ様!」

「アデル?」

「もぅ、勝手に何処かに行かないでください!」



 荷馬車で追いかけてきてくれたので、これ幸いと、事情を話すとそのままついてきてくれた。

 午前中の指示は終わったので、私について行くと言えば、何も言われなかったらしい。


 私は綿花畑に向かうこと、収穫を出来る限りできることをするのよと声をかける。

 アデルも手伝ってくれるようで、では、行きましょうと張り切って先頭を行く。

 他にもアデルが私の手伝いで抜けると声かけたら、良かったですね!とアデルは言われたらしい。



「とんでもないですよね!アンナ様を誰かが見張っていないといないと、危なっか

 しいですからね?」

「それ、どういう意味かしら?」

「そういう意味ですよ!」



 私をからかい、二人で荷物たっぷりの荷馬車を走らせる。

 綿花畑へと向かうと、一面に広がる白い綿花に、私は感動したのであった。

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